第2話 変身


 気が付いたら体が走り出していた。

 自分なんて雑魚だとわかっているのに。

 その辺りにいるモブみたいな奴だと自覚しているのに。


 死の恐怖に怯えながらもこうして、僕は怪人の前に立ってしまった。


 勇気ある行動だろうか?

 違う。よくアニメとかで言われるだろう。

 力に見合ってない行動は勇気ではなく無謀だと。


「逃げて宮本君!!!」


 だからこうなる。


『なぜお前はそいつ邪魔者の前に立つ?』


 力がない奴が無謀な事したら。


「会長こそ早く逃げてください! 事情分かんないんですけど、こいつ倒せるの貴方だけですよね!」


 その結末は。


『……くだらん』


 大体決まっている。


『死ね』













 

「宮本くん──ッ」

『余所見している暇なぞ無いぞ』


 あれ、何してたんだっけ?

 思い、出せないや……


「力が、うまく入らない……!」

主人あるじに力を奪われたのを忘れたか?』


 燃えてる。すごい炎がいっぱい。

 ……血、すごい出てるな。湖できそうだ。

 体に穴空いてるし………………これ無理だろ。


「────ガッ!?」

『まずは一撃、そして……もう一撃!』


 あぁ……音が遠くなっていく。


 会長、何か喋っている気がするけど、聞こえない。


 時が止まった世界にいるようだ。


 音が。


 熱が。


 全く………………




 あぁ、空がに染まって──









『どうしてそんなに怯えてるの宮本君?』



 ──真っ暗な空に星を見た。



『……怖いから』

『怖い? お化けでもいるの? ここ小学校だけど?』


 僕は昔からこの死の世界が大っ嫌いだった。

 それ以上に怖くて仕方がなかった。


『……そんなの関係ないんだよ。あれ死神はずっと付いてくる』

『ふーん』


 前世で感じた『死』

 それが背中にこびり付いていてずっと離さない。

 手が動かなくなる時に感じた冷たさも、時間が経つにつれて暗くなる視界も、遠くなる音の事も。

 

 何もかも脳裏にこびり付いて鮮明に覚えてしまっている。


 怖かった。

 転生後でもその感覚が忘れられなくていつも手が震えていた。


 自分は現実世界にいるのに。

 底も終わりも見えない真っ黒な世界にいるようで。


『ふーん……怖いの怖いの飛んでいけ〜』

『………えっと、どうしたんだ急に?』

『うーんあれ?』

 

 その世界が少し晴れたのはピンク髪の女の子と手を触れた瞬間。


『ちょっ、ちょっと!?』

『ふふーん、これなら飛ぶんじゃないかな?』


 オデコを当てられた時は少し驚いたけど。


『怖いの飛んだ?』

『…………それって痛いの痛いの飛んでけーじゃない?』

『そうだっけ、あれ?』

『何間違えてるんだ……ふふ』

『もー何笑ってるの…………ふふっ!』


 太陽みたいな笑顔を見れば、怖いのが少し薄まった気がする。

 それが僕と赤城あかし 朱里あかりの初めての出会いだった。








「何で赤城あかし 朱里あかりを誘拐した」

『なぜって……無様に壁にもたれ掛かっているお前には分からんか』


 意識が妙にハッキリしてきた。

 おかげで会長と怪人の声がよく聞こえる。



 というより今誰が誘拐されたって?



「あの子は無能力者でしょ」

『気付けないお前にわざわざ話す通りはない』

「……まさか赤城あかし君が能力者?」


 あぁくそ。


『お前に話す事などないと言った筈だ。お前にできる事は』


 やっぱり誘拐されてたのか。

 という事は。


主人あるじの犠牲になる赤城あかしとやらを想う事だけだ』

 


 まずい。

 アイツがあんな寂しい世界に行くのは間違っている。

 


朱里あかりは……僕を照らしてくれた星だ)



 真っ暗な死の世界の中で眩く輝く一等星。

 一等星があんな寂しい世界……全てが真っ暗で底が見えない場所に行くなんて、彼女には似合っていない。


(ずっと暗い世界で怯えてた僕を救ってくれたのは朱里あかりなんだ。朱里あかりがピンチの時になにボケっと死んでんだよ!)


