閑話2 ヒノタマト
閲覧室でクラウスとのキャラクターイベントがあった日。俺たち魔法科は午後の授業で、火の球を的に当てる練習をしていた。
午前中は座学が中心なのに対し、午後は魔法科と騎士科に分かれて実技の授業となる。グラウンドにいるのは魔法科の生徒だけで、騎士科はランニングに出ていた。
魔法科のエリス先生から「なるべく訓練を止めず、的に水を撒いてほしい」とお願いされていた。的は木の棒に布を巻いただけの簡素なもので、燃える恐れがあるからだった。
俺は先生から受け取った水の魔石でバケツに水をため、等間隔に並ぶ的を眺めていた。時々、水を撒くタイミングを間違うと、体の横を火の球が通過していく。授業係も楽じゃない。俺は内心で悲鳴を上げていた。
少々怖いがいつも通りの授業……のはずが、後半で騎士科と合流すると、それ以上にぶっ飛んだ様相を呈した。
入学して一か月の今、騎士科では騎士としての土台を作るため、ひたすら筋トレと基礎訓練を重ねている。放課後、そこかしこで騎士科の連中がへばっているのは、もはや日常風景だった。それでも彼らが持つ養体魔力の作用により、夕食時までには何事もなかったかのようにケロリとしている。
いつもより半分の基礎訓練を終えた騎士科の生徒たちを、ブレク先生は的と的の間に立たせた。
「魔法科の諸君は、そのまま練習を続けてくれ」
「ブレク先生。そんな説明もなしに無茶ですよ」
ブレク先生をやんわりとたしなめ、エリス先生が説明する。
「養体魔力への変換、つまり騎士科が魔力を回復するのに時間を要する、ということは授業で教えましたよね? これは、訓練次第で回復時間を短縮することができます」
ブレク先生が引き継いだ。
「手っ取り早く言えば、魔力を消費すること。訓練すれば手際が良くなるように、魔素を魔力に変換するのも回数をこなせば、短時間でできるようになる」
上級魔法、たとえば入学式の時にブレク先生が使った剣に風をまとわせる魔法なんかは、養体魔力の消費量が多い。仮に一年生が使えたとしても、魔力切れを起こして倒れるだけだ。回復に時間もかかるし、身体に負担がかかる。それこそ昔は、魔力切れを推奨していたそうだが、今は禁止になったそうだ。
ブレク先生が続ける。
「コイツらには、自分に治癒力強化の魔法をかけさせている。魔法科の諸君には、先ほどと同様に火の球を的に当ててもらいたい。的から外れることは気にするな」
火傷をしても治癒力強化の魔法がすぐに機能するはず、とブレク先生。いつの間にか校医の先生も少し離れた場所で控えている。今回は両科とも訓練形式に慣れさせるのが目的で、次回は騎士科の連中が的になるという。
昭和でも完全にアウトな訓練だ。
的を外れ、遠くに飛んでいく火の球は、エリス先生があらかじめ張り巡らせた防御の幕に吸収される。的にもその魔法を仕込んでほしかった、と思っていたが、的の近くに人間がいる状況に早くから慣れさせるためだったのだろう。的の近くと隣では全く状況が違うが……。
授業の前半でだいぶコントロールができるようになったものの、完璧に的に当てられる奴は少ない。
「うわぁ、失敗した!」
「熱っ」
「ごめん」
「治ったから気にすんな!」
「痛いし、怖ぇ!」
「打つほうも怖い!」
「おい、どこ投げてんだ! それじゃ、的に当たるだろ」
「的に当てるんであってんだよ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎつつ訓練は続く。授業係の役目を騎士科の子に引き継いだ俺も、火の球を打った。
「やべっ」
手元が狂い、俺の球は室長の顔に向かって行った。エリス先生の魔法が、火の球を打ち消す。
「デフォート……顔に投げつけるとは、いい度胸じゃないか」
俺と同じようなモブ顔でも、室長の笑顔は怖かった。
「ごめんっ! わざとじゃないって!」
精神的にも肉体的にも疲れる授業だった。
その日は、さすがに騎士科の連中が夕食時に復活することはなく、俺たち魔法科は罪滅ぼしの意味合いを込めて彼らを介抱した。風呂や食堂まで引きずり、洗ったり、食わせたり……。毎年の恒例らしく、室長を抱える俺にカイルが「ヒノタマトだろ」と言った。
火の球と的をかけた名前らしい。
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