再会

 そう思ってとりあえず寮に戻ろうとしたのだが、その道中で本校舎の方から何やらざわめきが聞こえてくる。

 気になったので近づいてみると、


「光属性だと!?500年も見つかっていなかったのに!」

「ああ、マジらしい。属性判定石が眩しく光ったんだってよ。そんな反応聞いたことがねぇ」


(おお、光属性の適性を持った者が居たのか!素晴らしいじゃないか。今年の新入生には面倒なやつも居るが、こういう才あるものもちゃんと居るのだな。ぜひあの不遇な光属性を存分に活かすために頑張ってほしいものだ)


 そうやって見知らぬ光属性生徒に思いを馳せていると、急に周囲のどよめきが強くなった。

 疑問に思っていると、集まっていた人たちがモーセの海の様に割れていき、その中から一人の銀髪セミロング女性が現れた。


(あー、この人が例の光属性さんか。女性ってなると神聖国じゃないが、聖女とか言われたりしてな)


 光属性さんを見ながら呑気にそんなことを考えていると、光属性さんがこちらを見て固まる。緑色の瞳をしている。


(え?…何? こわ)


 ほんのりビビっていると、光属性さんが合点のいったような顔をしてコチラに来ながら、

「セグスト君だよね!?」と言ってくる。


(ハァ!?誰だ!?)


 自分に関わりのある女性は母やメイド居ないはずだ、どうなっている…。


 いや、待て…。今恐ろしい想像をしてしまった。


 セグスト君、と言って自分を呼ぶような人物を自分は一人しか知らない。

 容姿も、考えてみれば特徴がそうだ…。


 ルーナ…なのか?……うせやろ?


 ちょっと美人に成り過ぎではないだろうか!?

 …あっ!【美形】の効果ってこれなのか!?

 成長に伴って美しくなっていくとかいう効果だったりするのか!?


 いや今はそれどころではない!注目の的が俺に話しかけてくるという状況は大の苦手だ!


【魔法石生成】に至るための事件を引き起こしてくれたことには感謝しているし、何かで返せればいいと思っていたが、今じゃないぞこれは!!


 なら逃げるしか無いだろう!【完全隠蔽】ッ!【身体強化】ッ!


 最大の力で姿を消すように逃げる。


「えっ!?」


 推定ルーナの声が背後から驚いたように上がるのを聞き流しながら逃げる。

 多分、周囲も自分の姿が急に消えたように見えているはずだ。

【完全隠蔽】さんは有能だからな!


 そのまま貴族寮の近くまで行きすべてのスキルを解除する。


「…はぁ。なんでルーナと遭遇するときってこんなのばっかりなんだよ…」


 そんなことをつぶやきながら貴族寮の自室に舞い戻る。


「いやー、やっぱりこの部屋は良いな!自分ならいつでもこの部屋を拠点にしてニートになれるくらいだ」


 などと現実逃避的な事を考えながら、いつものようにベッドに倒れ込む…前に

 セグスト流『収納』術、早着替えをお見舞いして寝間着に着替えてから倒れ込む。


「そうか、ルーナが光属性さんか…」

 少しおもしろいことになったな、とは思う。

 だが、知っている人間が光属性さんとなると、色々事情を考えてしまう。


 光属性さんに対して、頑張れよ!などと考えたものの、実際のところ光属性の教本になれる存在やものがこの世界では極端に少ないのだ。


 魔法書は実体験の通りだが、光や闇の魔法について具体的に書かれた書物を自分は見たことがない。


 ここの図書館なら、あの歴史を知った後だともしかしたら少しは存在するかもとは思いはするが。


 もちろん、教員にも光属性の教師となれる存在はいないだろう。

 もしかしたら、これからルーナは光属性さんに手を焼くことになるかも知れない。


「うーん…」


 本人に強固なイメージ力さえあれば、自分のように自作の光魔法を作り出すこともできるだろうが、なかなかそんな存在はいないだろうし、光魔法の具体的なイメージを掴むために誰かの光魔法を見る、ということもおそらく出来ない。

