一目惚れした女の子に自分の×××な体験談を語らされるお話

萬屋久兵衛

新歓コンパでの体験談①

 ……なあ。今さらだけど、これって俺がわざわざしゃべる必要あるか?

 だって、説明しなくても申川さるかわは大体の流れを把握してるだろ?

 文字に書き起こされるのはまあ、それで昨日のことを部内の人に黙っててくれると思えば諦めがつくけどさ。

 俺がその時何考えてたかとかも含めて説明しろって言われても、内容が内容だしあんなこと一から話すのはやっぱり小っ恥ずかしいっていうか……。その辺は申川の方で上手いこと想像して書いてもらってさ。

 一人称じゃなくて三人称とかで書けばどうにかってちょっと待て。それどこにかけようとしてる?いやいや副部長は不味いって!あの人絶対猪狩部長のこと好きじゃん!

 わかった、わかったよ!まったく、あの流れからこんな辱めを受ける事になるとは思わなかった……。

 

 ええと、どこから話すのがいいのかね……。俺が大学に入る経緯ってそれいる?──ああ、いる。別にいいけどさ。

 俺が明正に入ろうと思ったのは、単純に合格した大学で一番良い大学だったからだよ。学科がどうとか講義の内容がどうとかなんて興味ないし、文系の大学なんてどこ選んでもそんなに変わらなくない?申川だってそこまで深く考えて選んでないだろ?

 ──、──、──なんかごめん。人間色々都合ってもんがあるんだなあ。まあ俺も親元から離れたいって気持ちはあったからそこは同感だけど。そりゃあ金出してくれるっていうなら一人暮らし一択でしょそんなん。口うるさい親からは離れられるし、何をするにも自由だし。

 ──いや、女連れ込むことは別に……、まあちょっとぐらいは考えてたけどさ。そんな事よりも大学の講義に慣れておかないととか友達見つけようとかが先だろ?普通は。

 ……今の女の子の部屋に上がり込んでる状況もそれと似たようなもんだと思うけど、とてもそんな雰囲気じゃないしなあ。

 

 まあとにかく、友達を作るために一番手っ取り早いのはサークルに入ることだろうと思って文芸部に入部したわけ。中には学部のオリエンテーションで友達作れるやつとかいるらしいけど、そんなの無理ゲーでしょ。一年間一緒に過ごさなきゃいけなかった高校までのクラスでだって難しいっつうのに。

 

 ──ううん、何で文芸部なのかって言われてもなあ。運動部は活動についていけなさそうだし、イベント系は活動自体が面倒くさそうじゃん?集まって騒ぐのが目的のゆるいところもあるんだろうけど、そういう所は陽キャの溜まり場になってそうだし。

 高校までも実質帰宅部で通してきたぐらいにはやりたいこともなかったし、入りたいサークルなんてなかったわけ。

 で、色々サークルのことを調べてたら文芸部のことを知って、別に小説を必ず書かなきゃいけないわけじゃないって事だし、読書も嫌いじゃなかったからまあここでいいかなって。

 

 ──うるさいよ。いいだろ別に適当だって。俺は今までこんな感じでやってきたんだよ。

 とにかく、いざ文芸部に入ろうと思って部室に出向いたタイミングがちょうど昨日。新歓コンパの日だったんだよな。コンパを逃してたら入りづらくなって入部を諦めてたかもしれない。

 それで早速部室に顔を出したわけだけど、中々に気まずかったよ。その時期に部室にいる新入生なんて、大体最初から文芸部に入るつもりで何日も前から部室にたむろしてたやつらだろ?もうすっかり同学年で交流の輪ができてて、ぽっと出のやつなんておいそれと輪に入っていけないわけ。少なくとも俺には無理だったね。

 そんな俺に声をかけて相手してくれたのが猪狩部長だったんだよ。部長の印象?また言いづらいことを……。分かった言うよ!言うからスマホをチラつかせるんじゃない!

