第19話 総長代理、皆元美子

 紫龍の人達に拉致されて、連れていかれたのは七星のアジトと似た感じの倉庫。

 中は色んな物が、ゴチャゴチャ散乱してる。

 私を総長さんに会わせるって言ってたけど、ということはここは……。


「紫龍のアジトだな。くそ、俺がふがいないばかりに……」


 私のすぐ横で、苦しそうに嘆く響夜さん。

 さっきまで私に憑依してたけど、今は解いている。

 こんな事態だけど、憑依してるとそれだけでちょっと疲れるから。

 常に憑依するんじゃなくて、ここぞというとき。逃げるチャンスがあればそのとき改めて憑依してもらおうってなって、いったん解いたんだけど。

 私は手を後ろに縛られてしまっていて、これじゃあ憑依したところでろくに反撃できない。

 結局チャンスがないまま、ここまで来てしまった。


 そうして通された倉庫の奥には、紫龍のメンバーと思しき男子が数人。

 そして長身の男の人が、椅子に腰かけていた。


「総長、七星の総長代理を、連れてきました!」


 この人が、紫龍の総長さん?

 響夜さんは私を守るように前に立ったけど、当然彼らにはその姿は見えていない。

 紫龍の総長さんはギロッとした目で、にらむように私を見る。


「コイツが七星の、総長代理? 本当に女じゃないか?」

「それがコイツ、案外凶暴で」

「響夜のやつが任せたのも、案外納得できます」

「なるほど。見かけによらないなあ。けど捕まえまったら、なんだっていっしょだ。七星も、落ちたもんだな」


 七星を見下すような言い方に、胸がザワつく。

 なんなのこの人。響夜さん達が大切に守ってる場所を、そんなふうに言うなんて……。


「これじゃあお前が、愛想つかすのもわかるぜ。元いたチームが落ちぶれる様は、見たくねーよな」


 向こうの総長さんが、誰かに向かって言う。

 すると、奥から現れたその人は……。


「……どうでもいいだろ。それよりさっさと、七星を潰してくれ」


 ──えっ!?

 出てきたその人を見て、思考が止まった。

 だって、紫龍の総長さんと話してる彼は……。


「宗士……さん……?」

「──っ! なんで宗士さんがここに!?」


 私の声と、響夜さんの声が重なる。

 間違いない。前に響夜さんの病室で会った、元七星の副総長、宗士さんだ。

 だけどそんな彼が、どうして紫龍と……。


「宗士さん、なぜ紫龍の人達と一緒にいるんですか!?」

「なんだ、まだ気づいてないのか? コイツは俺達に協力してくれてんだよ。七星を潰すためにな」

「えっ?」

「お前を捕まえたのも、コイツの作戦だ。なにも分かってない女が総長代理なんてやってるから、今の七星ならソイツを人質に取れば、崩せるってな」


 クククと笑う、紫龍の総長さん。

 私が狙われたのは、宗士さんが裏で手を回していたから? でもどうして!?

 私は信じられなかったけど、それは響夜さんも同じみたいで、真っ青になってる。


「なぜだ? どうしてアンタが、七星を潰そうとしてるんだよ!?」

「──っ! 宗士さん、教えてください。どうしてこんなことを!? アナタは先代総長の蓮さんと一緒に、七星を作ったんですよね?」


 響夜さんの気持ちを代弁したけど、とたんに宗士さんは、表情を強ばらせる。


「だからだよ。七星は元々、蓮が作ったチームだった。けどその蓮があんなことになって、俺もチームを抜けた。七星は、残った連中が守ってくれればいいって思ってたけど……その結果がこのザマだ!」


 まるで仇でも見るような目で、私を見る。


「蓮のこともろくに知らなかったアンタが、総長代理? ふざけるなっ!」

「ひっ!」

「俺は、今の七星を認めない。七星をメチャクチャにした、響夜もな」


 声を荒立てる宗士さんには、病室で会ったときの温厚な面影はない。

 今にも拳が飛んできそうで、怖い。

 けど……。


「待ってください。私はともかく、響夜さんは……七星の総長として、しっかりやっていました」

「事故にあって意識が戻らないくせにか?」

「それは、やむを得ない事情があって。それに響夜さんは、絶対に帰ってきます!」


 事故にあったのは、子供を助けるため。

 だけどそんな私の言葉は、宗士さんには届かない。

 

「帰ってきて、またあの腰抜けが七星のトップになるって? 冗談じゃない! 響夜に七星を任せたのは、蓮のミスだ。蓮が抜けた時点で、七星は解散するべきだったんだ」

「そんな……」


 宗士さんがいかに蓮さんのことを大事に思っていて、その蓮さんと一緒に作った七星に思い入れがあるのもわかる。

 でも、こんな言い方あんまりです。


 だけど横を見ると、響夜さんが苦しそうに顔を歪めている。


「俺が、不甲斐ないから……。俺が総長を継いだのは、間違いだったのか?」


 響夜さん!?

