Case.48 準備が順調に進んでいる場合
文化祭の準備は着々と進んでいる。
材料の買い出し。小道具作成。実行委員として当日の仕事確認。あと氷水の失恋更生。
あっという間に二週間が過ぎてしまった。
主軸はしっかりと固まっている上に、みんな面白そうなアイディアを思い付くから、日が進むにつれて作業量が増えていく。
毎日、最終下校時間ギリギリまで作業して、そのまま買い出しに行ったり、家に帰っても小道具を作ったりと、とにかくやることは多い。
休日も返上して、まだまだ終わっていない作成物のために、朝から学校に行き作業もした。
他にも数人手伝ってくれる人がいたが、ほとんどは午後から部活があるので途中でいなくなった。
けれど、午前だけでもだいぶ作業は進んだわけだし、部活で忙しい人も俺が補助すれば振り分けた仕事はしてくれるから、文化祭までにはなんとか間に合うだろう。
実行委員の仕事もさらにあって、なかなか忙しいけども、クラスメイトと話せるようになってからは毎日が楽しい。
最初は乗り気じゃなかったし、勢いで実行委員になったけど、頑張った上にこのような結果がもたらされるなら引き受けてよかった。
──文化祭までは残り一週間を切った。
今週末はとうとう本番だ。
最後の日曜日も数人と学校で作業をして、今帰ってきたところだが……今夜は久しぶりにゲームでもするか。
自分の好きなことをするのが、良いリフレッシュになるしな。
ゲームはハード問わず色々やっているが、なんとなくPCゲームの気分だった。するならSMFかな。
大人気オンラインRPG〝ソードアンドマジックファンタジー〟通称SMF。王道ファンタジーといえばこの作品だ。
高校生なので無課金だが、その中ではなかなか強い方だと自称する。
一時期これしかしないほど熱中し、プレイ時間を積み上げてきたのもあるが、それだけではない。
〝バディ〟と呼ばれる、いわゆるフレンドの上位互換である相方の強さが関係している。
今日はいるかな……お。
「おひさっす。ログインしてたんすか」
『おひさはこっちのセリフだにゃ。もう二ヶ月もログインしてなかっただにょー。ま、理由はなんとなく察してるけどにゃ笑』
〝バディ〟の
二年前に知り合い、チャットしているうちに意気投合した。
重課金者の彼女はSMFの高ランカーとして名を馳せた人であり、イベントランキングでは何度も一位を取ったことある猫耳姿の女戦士──
中学ボッチだった俺がクラスで話せるように特訓してくれたのは実は灰冠さんのおかげだ。
いわゆるモテ男の振る舞い方、若者の中で流行している事柄を彼女が教育してくれたのだ。
全部ネットの受け売りって言ってたけど。
それでも俺が告白するってなった時も色々と助言してくれた。
ま、失敗に終わったけどな。
『フラれたかー。フラれて二ヶ月も落ち込むなんて高校生らしくて青いにゃー。ま、くよくよせずに、次に行くしかにゃいにゃ』
次に行けるなら灰冠さんのような大人(っぽくはないけど)で、趣味も合う女性がいいが……彼氏持ちだと以前言っていたな、残念だ。
さすがに連続彼氏持ちは狙いたくない……。
『んで、二ヶ月引きこもりでもしてたのかにゃー?』
「いやいや、さすがにそんなわけないっすよ。聞いてくださいよ、結構色々あったんですから」
俺は文字に起こした。
こっぴどくフラれて、クラスからハブられたこと。そして失恋更生委員会に誘われて、今はそこで活動させられていること。なんやかんや色々あって文化祭で実行委員をしていること。
とりあえずザックリと。大まかな部分をまとめて伝えた。
『失恋更生委員会?』
「そう。変わった名前すけど、やることも変わってるんすよ。失恋した人を応援するっていう謎団体笑」
『そうにゃんだー』と特に食いついて来なかったので、話をこれ以上広げなかった。
「でもまぁ、今が楽しいすね。文化祭がこんなに楽しみなのは今年が初めてかもしれないです。まぁ、去年も楽しかったけど」
『シュウイチが楽しいのにゃら、それでいいんじゃないかにゃ? ま、委員頑張りたまえよー』
シュウイチとは下の名前からそのまま取った、俺のアカウント名。
適当に何個かクエストを終わらせて、深夜一時を回る頃には解散し、俺はベッドに入った。
案外遅くまで遊んでしまったが、灰冠さんのおかげで明日からも頑張れそうだ。
──そういや最近、失恋更生委員会にまったく顔を出していない。
連絡すらもしてないし。てっきり日向に無理矢理にでも呼び出されると思ったが、案外平和なものだ。一件だけ不在着信はあったけど。
火炎寺の恋愛は無事に成功しそうなのか。
ま、今回に関しては女子だけでどうにかなるんだろ。俺はいなくてもいいだろ。
それよりも文化祭だ。もう本番はすぐそこまで迫っている。
失敗はできない。必ず成功させたい。
そしたら、またクラスの一員として認められるのだから。
◇ ◇ ◇
「……失恋更生委員会、ってあれ、しかないよね……」
電灯が消えた部屋、ネオンライトが浮かぶ中で少女は一人、思いに
パソコンの電源を切って一息つくと、ゲーミングチェアが衝撃を吸収しながら軋む。
「それにシュウイチって……まさか……」
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