 何を諦めているんだ。

 何を怯えているんだ。


(一度死んだ人間なら二度目ぐらいはどうにかしろ僕!)


 拳に力を入れろ。



 お前は憧れていたんだろ。

 こんな展開で覚醒するんだって、バカげだ願望を持っていたんだろ。



 なら……目を覚ませ!



(僕は……)



 あの暗闇の空に浮かぶ光を掴む為に、手を伸ばせ!



『死ね』

「ッ……!」


 模索しろ。

 日向ひなたが死に触れるまでの刹那。

 脳をフル活動させて突破口を探れ。


(何かないのか!?)



──そんな彼に奇跡が一つ舞い降りた。



(なにか……ベルト?)


 突如現れる黒いベルト。

 いつの間にか腰に巻きつかれたソレは一言で言うと暗黒そのもの。お腹あたりには何か赤い紋章が、言うなれば特撮ヒーローの変身ベルトらしい装飾が施されている。


 なぜこれが現れたのか?

 これの正体は何なのか?

 色々と不可解な点が多すぎる。



 だが、だが。



 さも使ってくれと言わんばかりに現れたソレを見て。

 男が考えた事はたったの一つ。



 彼が思い描いた憧れのヒーロー。

 


(……人を、朱里あかりを守るヒーローに僕はなるっ!!!)



 ならば叫ぶがいい。


 空高くまで魂を込めて──





「変身!」






 ヒーローのご登場だ。






『……今のは何だ?』

(衝撃音……違う。黒い衝撃波が)


 奮闘虚しく軽く圧倒され、壁にもたれ掛かる日向と、今度こそ仕留めようと最後の一撃を放とうとした化け物。 

 その行為を中断させたのは天を駆け上がった紫の雷イカズチだった。


 莫大な数の紫の雷イカズチが怪人の動きを止める。

 あと一歩踏み出せば、目の前にいる女を殺せると言うのに動けなかった。


 なにせ紫の雷イカズチが生まれた場所に。


 黒 い ナ ニ カが立っていたから。


 憎悪が、怒りが、恐怖が。

 その黒いナニカから伝わってくる。

 感情をひどく揺さぶり、心を傷付けさせるそれは、呪いと言ってもよかった。


『お前……死神か?』


 怪人が耐えきれず質問してしまう。

 無駄な行為だと分かっていながら、自分の感情恐怖に逆らえず表に出してしまった。

 

「違う」


 光が届かない程の闇に染まった鎧を着る男の声はおおよそ普通とは言えない。

 トーンが低かったり少し霞んだ声をしていたりと、人間が出せる声ではない。どこまで行っても人を脅かすような存在だった。先が見えない闇のような存在だった。


 でもそんな呪いを纏いながらも

 男の目には宿


『なら何者だ』

「僕は……は、人を助ける為にやってきた」


 炎で包まれている光景の中で異様に黒い人間が一人。

 その目は赤い宝石のように変わっていたが、クワガタの怪人からは、赤い宝石の奥でさらに赤い炎を燃やす人の目が見えた気がした。


モウルスヒーローだ」

『ヒーロー? 死神擬きがヒーローを騙っているのか……ふざけてるんじゃねーぞ』


 その炎はどこまでも強くて、どこまでも明るい。


「全力だよ。すげー怖いけど、人が困ってたら助けなきゃなあ! だから会長から離れろ怪人!」

「会長……てことは貴方宮本君なの!?」

『……あぁそうか。ようはご都合主義らしくスーパーパワーを手に入れたって訳か。イラつくから殺すぜお前は』


 ヒーローと怪人の目が合った。


(この女を殺すのは後だ。死神擬きを前に少しでも油断したら……負ける。それぐらいの覇気ってのをコイツから感じる!)

