総長代理は霊感少女!? ~最強男子の幽霊にとり憑かれました~

無月弟(無月蒼)

第1話 霊感少女と暴走族


 中学校の制服に身を包み、通りなれた道を学校に向かって歩いていく。


 いつもの朝の風景。

 すると横断歩道の手前で、1人の女の子が私にかけよってきた。


「お姉ちゃん、おはよう!」


 小学校低学年くらいのその子は、真夏ちゃん。

 最近知り合った女の子だ。


「おはよう、真夏ちゃん」

「聞いて聞いて。昨日この先の道を、大きな荷物を抱えたおばあちゃんが通ってね……」


 早口でしゃべってくる真夏ちゃん。

 真夏ちゃんは人間観察がマイブームみたいで、毎朝「昨日はこんな人を見かけたよ」って、教えてくれるの。

 私はそれに、うんうんと相づちをうっていたけど……。


「うわ、なにあの子。道の真ん中で1人でしゃべってるなんて、変なの」

「あれって、1組の皆元さんでしょ。変人ってウワサの」


 ──っ!


 聞こえてきた声に目をやると、うちの学校の制服を着た女子が2人、クスクス笑いながらこっちを見ている。

 私は、真夏ちゃんと話しているだけなのに。

 けど、仕方ないよね。

 だってあの人達には、真夏ちゃんの姿が視えないんだもの。


 すると真夏ちゃんも今の声が聞こえたのか、さっきまでの楽しそうな顔をくもらせる。

「お姉ちゃん……ごめんなさい」

「そんな、真夏ちゃんが謝ることじゃないよ」


 真夏ちゃんが落ち込まないよう、笑顔を作る。

 さっきの子たちは真夏ちゃんの姿が視えないし、声も聞こえない。

 だって真夏ちゃんは生きた人間じゃなくて、すでに亡くなっている。

 事故死した女の子の、幽霊なの。


 だから大抵の人は彼女の姿を視ることも、声を聞くことだってできない。

 けど私、皆元みなもと美子みこは違う。

 霊感っていうのかな。

 私はなぜか小さい頃から、幽霊を視ることができて、こうして話すこともできるの。


 成仏できずに、道路に佇んでいる真夏ちゃんと出会ったのが2週間くらい前。

 真夏ちゃんがあまりに寂しそうにしてたから、放っておけなかったの。

 それから真夏ちゃんはお話しできる私に、なついてくれてるの。


「気にしないで、もっとお話ししよう。私、真夏ちゃんと話すの、楽しいもの」

「本当!?」

「うん! ……あ、でも今日はもう行かないと、遅刻しちゃう」


 ゴメンって謝ったけど、真夏ちゃんはニコニコ笑ってる。


「平気だよ。お姉ちゃん、またお話ししようね」

「うん! それじゃあまたね」


 手を振って別れたけど、その間近くを通る人は、いぶかしげに私を見ている。

 うう~、やっぱり普通の人から見たら、変って思っちゃうよね。

 ほんと言うと、人目が全く気にならないわけじゃない。

 けど真夏ちゃんと話すのが楽しいのも本当だし、亡くなってからはずっと1人でいるんだもの。

 放っておけないよ。

 それに変って思われるのなんて、今さらだもんね。

 私は気をとり直すと、中学校に向かって歩いていった……。




 ◇◆◇◆



 他の人には視えないものが、どうして私にだけ視えるのかな?

