Case.44 料理を披露する場合
「おい、平均点。どうすれば気持ちの込もったクッキーになる?」
火炎寺は自分のクッキーを食べながら悩んでいた。別に美味いに越したことはない。
ただそれでも気持ちという点では味の良し悪しだけでは判断できない。
って、誰が平凡な男だ!
「そんなの簡単だよー。完成したクッキーに『美味しくなーれ、萌え萌えキューン!』って言えば美味しくなるよ」
「メイド喫茶かっ!」
火炎寺の作ったクッキーをほとんど食べてしまった日向がジェスチャーありで演じてみせた。
「さ! あゆゆもやってみて!」
「なっ!?」
相変わらず無茶振りをする日向。
火炎寺は自分のキャラのあり方と葛藤するも、覚悟を決めてやってみせた。
「美味しくなれ! 燃え燃えキューン!!」
「おー! かわいいー!」
どこぞの美少女戦士みたくバシッと決まった。てか何か燃えてねぇか?
だが、キャラこそ合ってないかもしれないが、逆にギャップを感じて可愛かったぞ。
「これで雪浦くんも惚れて告白するってもんよ〜」
「そ、そういうもんか?」
「うんうん。じゃあ、ういちゃんやってみて」
「……ふぇ!? ぅ、ぅぅ……」
振られると思っていなかった初月は時間差で反応したが、それでも従順に指示に従う。
それでいいのか初月さん……それでいいんです。
顔を真っ赤にしながら、か細い手でハートを作り、ポーズをとる。
「ぉ、ぉぃしくなぁれ……も、もぇもぇキュン……!」
「きゃわいい!!」
「おぉ、可愛いな……」
火炎寺すら心の声が漏れ出る可愛さの破壊力。
日向はただ見たかっただけだろ。俺も見れてよかったです。ありがとうございました。
「って、それでいいわけあるかっ。別に普通でいいんじゃないの。素朴感が一番手料理感あるわけだし」
「じゃあさ。七海くんクッキー作ってみてよ!」
「えっ、俺が!?」
「うん! こう男の子が喜びそうな素朴な味わいというものをよろしく!」
日向に加えて、二人も真剣な眼差しで俺を見る。
クッキーか……お菓子作りの定番中の定番だが、作ったことはない。
だが、今までに多種多様な料理を俺は作ってきた。
料理男子が大量発生する世の中だ。イマドキは料理くらい作れないとダメなのだ。レシピを見れば、大抵のものは作れるようにしている。
いつか彼女と同棲した時を妄想して練習してきたが……最初の相手がこいつらとは……。
でも感想を聞けてこっちもいい練習になる。
試作品を両親に勝手に食われた時はボロクソに言われたが……その時より俺は進化してるはず! 普通ではなく美味しいと言わせてやる!
俺はレシピ通りに手順を踏み、画像通りなクッキーを作った。
そして、最後の仕上げ!
「美味しくなーれ! 萌え萌え──」
「あ、そういうのいいから」
「ヒドッ!?」
日向に遮られてしまったが、さっそく三人に試食してもらう。
「うん。普通に美味しいね」
「はぃ。普通に美味しぃと思ぃます」
日向と初月の感想が分かりやすく見劣りしてるんだけど⁉︎
「なるほどな。これが素朴で普通な味か。確かに美味しくも不味くもない」
失礼なこと言うな! ──とは、まだ火炎寺相手には思い切り強くは言えず。
「おい、どうすれば一番普通に作れるんだよ。教えろ。電子レンジにアルミホイルと一緒にぶち込むぞ!」
怖いんだよ! それになんだ一番普通って!?
その後、本当にレシピ通り作っただけなのでそのまま教えたのだが、なぜか火炎寺のはプロ級の仕上がりになってしまった。
もう錬金術だよ。
「てか、そもそもクッキー渡すってだけでこっちから告白してるようなものにならないか?」
「たぁしかに」
よって、このクッキーで相手を落として告白させよう作戦はボツとなった。
それと、他人に料理を振る舞うことはまだやめておこうと思う。
**
「あー、そうだ。言うの忘れてたけど、文化祭実行委員をすることになってさ──」
後片付け中、俺は何日か遅刻することを伝えた。
すると、日向は「ブー」と頬を膨らませる。
「えー、なんで? そんなことするようなキャラじゃないじゃん」
「そうなんだけど、なんか成り行きで。てか、日向は違うんだな。こういうの好きそうなのに」
「うーん、好きだけどー……。まぁ、うちのクラスはみんなやる気あるからね。誰が実行委員するかでジャンケン大会してたよ」
うちとは大違いだな!?
「ふふーん。それにワタシたちは失恋更生委員会としての使命があるからね! 文化祭は忙しくなるよー! その前にあゆゆの恋愛大作戦があるけどね!」
「もっといい名前はねぇのかよ」
火炎寺が照れ臭そうに言った。
そう、今回は恋路を成功させる。いつもの俺たちとは違うことをする。
火炎寺もだいぶ日向や初月と仲良くなってきたようだ。
俺とは距離を感じるが……まぁ女子同士仲良くなる分にはいいだろう。俺も仲良くなるのは、当分後回しでいい。
それよりも別の関係性に悩まされているものだし。
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