禁忌魔法使いの世渡り

青薔薇

出逢い

全ての始まり

「……え?」


今カシアは、アルム王国郊外の深い森の中にいた。なぜ森なのか。私の住んでいた、アルム王国の領地内ではないのか。それはカシア自身に理由がある。



この世界には、魔法が存在する。魔法が使えるのかどうかは、生まれつきの魔力量によって決まり、魔力が多ければ王国直属魔術師になるために。王国学院魔術師科を目指し少なければ学院を出て冒険者や一般国民となり生活をしている。



10歳になり、魔力測定を行った。

しかしカシアには、魔力が無かった。

魔力測定器が全く反応しなかった。

これは極めて珍しい事であり、この魔法の世界では魔力無しだった私は『無能』と蔑まれ続けてきた。


そしてついに、カシアは12の時、親に森の中へ捨てられた。森の中なら遭難したと言って死んだ事に出来るからだろう。


カシアは混乱していた。目を覚ましたら森の中だったのだ。だが、予想はついた。自分はとうとう捨てられたのだ。最近、親が異様に冷たかった。捨てる事は前から決まっていたのだろう。夜の森は暗く、魔獣の呻き声も微かに聞こえてきた。


「……うっ…ぐすっ…」


少女は今にも泣き崩れそうだった。

自分は何の罪も犯していない。出来るだけ良い子でいた。本も読んだ。勉学にも励んだ。運動だってした。人一倍努力していた。他の子よりも良い子なはず。だが、魔力が無い。その事だけで、捨てられたのだ。

…だが。


「……泣いちゃだめ。泣いてちゃだめだ。こうなるのは分かっていたはずでしょ。私。」


涙を浮かべた目を必死に擦り、そう決意した。


そこからの生活は、過酷だった。

まだ本でしか読んだことがない世界。スケールが違った。でも、その1人の少女は決して諦めなかった。必死に環境に慣れようとした。


「この草は…確か毒は無いはず。こっちの草は薬草に使う。」


「この木、ユスダケが採れるはず。…あった。」


「この木は枝が太いから夜はここで越そう。」


「ここに本で見た簡単な罠を仕掛けて…よし。」


………


「よーし。初日にしてはいい感じなんじゃないかな。」


カシアの前には、食べられる草、栄養価の高いキノコ、小動物の肉が置かれていた。

これらの事が出来たのは、魔力が使えない彼女なりの努力の成果であり、少女自信も無駄ではなかったと実感する。


「でも…お肉が少ないなぁ…いや。文句をいっちゃだめだ。」


カシアは自分を律し、目の前の材料を軽く火で炙って食べた。味は素っ気なかったが、腹は満たされた。腹を満たしたところで木に登り、就寝の体制に入る。


「これから、毎日この生活が続くのかぁ。」


そんなことを呟き、慌てて口を塞いで目を閉じた。


と、そんなときだった。木が揺れ始めた。

地震などではなく、明らかに生き物によって揺らされていた。


「な、なんなのこれ!」


必死に木にしがみついて難を逃れたカシアは、恐る恐る下に目線を向けた。


「……っ」


下には、狼の形をした魔獣が三匹いた。

その魔獣は、木に向かって爪を立てていた。


「なんで…出来るだけ跡は消したのに…」


カシアが読んだ本では、跡を消す事が大事だと書かれていた。しかし、焼いた時の匂いは、そうそう消せるような物では無い。肉を焼いた隣の木の上で寝ていた為、気付かれれた。


「なんで気付いてるのっ」


カシアはとても焦っていた。向こうは人とは気付いていないようだが、木の上に小動物が迷い込んだと間違えているようだ。


「どうしよう、どうしよう……!」


と、焦ってポケットに手を入れていたカシアは、捨てられる前に家で入れてあった隠れて食べるための木の実を思い出した。


「これでどうしろって言うの…!」


瞬間、カシアはある事を思いついた。が、あまりにも不確定要素が多く、綱渡りだった。


「…これしかない。」


カシアは覚悟を決めた。

木の実を魔獣に投げつけた。幸い、カシアはまだ小さいので、木の枝に隠れられている。

そして、魔獣がこちらを向いた瞬間、残りの木の実を自分から離れた所に一気に投げ放った。


「………よしっ釣れた!」


魔獣が木の実に夢中になっている間に、彼女は素早く木から降り、その場を去ろうとした。

だが。


パキッ


「…あっ」


カシアは木の枝を踏みつけた勢いで折ってしまった。魔獣はその音に気が付いたのか、こちらを見た。その後、こちらへ一斉に向かってきた。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


必死に逃げるカシアだったが、魔獣の方が早かった。


「来ないで!」


咄嗟に拾って投げた石が先頭の魔獣に当たり、一瞬距離ができた。その間に、カシア程の少女が一人通れるくらいの道に逃げた。


「はぁっ…はあっ…げほっ…」


咳き込みながらも間一髪で逃げ切り、安堵していた。だが、逃げるのに必死で、ここがどこなのか分からなかった。


「…ここは何処なの…まさか迷宮?」


この世界には、迷宮という物が存在している。

冒険者を生業としている者は、迷宮探索や魔獣討伐などをしながら生活している。

カシアはここが迷宮なのではないかと思い、少し迷ったが進んでみる事にした。


「何ここ…何も無い…」


その迷宮らしき所には、なにもなかった。

人工的に作られはいないものの、明らかに人為的に掘られた穴が続いていた。途中の道は、土から石に変わっていた。


「…あ、何かある…けど」


奥に進んだ所で、カシアは本らしき物を見つけた。石の柱に浮かんでいて、少し怪しげな雰囲気だ。


「こんな所に本?なんで…」


少し興味が湧き、読んでみることにした。

本を手に取り、本が浮いていた柱に腰をかけた。


「題名は……禁忌魔法?」


カシアは固まった。禁忌魔法というのは、大昔に一人の魔術師が生み出した魔法の呼称の一つで、禁忌魔法は多岐にわたって存在する。だが、そのどれもが使用を禁止されている。

それほど禁忌魔法は危険だと昔から言われている。


「これ…読んでもいいのかな。」


最早好奇心が抑えられないカシアは、その本を1ページめくった。1ページ目の真ん中には、何かが書いてあった。





『魔の力を持たざる者よ。』


『本を手に取り、運命を破れ。』

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