失恋更生委員会

杜侍音

第一部

1章 七海周一

Case.1 失恋から新しい物語が始まる場合


「──しつこい」



 あれは、決死の告白だった。

 自分の気持ちに気付き、想いを募らせて、そして溢れんばかりの感情を相手にぶつける。

 私は君に恋していると、包み隠すことなく全て白状するんだ。



「──今でも変わらずあなたのことが好きです! 僕と付き合ってください!」


 今、目の前で行われているこの告白劇も、あの時の俺と同じように決意して、そこに立っているだろう。

 今すぐに逃げ出したいが、それはできない。

 告白の返事を聞きたくなくても、聞きたいから。

 この瞬間は誰もが緊張し、期待し、死にたくなって消えたくなる。

 けれども、望む言葉が聞けるまで、人は押しつぶされそうになりながらも黙って待つしかないのだ。


 ──だが、最初に言った。決死だと。



  死ぬのは決まっている。



「ごめんなさい。やっぱりタイプじゃないです」

「ガーン!!」


 告白が成功することは稀である。

 大体は砕け散るか、なぁなぁで付き合ってもそののちすぐに別れるかのどちらか。

 真実の愛を見つけるなど、海水の中で淡水を掬い上げるようなもの。おい、絶対無理だろ。

 ほとんどの選ばれない人間共は、好きな人が別の奴と付き合う悪夢にうなされ、どこまで進んでしまっているのかを想像して、涙を肴に泥水をすする。



「──フラれたな」

「だね。七海ななみくん。さぁ、ワタシたちの出番だっ! いっくよぉー!」


 校舎裏で繰り広げられていたこの告白の顛末を隠れて見届けた俺たちは、彼女が去ったのを見計らい、草陰から颯爽と飛び出した。


「な、なんだお前ら!? もしかして見てたのか!?」


 突如として現れた俺たちに気付いた男子生徒は、顔を赤くしながら俺たちを問い詰める。



「ワタシたちは! 〝失恋更生委員会しつれんこうせいいいんかい〟‼︎ 失恋した者を応援する組織であーる!」


 俺の斜め前に立っているちんちくりんの少女は、ふんぞり返りながらそう言った。

 唖然とする男子生徒。同情はするよ……俺だって最初にこう宣言されたとき顎外れそうになったからな、こいつが何言ってんのか分からなさ過ぎて……。


「というわけで〜! 失恋したキミを応援する応援歌ー! 失恋更生三三七拍子‼︎ せーの!」

「「ド・ン・マイ。ド・ン・マイ。フ・ラ・れ・て・ド・ン・マイ」」


 いや恥っずいしクオリティ低っ! 小学生の方がもっとマシな替え歌するよ⁉︎

 そんなことは気にもせず、彼女は明るく元気に、自信たっぷりに応援した。

 俺も身長ほどある旗を持って、精一杯上下運動させた。


「さぁ! 失恋更生したキミも、これからワタシたちと一緒に失恋更生委員会で迷った仔羊たちを失恋更生させよー! ……っていなぁい!?」


 彼は最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく綺麗さっぱりに消えていた。

 ただただ俺たちの出来の酷い応援歌だけが、むなしく響き渡っていただけだった。


「ドの時には既に消えてたけどな」

「どのド!? どのドだった!?」


 目下でピョンピョンしながら詰め寄ってくる彼女。

 男子生徒がそそくさと逃げて行ったのに、応援に夢中で気付いてなかったのか、よ、ちょっ……「えぇい、鬱陶しい‼︎」


「もう〜七海くんは旗持ちなんだから、ちゃんと引き止めておいてよねー」

「旗持ちがどう止めろと」

「殴るとか」

「鈍器扱いかよこの旗! こえーよ!」


 バイオレンスなことをぶっこむなよ、このロリ!


「さてと諸君!」

「俺しかいねぇけど」

「まだまだ学校には失恋の匂いがプンプン漂っているよ! 引き続き失恋を更生しに行こうっ!! それではついてまいれー!」


「わー!」とあいつはどこかへと突っ走って行った。



〝失恋更生委員会〟──何でこんな訳わかんない団体に入ってしまったのか。

 それはなんと、たったの二日前に遡る。

 旗持ちこと俺、七海ななみ周一しゅういちはその日、一世一代の告白をしてフラれた。


 だが失恋してすぐ、なんとも騒がしい彼女──日向ひむかい日向ひなたに出逢ってしまい、この物語の幕が上がる。


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