(何でこのパワーを手に入れられたかは分からないが、俺はまだ初心者だって事を忘れるな。負けるぞ俺)


 ゆっくりとしかしこちらに狙いを定めていると悟ったクワガタ怪人は、黒い死神と対峙する。

 同時に死神も歩みを止めた。


 ここがお互いギリギリの間合い。


(クワガタ怪人……どう攻めてくる?)

(短期決戦だ。一撃で仕留める!)


 互いに構えをとる。

 クワガタ怪人はヒーローをいつでも殺せるように、目の前だけに意識を集中する。

 ヒーローは会長を助ける為に、どう目の前の怪人を切り離すかに意識を向ける。


(相手がどれほど強かろうが、この筋肉パワーを当てれさえすれば問題ない……!)


 ゴキッゴキッと不気味な音を立てると、身体中の筋肉が膨張して体がニ周り大きくなった。はち切れそうな蟲擬きの皮膚を見れば、力は二倍どころかさらに増えただろう。


(……パワーで俺を粉砕する気か?)


 ついでに体重が増えて重くなっていそうだ。

 つまり守備力を増やして素早さを犠牲にしているようにも見えるが……


(受けたらまずい。避ける為に観察を──)

(観察の時間すら与えん。ここだ!)

(はやっ!?)


 全くそんな事はなかった。

 一瞬だった。たった一瞬で怪人の姿が消えた。

 音すら捨てる速さで死神の前に立ち顔面を狙う。


(学校ぐらい吹き飛ばすパワーだ吹き飛べ!)

(マズイっ、さっきより何倍も速い!?)


 最初からフルスロットル。

 パワーもスピードも今までより三段階上。

 その極上の一撃をヒーローにお見舞いする。



(……でもこのパンチ)



 そしてクワガタ怪人はヒーローの顔面を捉え──



「見える」

『ガバァァァァァアア!?!!?!!』



 ──クワガタ怪人がヒーローのパンチによって吹き飛ばされた。



 綺麗な直線を描きながら体育館まで吹き飛ばされ、轟音が広がる。コンクリートの煙が出ながら建物が崩れていく。その中に居るのは顔面の半分が歪んだクワガタの化け物。


『ッ、ハァハァ……!? 今のパワーは一体いや早く動かなければ奴g──』


 ふとクワガタ怪人が前を見れば、こちらの顔を殴ろうとする死神が。


『ッ!?!!??』


 咄嗟に避けたのは正しかったと怪人は自分がいた場所を見て判断する。

 空振った拳の一撃が地割れを起こしている。あそこで避けなければ今頃己の顔は粉々になっていたかもしれない。


(チッ……想像以上だ。俺はとんでもない化け物を相手にしちまった……!)


 同時にクワガタ怪人は思い知ってしまった。

 あの死神が相手ではどうしようもないと。


(クソッ早く撤退を!「後ろだっ!」グゥゥゥ!?』


 逃げの考えに変えた瞬間、後ろに回り込んだヒーローが横腹を蹴った。

 恐らく骨が何本か折れただろう。クワガタ怪人に骨があるから知らないが。


『お前何でそんなパワーを持っていやがるこのクソ化け物が!』

「お前だけには言われたくない!」


 クワガタ怪人が放った反撃の拳を流し、背後からもう一発パンチを喰らわせる。


『その流れは理解してんだよぉワンパターンが!』

「ガッ!? いまの、羽!?」


 が、クワガタ怪人の背中から飛び出してきた羽根によって死神の前進は止まる。怪人はその隙を見逃すはずがなかった。


『喰らえぇ──ビィトル・ワン!』

「間に合えぇ!」


 激突する拳と拳。


 二つのパワーが衝突した点から衝撃波が生まれる。

 その余波で地面が割れるとなればどれ程の威力だったか。だが殴り合った拳のパワーは違った。


『ぐ、が……あぁ!?』

「パワーは、こっちの方が上みたいだな!」


 死神の方が圧倒的に強い。


 均衡する事はなく一瞬でクワガタの方が押し負けた。ソレも自慢の昆虫の皮に深いヒビを入れられた上で。

 そして痛みに耐えきれず悶絶している怪人は、ヒーローからすれば的でしかなかった。


 反対側の拳を握れば黒紫の雷が爆ぜる。

 そして爆発と共に放たれる拳は──


「もう一発だぁぁああ!」

『ぐ、クソがぁぁぁああああ!!!』


 体の中まで抉り込んだ。

 怒りと興奮で放たれた痛恨の一撃はクワガタ怪人の芯まで届き、その威力を表現するように吹き飛んだ先の地面には巨大なクレーターが生まれていた。


 だが。


『く、そがぁ……死ぬところだったぜ!』

(今の一撃でも倒せないか!)


