無限の魔力で無双する異世界ハーレム生活

KArin

第1話 オークとマシンガン


 つい数秒前までは会社だったはずだが、ここはどこだ。


 周りを見渡すと木が鬱蒼と茂る森の中のようだ。俺の恰好は黒のスーツに赤いネクタイ、革靴だ。朝準備した服装のままだ。


 一瞬フリーズしたが頭を整理する。ここが森だとして、ここは安全な場所なのか。ここは日本か。


 木を見てみても見覚えのない種類の木だ。木に詳しいわけではないが少なくとも町から近い森林ではない。随分と深い山の中か、日本ではないどこかか。とっさに木の陰に隠れて周囲を警戒した。


 自分の持ち物を確認する。胸元のポケットに入っているボールペンと内ポケットの名刺、スマホ、財布くらいだ。


 スマホの電源は入るが圏外だ。つまり近くに人は住んでいないということだ。食べ物はどうする。水は?町は近いのか。動いたほうがいいのか。じっとしていたほうがいいのか。


 周りを警戒しながら様々なことを考えたが全く考えがまとまらなかった。まずは水を確保しないと死ぬ。地形的に平坦に見えるが水が集まるなるべく低いほうへと移動を始める。谷になっているなら川が流れているはずだ。


 数時間歩いたが川は見つからなかった。しかし、わかったことがある。ここは日本ではない。そしておそらく地球ではない。昆虫が見たこともない奇妙な形をしている。怖くて近づけないがさされもしたら大変だ。どんな毒をもっているかわからない。


 森の中を歩いていると自分の足音以外の足音を微かに聞くことができた。すぐに身をかがめて周りを見渡す。


 豚の頭をした身長2mほどある巨体の生き物が歩いている。全身の毛が逆立つような緊張感に襲われた。見つかったら殺される。全身が震える体験なんてこれまでしたことが無かった。


 ……いや忘れていただけだ。俺はこの感覚を覚えている。逃げたら殺される。見つかったことのことを想定しろ。現実から目をそらすな。また失うことになる。


 身をかがめながら豚頭を視界に入れ、観察する。あの巨体だ。力では間違いなく負ける。幸い武器を持っているわけではなく、全身体毛に覆われていて装備品もない。


 だが、勝てるとも思えない。見つからないようにするのが最善だ。見つかった時は命を懸けるしかない。



「ブモッ」



 豚頭は周囲の匂いの違和感を感じ取ったらしく嗅覚に集中しだした。まずいな。このままだと見つかる。豚頭はこちらに近づいてきている。



「プルルルル」



 豚頭の少し離れた場所で無機質なアラーム音が鳴り響いた。

 豚頭が一気に臨戦態勢をとり、その音の鳴るほうに身体を向けた瞬間、俺はオークの背後からなんとか手で持てる重さの岩を頭にぶつけた。


 豚頭に確実に岩はあたり、地面に転がった。俺はもう一度岩を拾い、再び豚頭にたたきつける。ゴスっと鈍い音がした。



「やった……うっ」



 何が起こった……。俺は木を背にして座っている。腹が痛い。攻撃をくらったのか。


 豚頭はふらつきながらこちらに近づいてくる。



「くそ……てめぇなんてマシンガンがあればずたぼろにしてやれるのに……」



 ずしっと手に黒い塊がのしかかった。


 俺は咄嗟に人差し指のトリガーを引いた。ダダダダっと森の中をすさまじい音が響いて豚頭は踊るように体から血しぶきをあげて地面に倒れた。


 俺の手にある黒い塊はマシンガンだ。型式とかはわからないが連射ができる。豚頭に近づくとぴくぴくと動いているが体を起こすことはできないようだ。


 どうしてマシンガンがという疑問が頭を離れなかったが、すぐにその場を離れることにした。あれだけの音がしたんだ。他の豚頭が集まってくるかもしれない。小走りで森の中の傾斜を下っていった。



「川だ……」



 幅1mほどの小川ですぐに水を手ですくい、味を確かめる。



「うまい……」



 思わず涙が出てきた。顔を洗い、頭を整理した。マシンガンは俺が望んだ時に手元に現れた。地球のものを手元に呼び出すことができた。


 高性能なナイフと念じても手元にはナイフは現れない。まさか1度きりか、何か条件があるのか。時間的条件か、知らないうちに条件を満たしたのか。マシンガンの弾数を見てみたいが外して使えなくなるのが怖いのでやめておく。


 10発撃った気がするが弾数がわからないのでなるべくモンスターに会わないようにやりすごそう。川の下流にはきっと村か町があるはずだ。人は水無しでは生きられない。


 川がぎりぎり見える位置で下流を目指して歩いて行く。人間にとって川の水が生命線なのはモンスターや獣も同じだ。川沿いに歩いては出くわす可能性が高い。


 ひたすら歩き続けたが村や町にはたどり着くことができず、夜になってしまった。夜は危険だ。寝ている獲物を捕るために活動する肉食の獣が活動し始める。


 川で匂いを落として、木の枝や葉で身を隠し、座りながらマシンガンを握りしめて夜を過ごした。


 幸い、朝を迎えることができたが、体中いろいろな虫にさされて腫れている。だが死ぬよりはましだ。


 次の日も川に沿って歩き続けた。お腹が空いた。ハンバーガーでもなんでもいい。食べさせてくれ。


 手に少しの重さを感じた。この包みは……ハンバーガーだ。

 俺は袋をむしり取りかぶり付いた。



「う……うまい……」



 肉多めのハンバーガーだったが空腹を全て満たすことはできなかった。確かに泣くほどうまかったが、もっと多いものだったらよかった。


 しかしかなり空腹は満たされた。スマホを再起動すると10時13分だ。昨日のアラームの時間を確認すると10時5分だった。24時間経過したからハンバーガーが出せたのか。