 響夜さんは前にも、七星を継いだのが自分でよかったのか悩んでいたけど、先代の副総長の宗士さんからこんなふうに言われたんだもの。

 傷つくのも無理はない。


 だけどそれでも私は、響夜さんが継ぐべきじゃなかったとは思えません。

 だって、響夜さんがまとめた七星は……。


「さあ、おしゃべりはその辺でいいだろ。お前にはそろそろ、働いてもらうぜ」

「──っ! 何をさせる気ですか?」

「お前をエサに、七星のやつらをおびき寄せる。お前がこっちにいるとわかれば、やつらは慌てるだろうさ」


 私を囮にする気ですか!?

 話を聞いたら、きっと拓弥くんや直也先輩、晴義先輩達は黙っていないはず。

 けどこんなふうに私をさらうような人達ですから、どんな罠を用意してるか。


「お前なら、幹部の連絡先知ってるんだろ? 電話してタスケテーって言えよ」


 紫龍の総長さんが、笑いながら言う。

 だけど……だけど私は……。


「……イヤです」 

「あ?」

「お断りします。みんなを、危険な目にあわせるわけにはいきませんから」

「お前、自分の立場分かってるのか!」


 立ち上がって、苛立ったように椅子を蹴る。

 ヒィッ!

 椅子は派手な音を立てて転がり、恐怖でガタガタ震えてくる。


「言うことを聞け。お前もケガしくはないだろ」

「っ! 美子、今はコイツの言う通りに──」

「イヤです!」


 響夜さんの言葉を遮って叫ぶ。


「私は、総長代理。響夜さんの代わりです! 響夜さんならこんなとき、絶対に言いなりになったりはしません。だから私も、言うことは聞きません!」

「美子!」

「響夜の代わり? あんな腰抜けのために、体をはる気か?」


 驚いたような、呆れたような顔をする宗士さん。

 確かに総長代理と言っても、成り行きで任されただけ。

 そもそも生霊になった響夜さんを見ることができなかったら、七星の人達とは縁もゆかりもなかったし、今後も関わることはなかったと思う。

 だけど私は……私達は、関わったから。

 絶対に彼らには屈しない。

 それが総長代理としての、私のすべきことです!


「ア、アナタたちの言いなりにはなりません。私は総長代理、皆元美子。な、七星は私にとって、大切な場所です!」


 震える声で、だけどしっかりと言い放つ。

 総長代理を頼まれて、最初は断ろうとしたけど。

 友達がいなくて1人だった私にとって、七星の人達と過ごす時間は意外なほどに心地よかった。

 話してみたらみんな優しくて、眠っている響夜さんの留守を守ろうとする、仲間思いな人達。

 彼らと関われたのは偶然だけど、結ばれた縁は確かなもの。

 何をされても、七星の人達を裏切るようなことは、絶対にしたくない!

 けど当然、紫龍の総長はそんな私を、許すはずがない。


「お前、痛い目見ないとわからないらしいな」


 腕が伸びてきて、乱暴に肩を掴まれる。

 ──痛い!

 手を縛られた状態ではろくに抵抗することもできずに、目をつむったそのとき……。


「総長、大変です!」


 紫龍のメンバーの1人が慌てた様子で中に入ってきて、総長さんも宗士さんも、そっちに目を向ける。


「どうした?」

「それが、七星のやつらが──」


 彼は言いかけたけど、それよりも早く倉庫の入り口から、叫ぶ声が聞こえてきた。


「美子ちゃーん、無事ー!?」

「お前ら、皆元さんはどこだ!」


 ──っ! この声は!?

 驚いて目を開いて入り口を見ると……直也先輩に、晴義先輩!?

 ううん、それだけじゃない。

 七星のメンバーが倉庫の中に、続々と入ってきた!


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