 クワガタ怪人は未だ健在。

 一つ前に放った拳には地割れを起こすほどのパワーがあった。それよりもさらに力が入った拳だというのに、まだ立てられるとは。


(なら何回でも当てればいい。体を限界まで使って──)

(マズイ、もう一度、いや体なら二回か! あの攻撃を喰らったら死ぬ!)


 満身創痍とまでは行かなくても、先程の一撃でクワガタ怪人の活動限界はグッと迫ってしまった。

 どう足掻いても負ける。もはやこの戦いは敗走すべきだと、生きて帰る為に逃げるしかないとクワガタ怪人は悟った。


「逃すかクワガタ擬き!」

(避けるしかない。だがあのスピードに対してどう逃げればいい!?)


 怪人の体は悲鳴をあげている。とてもじゃないが直ぐに避ける事は無理だと、精一杯の抵抗として構えるが。


「──ヴ、コボッッ!?」

『……何?』


 それより先にヒーローが血溜まりを吐きながら倒れてしまった。前のめりになりそうなのを両腕で何とか防ぎながら、しかし口から滝のように溢れる血が彼の現状を表しているだろう。


(クソッ、体が限界だ)


 この黒い鎧に宮本の体が追いついていない。

 人間離れしすぎている動きの負担によって骨や臓器がガタガタだ。心より先に体が悲鳴をあげてしまった。

 

 今の体に許させる攻撃回数は、たったの一回。


(次の一撃で……全てをかける!)


 次でトドメを刺さなければならない。

 パンチではダメだ。

 確実に仕留める事ができる威力を奴に喰らわせる、そんな馬鹿げたエネルギーを相手に有りったけぶつけなければならない。


 ならどうやって──



 こういう時に喰らわせる最後の一撃は。



『んーまさる。何見てんの?』

『土日の朝にやってるヒーロー番組』

『……これ面白いの? なんかガチャガチャしてる〜』

『うーん赤城には合わなかったかな。僕はヒーローが戦ってる姿とか好きだけど』

『ん、何で?』

『まぁ理由は色々あるよ、キャラとかヒーローの姿とか展開とかさ。本当に色々』


『でも敢えて一つ挙げるなら──』

『挙げるなら……何?』



 ──答えは簡単だ。



『──必殺技』



 思い出せ。

 液晶画面の向こう側でヒーローは何をやっていた?

 みんなを守る為に編み出して、何度も何度も敵を倒してきた技は?