 その日はずっと次の日に何を出すか考えながら歩き続けた。


 スマホのアラームを掛けたいが無駄に電力を消費したくないので常にほしいものを念じながら歩いていた。手にずっしりと箱型の手応えがあった。



 俺が念じ続けたのは携帯カロリー食1箱だ。丁寧に箱を開けて5袋分をがっついて食べた。栄養バランスが良くて、日持ちがして、軽いことを考えてこの選択をした。口がぱさつくが川の水を飲めば問題はない。


 次の日は違う味のカロリー食を出して歩いた。何度か豚頭に遭遇したが、早いうちに気が付けばやり過ごすことができた。


 もう5日歩いている。連日歩いているため足がぱんぱんだ。しょうがないことだが、マシンガンがかなり重い。


 次の日、下流から人の悲鳴が聞こえたので警戒しながら近づいていくことにした。そこで豚頭1匹と大人が2人対峙しているのが見えた。


 川の近くには1人が倒れており、2人は剣を抜いて、豚頭に向けている。


 1人が倒されてかなり焦っているように見える。男が距離を取りながら剣で傷つけているが豚頭に致命的な傷を与えられず、吹き飛ばされた。もう一人は悲鳴をあげた女だ。


 両手に持つ剣はぶるぶると震えている。このままではやられるだろう。

 俺は豚頭の横に回り込み、マシンガンを構えて少しづつ近づく。



「×××××××!」



 女が何か叫ぶと同時に豚頭は女に向かって動き出そうとしたので、マシンガンの引き金を引いた。


 豚頭は体を何発も貫かれその場に倒れ動かなくなった。女は倒れた男に駆けより、声を掛けているが2人とももう死んでしまったようだ。



「××××××××」



 女に何か言われているが、何を言っているかわからない。女は2人を一緒に背負おうとしたが転び、泣いてしまった。2人を運びたいのか。



「俺が1人を運んでやるよ。」



 俺は2人の革の鎧を脱がせて1人を背負った。重い。これは無理かもしれない。


 女は俺よりもさらにきつそうだ。剣を代わりに持ってやる。言葉はわからないが俺に感謝しているようで笑顔になってくれた。


 しばらく歩いたが夜になってしまった。女から干し肉のようなものを貰う。



「ありがとう。すごくうまい。」



 言葉は通じていないだろうが、ハンバーガーぶりの肉の味に涙を流すと女は微笑んだ。俺のカロリー食を渡すと女は目を輝かせて食べた。まあ珍しいだろうからな。俺は干し肉のほうが何十倍もうまいと思う。


 女は何かの道具で焚火に火を付けた。原理はよくわからないが夜は冷えるため有難い。女から短剣を渡され、鞘から抜いてみると刃は所々かけていたが、ないよりはましだろう。


 マシンガンは豚頭になるべく接近し、節約して撃ったため、5発ほどの消費だった。まだ残数があると信じたい。焚火に火をくべて、うとうとしていると獣の匂いがした。


 女を起こして焚火から急いで離れると狼のような獣が8匹ほど2人の死体の周りに群がっている。死体に戻ろうとする女をぎゅっと抱きしめて抑えて、その場を急ぎ離れた。泣き出す女を引っ張りながら速足で川下に下った。


 木の近くで腰を下ろし、いつものように木や葉で体を隠して女の隣に座り、肩をぎゅっと抱いて身を寄せ合って夜を過ごした。俺が先に寝てしまったようだが女も疲れて寝てしまったようで、俺の隣で身を預けて寝ている。


 女はブロンドの髪を長く伸ばし、青色の瞳をしていて、びっくりするくらいの美人だ。女は起きると恥ずかしがったが、安心したのか身を自分から預けてきた。


 女と川を下ると半日ほどで町に着いた。長かった。7日ほど歩いたため、靴もボロボロだし、体中虫にさされてかゆく、痛い。


 町の門には槍を持った兵士が立っていた。



「××××××」



 槍を目の前に突き出されて通れそうもない。女が兵士と話してやっと通れた。何だったんだろう。女に連れられて行くと壁の破損が所々見られる建物に案内された。


 子供が何人か出てきて何か言っている。孤児院か。女に部屋を割り当てられた。固いが久しぶりのベッドですぐに寝てしまう。どれくらい寝てしまったんだろう。すっかり日が暮れているが女はどこかに出ているようで子供はもう寝ている。


 しばらく食堂らしき広い部屋で待っていると女が帰ってきた。なんだか元気がないな。女が俺の手を握り、指輪をはめてきた。



「言葉通じますか?」


「えっ……通じる!」


「よかった。私はミリアムと言います。ずっとお礼が言いたくて、私の命を助けていただきありがとうございました。」


「こちらこそ、この町に案内してくれてありがとう。俺は佐藤だ。この指輪借りててもいいのか?」


「はい、サトウ様。お礼に差し上げます。意思疎通ができる指輪です。」



 話を聞くと亡くなった2人は同じこの孤児院出身で幼い時から一緒にあそんでいたそうだ。お金に困って薬草採取の依頼を受けたそうだが、オークとよばれる豚の頭の魔物に見つかってしまったらしい。



「薬草採取以外でもっと儲かる方法はないのか?」


「はい、危険ですがオークなどの魔物を買い取ってもらう方法もあるのですが……」


「明日また、話を聞かせてくれ。」

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