 ……ったく。

 

 そうだなあ。まあ、美人だなとは思ったよ。おまけにめっちゃフレンドリーだし、ぱっと見でわかる場の中心になるタイプの人って感じ。髪も茶髪に染めてファッションもアクティブな感じで。正直なんで文芸部にいるのか分かんないぐらい陽な感じの人だよな。

 偏見って言われりゃその通りだけど、文芸部なんて日陰のサークルだと思ってたからな。俺だってそういうやつが多いことを見込んで門を叩いたわけだし。

 ──いや確かにスタイルもいいと思うけど、申川に言われるとなあ。──いいって!わざわざ脱いで確かめさせようとしなくても!……よし。はあ、お前はもうちょっと慎みというものを持てよな……。

 ……しかし、今のはもったいないことしたかね。

 ──なんでもない、独り言だよ。


とにかく、猪狩部長が俺に付いておしゃべりしてくれたから部室でも飲み屋に行くまでもぼっちっぽい雰囲気になることは回避できたわけ。

  しゃべった内容はまあ、好きな本とか出身地とか当たり障りのない話が主だったな。そんな話しでも猪狩部長はちゃんと上手に盛り上げるんだよなあ。おまけに俺としゃべりながら周りにも気を配って部員に指示したりして、大した人だよあの人は。

 それと、あの人石川県出身らしくてな。俺が富山だって伝えたら、「里帰りの時は途中まで一緒に帰れるね」って。その場の雰囲気で言っただけだとしてもちょっとときめいちゃったよ。

 ……ちなみに、申川はどこ出身なんだ?──ああ、秋田。そりゃあ納得だ。

 ──り、理由なんてどうでもいいだろ。なんとなくだよ、なんとなく。

 ただ、副部長の鹿島先輩が他の一年生を相手にしつつもめっちゃこっち見てきてたからそれはそれで気まずかったんだけど。猪狩部長の彼氏ってわけでもないんだからただ入部希望者が接待されてるだけのことにヤキモチ焼かないで欲しいね。

 ──うん?そんなん見りゃあわかるだろ。部室で俺と猪狩部長が同じスマホ見てて身体が近い時とかなんて相手してる一年そっちのけでガン見してきてたし、その時の顔が尋常じゃなかったし。

 申川はどちらかというとそういう事に鈍感そうだよな。

 ──ああ、やっぱり?

 

 まあそれは置いといて、そんなこんなはありつつも新歓コンパでの交流は半ば諦めてたな。なにせ部室を訪問してから居酒屋に着くまでほとんど猪狩部長としかしゃべってなかったから実質他の人は初対面だってのに、頼みの綱の猪狩部長はコンパの仕切りで俺なんかに構ってる暇はないんだから。

 だから、部室に通って交流すればそのうち仲良くなっていくだろうって開き直って店に入ったら真っ先に端っこの席を確保したわけ。

 一緒に部室から移動してた一年はみんな別のテーブルに行っちゃってて、最初は俺の方にはほとんど誰もいなかったな。それはそれでこれから来る初見の一年とかちやほやしてくれるはずの先輩達と一緒になれる可能性が高いんだから全然気にしなかったけどさ。

 で、目論見通り先輩達が何人か同じテーブルに座ってくれて、時間ぎりぎりになってやってきた一年生も正面に座ってくれたわけだ。その一年の印象って……本人の前でそれを言わせるのかよ!?いやいやいや、流石にハズいって!

 ──ああもう!お前はホントにさあ!

 これまたすごい美少女が来たと思ったよ!野暮ったい眼鏡してるし化粧っ気ないし服装も素っ気ないし髪型にも気をつかってない感じで全体的に洒落っ気ない感じなんだけど、肌の色は白くて目もぱっちりしててぱっと見胸も大きいしで!

 猪狩部長は大人な感じだけど、それとは違った美人だなって思ったさ!これで満足か!

 ……メモばっかり取ってないでせめて何かリアクションしろや!不思議そうな顔すんな!

 ええい、もういいよ!くそっ!

 ……ふう。何かもう面倒くさくなってきたんだけどまだ続けなきゃ駄目か?──駄目?……はあ、しゃあないな。


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