『必殺技? 何それ?』

『ほら、今この仮面ヒーローがテレビでやるから見てて』

『ん?』

『エネルギーを貯めて、それではるか空まで──』



 憧れていた男がやる事は一つ。




 ──跳べ。




『パワーを貯める時間わざわざ与えるかよぉ!』


 ここにご都合主義なんてものはない。

 に力を溜めている相手を見て棒立ちする訳もなく、轢き殺すつもりでクワガタの怪人は走り出す。


 まずは一歩目。

 地面を砕くほどの力を持って足を踏む。


『死ね、ヒーロー擬き──ガッ!?』


 そして二歩目。

 そのまま体ごと大地とキスをする。


『か、体が動けん……重い、だとっ!?』

「はい赤キップ。スピードはしっかり守りなさい」


 クワガタ怪人が大の字になって倒れている。

 まるで豪華客船が上に乗っているみたいに。

 彼は重力に縛られていた。


「お、まえ……!」

。例え怪人の貴方でもね」


 彼を地面に堕とした張本人、日向はニヤリと笑った。日向の方へ視線を向けたクワガタの怪人にこれでもかと見せるように。

 でも体中血まみれで限界を超えて活動した。そんな彼女が超能力を使える時間は三秒足らず。


『クソッ……しぶといぞぉ超能力者ぁ!』


 三秒経てばクワガタ怪人を縛っていた重力は消え、体の重さも元通りになった。そして怪人の矛先は壁でもたれ掛けている女性へ。

 凄まじい殺気だ。

 日向ひなたの消えかけていた意識が少しは戻ってしまうくらいに。


『先にお前から倒してやるぞクソ超能力者ぁ!』


 けれど怪人が見た日向の表情は。


「ばぁーか。先に倒されるのは貴方よ」


 してやったりと、笑顔のままだった。


「あの黒いヒーローさん。どこにいるのかしらね?」

『……ッ!? 奴は一体どこに!』








「──必殺」

『上かっ!』


 男が放った言葉は静かだった。

 けれど不思議とよく聞こえる。


 ──怪人にとって最期の声だからだろうか?


『ヒィィロォォォオオオ!!!』


 赤い地上で吠える怪人とは裏腹に。

 ヒーローが佇む月光に照らされた空はどこまでも青黒くて、静かで綺麗だった。

 

 そして月を背にしてキックの構えをとる暗闇のヒーローの足には。


「燃えろ」

『まだ、死ぬ訳には、いかねぇぇんだよぉぉ!!』


 蒼い炎が宿っていた。

 死神の力を凝縮した足に生まれた熱い炎、死に怯えながらも他人の為に前に進む男の意思を具現化したものだ。


 その名も。







ブラック・オ・セイファドォォォルルルきたれ、暗黒の死よ!!!』






 空から一筋の流星が落ちてきた。

 蒼い光を纏って暗闇を照らすようにソレはやってきた。

 その光の前では屈強な肉体を持つクワガタ怪人だって受け止める事ができず。

 爆発が起き、その一帯は爆炎で包まれた。

 

 








「勝ったようね……解除ア・ワールド


 炎に包まれていた世界が一変した。

 赤一色だった地上が青と黒の世界へ。鳩達の鳴き声が聞こえて涼しい微風が、日向の紅いロングヘアを靡かせる。


 あたかも先程までの光景が幻想のように。

 激しい戦闘の跡は何もかも消え去っていた。崩れていた校舎も、この辺り一帯を占拠していた炎も、そして彼の必殺技による巨大な爆発も。


 全て無かった事にされた。

 ならあの出来事も全部夢だったのだろうか?

 

「さてこの子をどうしましょうか。私すら見抜けなかった


 その疑問は粉々に砕かれる。

 グラウンドの真ん中で大の字になって寝ている青年……宮本によって。


(致命傷もなくなっている。激しい戦闘による後遺症すらもないときたか)


 日向はしゃがんで宮本の体を触れる。

 息はしているようだし脈もしっかりある上に、寝ている彼の表情はとても穏やかだ。健康体そのものと言ってもいい。

 でも胸あたりにぽっかりと穴ができている彼の服は、ここで戦いがあった証拠だった。


「さっきまでは死神みたいな姿だったのに……」


 日向は先程までの事を振り返る。

 真っ赤な地獄の世界で暴れ回っていた『死』の存在を。

 真っ黒に染まり周りに死の恐怖を撒き散らす恐ろしい存在を。


がそうだと思ったけど)


 ただ今の彼は決して敵ではない。


『僕は……は人を助ける為にやってきた』


モウルスヒーローだ』


「…………………………はぁ、命の恩人だし、助けた方がいいに決まってるわよね」


 あの時に叫んだまっすぐな言葉は彼女の心に響いた。不安は残れど、気絶した彼を日向は抱え上げる。


(貴方はもしかして……)



 そして学校のグラウンドには誰もいなくなった。

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魔法使いや超能力者だらけの世界で俺は変身ヒーローをやる! ギル・A・ヤマト @okookorannble

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