 光属性持ちが誰もいないからな。


 まだ想像の域を出ない話だが、少々不憫になってきたな。

 せっかく光属性の適性を持っているのに、それを実際に魔法に出来ないとなると周囲の風当たりもどうなることやら。


「…なら、ルーナが本当に光属性で困っているようだったら、お返しとして手本を見せてあげるか」


 彼女はあの事件について誰にも告げなかったようだし、【魔法石生成】の件もある。


「うん。それくらいの助力は良いだろう」


 そう決めたところではたと気づく。

 ルーナも貴族だ。貴族寮に居るのだ。ちょっと遭遇確率が高そうではないだろうか?


「助力は良いけど、必要以上に話すのも面倒というか、話題が無い。やっぱ無理だ」


 やめておこう、やはり女性のことは分からないままだ。

 そこら辺は前世と何も変わっていない。いや、むしろ、プラス13年間の熟成期間もあったのだ、悪化しているのでは…?


 そう思うとますます面倒になってくる。

 ビジネスライク、ああ…なんと甘美な響きだろうか。


「…はぁ、そういえばもう夕方だし飯でも食うか」


 そうなってくると、何を食うか悩む。

 ジオレンを剥いてオークの串焼き肉といっしょに食べるか。


 リビングに向かい、テーブルの上に『収納』ジオレンを2つ出す。

 ジオレンを【ブレイク】でカットし、空間魔法の【トランスポート】で食器をテーブルの上に転送し、ジオレンを添える。


【トランスポート】は空間の基本魔法で、周辺の対象を指定した場所に転送できる。あまりに大きい物体は転送不可だ。また、逆も可能で、対象を指定の離れた場所から転送してくることも可能。

 超便利だ。


 食器の上に『収納』から串焼き肉を五本出して完成だ。

 ああ、あとコップに水魔法で水を注ぐ。

 これで本当に完成。


「いただきます」


 手を合わせて食べ始める。

 この世界でいただきますをすると、変な目で見られるため一人のときにしかしない。


 ジオレンはオレンジそのままの味で美味いし、串焼き肉も変わらない美味さだ。

 串焼き肉の油っこさがジオレンの爽やかさで中和される。

 そこに冷たい水を喉に流し込む。最高。


 もう今日は夕方だしなんだか疲れたので、魔法の開発でもして寝るか。


 ──コンコンコン


 ん?来客?ギルドで住所とか言っていないし、学園関係かな。

 いや、受付職員には学園生だとバレてるか。まあいい。


 なんの確認もせずドアを開けるなど、どこかの世界のアイドルみたいにはなりたくないのでしない。ましてここは魔法のある世界だからね。


 玄関に行き、一応ドアスコープで相手を確認する。


(ッ!?)


 危な~、もう少しで声が漏れるところだった。


 またルーナだよ。何だほんとに。

 ていうか女性は無許可で男子寮に来ちゃだめだろうが!

 規則を知らないのか、はたまた管理人に許可でももらってしまったのか?


 どちらにせよ、対応する義理はない。

 というか、下手に昔話とかに持ち込まれたら絶対にキョドるので無理。

 しっかりと居留守を敢行する。


 ───コンコンコン


 …勘弁してくれ、何で帰らない?

 管理人に自分の在否でも聞いたりしたのか?


(…【完全隠蔽】、【サイレンス】)


【サイレンス】で完全に無音になったところで部屋に戻り、寝室へ向かう。

 空間中位魔法【サイレンス】は、自分の周囲に音を遮る空間を発生させ、自分が感じる周囲の音すべてを無音にする魔法だ。


 うるさいのが嫌いな自分にはもってこいの魔法だったから、速攻で作った魔法。


 さて、このまま無音空間で熟睡と行きますか…。

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