第22話 培った知識
マジで意味わかんない。
魔王と呼ばれたガキはおねむなみーちゃんに無視されて癇癪を起こし、いつぞやのみーちゃんと同じように雷をバリバリさせて抗議のギャン泣きを開始。
おねむだったみーちゃんはガキの泣き声で寝付けずぐずりだし、こっちも抗議のギャン泣きを開始した。
抗議に抗議でこたえんじゃねぇ。
ガキが泣いてすぐ、メルヘンな花畑に子供用のベッドが現れた。直前に男が何かしたので、多分魔法で出したベッドだ。
ベッドの上にガキを寝かせて、必死にガラガラを振り回す男。多分宥めているつもり。
「大丈夫です魔王様! 大丈夫きっと大丈夫!」
うるせえ。
ギャン泣きに音で対抗すんな。でもって多分それ年齢があってねぇ。みーちゃんより年上っぽいのに宥めるのにそのガラガラはねーわ。
思わずたたき落とした。
「なぜ」
「うるせぇ」
こっちはみーちゃんがおねむなんだよ煩くすんな。
ガキの泣き声もうるさいけどガラガラはもっとうるせぇ。
男は呆然としているが、子供用のベッドに放り込まれたガキは全身をグニャグニャ曲げながら全力で不満を訴えていた。
完全に、スーパーのお菓子売り場で駄々こねるガキの図。
実際こんな駄々こねしているガキは見たことないけど、手足をばたつかせながら脳天から声を出している。渋くて低い声で泣き喚くな。マジで不快。うるせぇわ。思わず叫び散らかしながらサビを熱唱したくなる。カラオケ行きてぇ。叫ばせて。
つーかこいつがジタバタするたびに放電するから危ねぇ。
保護者っぽい男は何度か直撃して感電しているのに、びくともしない。間違いない。こいつら人間じゃないわ。私なら無理死ぬ。
…みーちゃん、まだ大人しいほうだったんだな。
水揚げされた魚みたいにビチビチ身体を揺らしてギャン泣きするみーちゃん。落とさないように抱えながら雷が直撃している男にドン引きした。みーちゃん、泣きながら放電したことはあるけど、ちょっと焦がすだけで直撃はしたことがない。
雷が直撃した結果なんか考えたくない。
ガラガラをたたき落とされて呆然としていた男は、何度目かの雷直撃でハッと目を見開いた。見開いても目が細い。
「どうぞ」
「寝かせねーよ」
すっと手の平でガキの隣を促されたが、放電しているガキの隣にみーちゃんを並べるわけがねぇだろ。
しかし男は真顔だった。真顔でぬらっと近寄ってきた。おいこっち来んな。
目前で立ち止まった男はでかかった。いや、長かった。
多分自販機より高くて、電柱みたいに長い。
一瞬脳裏を都市伝説、八尺さまが過った。多分それくらいでかい。男だけど…。
「幼子は軟体動物。抱え続けるのは難儀でしょう。いつ落下するかもわからないので落とさないよう安置するのをおすすめします」
「安置場所が危険地帯だろうが」
安置って安全に置いとける場所のことじゃねぇの? だとしたら絶対間違っている。そこは安全地帯ではない。
「いえいえ魔王様と勇者様なら並べても危険はありません。お二人は運命。天秤の皿は平行線。どちらも優れてどちらも劣る。どこまで行っても交わらない似たもの同士。表裏一体など烏滸がましく、何があっても必ず出会い絶対に触れ合えない、同じ世界にいるのに座標がズレているのが魔王と勇者です」
「は?」
回りくどい上に飄々と語られて何一つ頭に入ってこなかった。
なに言ってんだこいつ。
「騙されたと思ってここはほら。ここにほら。丁度一人分ありますよ。ジャストフィット間違いなしですどうぞどうぞ。ひと思いにほら、一瞬ですよ」
ぬらぬら動いて無表情に駄々こねするガキの隣を叩くな。あと言っていることが不穏すぎる。
私はギャン泣きで海老反り状態のみーちゃんを抱え直し、意味わからん男から距離をとった。
この不審者、会話が通じないから近寄っちゃだめだ。
しかしギャン泣きしていたガキが離れようとする私に気付いてビャーッと更に泣き叫んだ。
「みーちゃん! みーちゃんとあじょぶ! あじょぶー!」
「あああああ魔王様お気を確かにほら飴ちゃんですよ。お好きですよねおっきなぶどうの飴ちゃん。おっきくお口をあけてください~」
「バッッッッ!!!!!!!」
ッッカじゃねーの!?
思わず駆け寄って、背後から男の膝に蹴りを入れて転ばせた。衝撃で男の手からでかい飴玉が転がり落ちる。
「なにをするんで」
「殺す気か!?」
「す、か、えっ?」
子供と関わりのない私は今まで知らなかったけど、こないだ新しく来たメイドさんに注意事項を聞いていた。
この年代の子は、なんでも口に入れて窒息死するのだと。
口に入るサイズのものは近くにおいてはいけない。
飲み込めないと油断してはだめだ。食べ物は軟らかくて、溶けやすいもの。
硬いものは小さく千切って、よく噛ませて。噛めないものは与えてはいけない。
お年寄りも気を付けろ。餅とかな。
誤嚥ってやつだ。
そんなデリケートな喉をしたガキに、しかも泣いてしゃくり上げている寝転んだ子供の口に、飴玉放り込もうとしてんじゃねーよ!! 大人でも危険だわ!!
相手は不審者だしガキも魔王とか呼ばれて不吉でしかないが、それでもガキはガキである。ギャン泣きをあやすつもりはないが、流石にこれは見逃せない。
あっという間に喉に詰まって窒息死するだろうが!
どれだけ怪しくても目の前で事件なんて見たくねーわ!
「殺す気か!!」
「えっ」
ぶち切れて同じ言葉を叫ぶ私に対し、マジで何を言われているのかわからんときょとん顔を晒す男。
私が言えた義理じゃねーけど…こいつも子守できない保護者だ!! 絶対そうだ!!
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