もしもゼロからやり直せたとしたら
秋風のシャア
もしもゼロからやり直せたら。
突然のことだった。嵐は突如にして吹き荒れ一夜にして多くの者の命を消し去った。
死者測定不能。これが今回の戦火がもたらした結果だ。
多くの者が新たな門出を楽しみに期待を胸にし翼を羽ばたかせる今日は4月9日。ともあろうに桜並木が連なる神田宮には黒服に身を包んだ人の長蛇ができていた。その流れに沿って進む先には大きな白い木造の建物。
祭壇の前には多くの人の写真、供花が添えられている。
一般人から陸、海、空の帽章の付いた者。立場は違えど目的を同じにした皆の悲しみの渦が蔓延る。
黙祷。
スピーカーを通じた追悼の意に街は静寂へと移り変わり、重々しい雰囲気が街を国を包みこむ。
同刻、
陽の光に照らされた海が見える
緑の芝生に彩られた広間にて
車椅子に乗った少女が海風に長い黒髪を揺らしながら砂利の舗装路を進んでいた。
こちらにも家族で来ている者、一人で来ている人と多くの人が集まっていた。
彼等は一様に慰霊碑の前に足を止める。
少女もまた、そこでブレーキをかける。そして、石に刻字された文字に目を通した。
違う、これでもないと無数の慰霊碑の前に行き同様に探す。
そして、とうとう見つけてしまった。
司瑠星斗架
その名を見た瞬間、目を動かすのをやめた。
瞬き一つせず一点を見つめる。
暫し時間を忘れたように停止する。
その時、斜めから風が吹き付ける。
少女は風の方へと目を向けた。
微動だにしない表情は崩れ
小声で
「トウちゃん…。」
と反芻する声は可愛らしく
少しばかり二重に潜む目が輝き、何かを呟く。
あまりにも儚い目で辛そうに天を見上げた。
「いいのかい。会わなくて」
「あぁ、いい。」
結論から言うと、それが間違いだった。
僕にそういうこちらの白髪、白い瞳をした女の人。いや、見た目は子供だが。これが僕の神様となった方だ。おもむろに神様という単語を使うのはあれだが、本人がそう言っているのだから、そういうのがもっともなのだろう。本人はあれでいて期にしているのだろう。大人ぶった口調で話すことがよくある。
「本当に、ねぇねぇ本当に」
「いいんだよ。僕なんかいないほうが、そう、それが花麗のためなんだ。」
「 可愛そうなのだ。だから会うのだ」
「 会わない」
これが、僕の過ちだ。
形だけの線香をあげながら呆然と自室にこもり過去を思い出す。
赤と黒が混じった不気味な空は血を想像させ身の毛をよだたせ、昼夜の判別さへ許さない。電池で動く時計のみが時の流れを教えるが、電池がなくなれば時間すら奪われてしまうだろう。
薄暗い街に人の気配はなく。無造作に空き缶やら看板やらが地面に転がり落ちている。
排水管の故障で水溜りが至る所にでき、匂いも酷い。生臭い匂いが辺りを覆い公害が起きている。
世界は大きく変わった。悪い方に。
結末がこうならやらなければ良かった。
「うぅん」
来る日も来る日も自室に籠もる日々。どうでもよくなっていた。全てどうでもよくなっていた。
チャイムがなった。もう、何年もなっていなかった。出る気などなかったが何度も何度もしつこく鳴り響く。酸素濃度も薄く、食糧もない地に生存しているものなど誰一人いないはずなのに。
仕方なく重い腰をあげた。不用意に外を確認せず開けたのが間違いだった。
そこにいたのは僕の肩程の背のよく見知った顔だった。そう神様がそこにはいた。
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