 私は小さい頃から亡くなった人、幽霊の姿を普通に視ることができた。

 けどそのせいで周りからは気味悪がられて、変な子扱い。

 友達だっていない。

 昔はいたんだけど、私が変だから、だんだんみんな離れていっちゃった。


 中学校に入ったのを機に、今度こそ友達を作ろうって思ったんだけど、今まで友達がいなかったせいですっかりコミュ障になっちゃってて、中学デビューはあえなく失敗。

 それに何より、中学になってからも変な子扱いされたのが痛かった。


 幽霊って、自分のことが視えてるってわかったら、声をかけてくる人が多いんだよね。

 たぶん誰にも気づかれずに1人でじっとしているのは退屈だから。私が視えてるって分かると、からんでくるの。

 それに毎回受け答えしてるもんだから、変な子だってウワサは、すぐに広まっちゃった。

 けど、後悔はしてないよ。

 視えているのに、視えないふりなんてしたくないもの。


 学校についた私は誰かから声をかけられることなく、校舎に入って自分の教室へと向かう。

 けど、廊下の角に差し掛かったそのとき……。


「うわっ」

「キャ!?」


 急に誰かが曲がってきて、ぶつかりそうになる。

 よければよかったのに、運動オンチな私はそれができずに、後ろに転んでしまった。


「悪い、大丈夫……って、美子?」

「拓弥くん……」


 ぶつかってきた彼は差しのべてきたけど、私と目が合ったとたん、その手を止める。

 茶色いツンツンした髪をしたその人は、私がよく知ってる男の子、森原拓弥くん。


 小学校が同じで昔はいっしょに遊んでたんだけど、私が変な子って言われるようになるにつれて、距離ができちゃったの。

 中学に入ってからも見かけることは何度もあったけど、声をかけることもかけられることもなくて。

 私は差し出された手を取っていいかわからず、向こうも戸惑うように固まっちゃってる。

 けどそしたら……。


「拓弥、なにやってんだよ」

「あ、直也さん」


 拓弥くんの後ろから現れたのは、長めの金髪をした男子生徒。

 この人知ってる。たしか、3年生の、春風直也先輩……。


「君、立てる? 拓弥ー、女の子にぶつかっといて、助けないはないだろ」

「はい、すみません……」


 ペコリと頭を下げる拓弥くん。

 先輩に起こされた私も、「ありがとうございます」ってお礼を言う。

 するととたんに、廊下を歩いていた数人の女子が、こっちを見てきた。


「ねえねえ。あれ春風先輩と森原くんよね。2人と話せるるなんて、あの子羨ましい!」

「本当。前髪伸ばし放題でもっさりしてて、全然かわいくないのにね」


 ううっ、名前も知らない女子の言葉が、チクチク胸に刺さる。

 はい、すみません。もっさりでごめんなさい。


 彼女たちの言う通り、私はたまに先生から「見にくくない?」って言われるほど、前髪を伸ばしている。


 これは元々、幽霊を視すぎないように伸ばしたの。

 実は昔、変な子扱いされるのが嫌で、幽霊を視ない方法はないか考えたことがあったの。

 そこで思い付いたのが、前髪作戦。

 髪で目を隠せば、視えにくくなるんじゃないかって考えたんだけど、あまり効果なかった。


 けど1度定着してしまった髪型をそれ以上変える気にもなれずに今に至るんだけど。

 そのせいで、変な子に加えてモサいって言われちゃってる。

 でも、春風先輩は。


「こらこら君たち、そんなこと言わない。女の子がケンカしてるところなんて、俺は見たくないな~」

「は、はい! すみませんでした!」

「はわわ。春風先輩優しいー!」


 すごい、一瞬でメロメロにさせちゃった!

 だけど感心していると、廊下の向こうからさらに誰かがやってきた。


「2人とも、朝から騒がしいですよ」

「直也、またお前か」


 やってきたのは、2人の先輩。 

 するとさっきの女子達が、またも歓声を上げた。


「わぁっ!『七星』幹部勢揃い!」

「朝から幸せすぎるー!」


 キャーキャー騒ぎ出す女子達。

 彼女達がはしゃぐのは、彼らが特別な人達だから。

 彼らは『七星』って言う、暴走族チームのメンバーなの。


 あ、暴走族っていっても乱暴な人達じゃなくて、他の暴走族からうちの学校の生徒が絡まれないよう守ってくれる、自衛団みたいなもの。

 だから彼らは恐れられる存在ではなく、ヒーローみたいな扱い。

 これは友達のいない私でも知ってる、うちの学校の常識なの。


 しかも拓弥くんも、さっき私を助けてくれた先輩も、後から来た2人も、七星の幹部。

 眼鏡をかけた知的な印象を受ける2年生の先輩は、たしか染谷晴義さん。

 誰かが七星の頭脳って話しているのを、聞いたことがある。


 そしてもう1人。

 黒真珠のような髪と瞳をした美麗な、クールな雰囲気の3年生。

 うちの学校で知らない人はいない七星の総長、桐ヶ谷響夜先輩だ。


「キャー、響夜先輩ー!」

「きょ、今日も素敵すぎるー!」


 気持ちが高まりすぎて倒れるんじゃないかってくらいの、感激の声が飛んでる。

 さすが桐ヶ谷先輩、下手なアイドルよりも、よっぽど人気だ。


 私は特別桐ヶ谷先輩のファンってわけじゃないけど、間近で見る先輩には、思わず見とれてしまった。

 よ、世の中には、こんな綺麗な人がいるんだ。

 それに暴走族の総長までやってるなんて、すごい人だなあ……。


「……アンタ」

「は、はいっ!」


 見とれていたら、桐ヶ谷先輩が話しかけてきて、思わず声が裏返ってしまった。

 あ、あわわ、変に思われてないかなあ?


「直也に何かされなかったか?」

「え? い、いいえ、なにも」 

「そうか、ならいい」


 興味をなくしたみたいに目をそらす桐ヶ谷先輩。

 き、緊張したー!

 普段人と話すことになれてない私にとっては、一言二言の会話でも心臓バクバクだった。

 そしてそんな私のことなんて眼中にないみたいに、集まった4人は話しはじめる。


「響夜さん、晴義さん、おはようございます」

「おはよー2人ともー。で、朝っぱらから何か用?」

「ちょっと相談したいことがあって。ここじゃあなんですから、話はアジト教室で」


 彼らの会話が聞こえてきたけど、アジト教室なんてあるの!?

 けど、話を聞けたのはここまで。


 場違いな私が彼らの側で、いつまでもつっ立ってるわけにはいかないものね。

 聞こえたか分からないけど、もう一度「ありがとうございました」と小声で言ってから、その場を後にする。


 ううっ、緊張したなー。

 ぶつかって助けてもらっただけなのに、近くにいるだけで彼らのオーラに当てられちゃった。

 もしかしたら、今後一生無いかもしれない貴重な経験だったかも?

 なにせ私と彼らとでは同じ学校に通っていても、住む世界が違うんだから。


 ……って、思っていたけど。


 まさか私が、七星の人達と大きく関わることになるなんて。

 このときはまだ、思ってもいなかった。


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