第4話 アリーチェ

 ミリアムと朝抱き合った状態で目を覚ました。



「サトウ様……ごめんなさい……私……」



 ミリアムの口を閉ざすようにキスをして体を撫でてやった。


 鍵のかかったドアを子供達が叩く音がする。



「いけない。子供達が……」



 急いで服を着てドアを開ける。



「ミリアムー、お腹すいたー。ごはんにしよー。」


「はいはい、まっててね。」



 体を透明化させた俺は部屋を出てから、透明化を解除して食堂に入る。


 野菜を切るミリアムと交代して野菜を切って、鍋に入れていく。子供達は自分で火の番をしたり、使ったまな板を洗ったりを自発的に行い、手伝ってくれている。



「サトウ様、ありがとうございます。」



 スープを飲むミリアムを眺めながら自分の分の食事を子どもたちにあげた。子どもたちには食べ終わると食器を片付けて、洗い物まで手分けして終わらせた。


 子どもたちの布団を干したり、洗ったりするミリアムを手伝ってやる。



「サトウ様、ありがとうございます。助かります。」



 笑顔でお礼を言うミリアムは本当に綺麗だ。


 その後、商業組合に向かった。



「いっいらっしゃいませ!」



 ドアを開けた途端に待っていたかのように店員が声をかけてきて、昨日とは違う個室に案内された。


 個室は昨日よりも広く、ふんわりとしながらも沈み込まない座り心地の良いソファーが置いてあった。ソファーに腰掛けるとすぐに紅茶とお菓子が出された。随分と待遇がいい。


 案内をした職員と、紅茶を出した職員が部屋を出ると同時に、昨日の組合長と若い女性が向かいに座った。



「サトウ様、ようこそいらっしゃいました。このアリーチェをサトウ様専属にしたいと思います。」


「アリーチェと申します。サトウ様の専属で今後、お世話になります。どんなことでもご相談ください。必ずご期待に応えてみせます。」


「そうですか。よろしくお願いします。」



 どんなことでもか、期待させる。



「早速ですが今日はこちらを引き取ってもらいたくて伺いました。」



 俺は収納の指輪から掌の上に出した昨日見せられた1.5cm程の大きさのダイヤモンドを出す。



「確認させていただいてもよろしいでしょうか。」



 アリーチェはこれまでの明るい雰囲気から一気に仕事モードに入ったようで、さっと白の手袋をはめて、胸元のポケットからルーペのようなものを取り出しダイヤモンドを凝視した。


 3分ほど静寂の中うなりながらアリーチェは確認し、こちらを見た。



「サトウ様、これ程、技術力の高いカットは初めて見ました。また、カナリンもこれまで見たどの品よりも透明度が高く、不純物も見当たりません。私どもがお見せしたカナリンとは別物のような輝きです。」


「そうですか。それではおいくらで引き取っていただけそうですか。」


「そうですね。50万シーロ(5000万円相当)でいかがでしょうか。」


「わかりました。それではその価格でお願いします。」


「ありがとうございます。」



 組合長が一度退席し、トレイに白布で目隠しをした状態で入室した。



「こちらをお納めください。」



 白布がはらりとめくられると白色っぽく輝く金貨が5列積んであった。白金貨50枚だろう。


 こちらが最初に大物のダイヤモンドを見せているからここで姑息な手をつかうわけがない。この人たちはこの組合を束ねるトップの方だ。


 目先の利益よりも、もっと先の利益を得るために信頼を勝ち取りに来る。白金貨が本物かどうか判断することはできないが、状況が本物だと裏付けている。


 組合長は僕からダイヤモンドを丁寧に受け取り巾着に入れて退室していった。



「お取引き、ありがとうございました。すばらしい品でした。今後もよろしくお願いいたします。」


「アリーチェさん、私のどんな要望にも応えてくれるのですか。」


「はい。必ず叶えて見せます。あなたの御付きにしていただいても構いませんし、私でよろしければ夜のお手伝いもさせていただきます。私のことはアリーチェと呼び捨てでお呼びください。」



 真剣な面持ちのアリーチェを真っすぐにみる。



「アリーチェ、私はこの国のことをまだよく知らないので、私の周りで色々と教えてほしい。ただ、この組合に所属する貴方を全面的に信用することができませんがいい方法がありますか。」


「わかりました。私と奴隷契約をして、私の行動を制約してください。私はあなたとの取引がなくなるまであなたのことを契約によって勝手にしゃべることができませんし、あなたを裏切る行動はとれなくなります。組合は一度退職し、出向という形にしたいと思います。」


「貴方の覚悟受け取りました。今日以上の品を10日に一度以上納品することを約束し、提示価格の10%を値引きさせていただきます。私は特殊な性癖を持っていますし、あなたにもそれを強要するかもしれませんがいいですか。」


「ありがとうございます。なんだかワクワクします。その条件でお願いします。組合長に伝えてきますので少しお待ちください。」



 アリーチェはさっと席を立ち、迷いなく部屋を出ていった。


 クッキーのお菓子と紅茶を飲みながら5分ほど待つとアリーチェがドアから入ってきた。アリーチェはさきほどまでのキッとした顔立ちではなく、優しく温和な女性の雰囲気を出している。



「お待たせしました。サトウ様、全ての手続きを完了させました。早速奴隷契約に行きましょう。」



 これほど嬉しそうに奴隷契約にいく娘がいるだろうか。これも俺を喜ばせる演技なのだろうか。深すぎて読み切れない。

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