木漏れ日の中を往く《終》

翌日よくじつ、ファイセルたちは隣町となりまちへの街道かいどうを2人でとぼとぼ歩いていた。


リーリンカが不思議ふしぎそうに尋ねてくる。


「いきなりの事で全く気にもとめなかったのだが、お前なんであんなに大金たいきんを持っていたんだ? そんな金持ちだって聞いたことなかったぞ?」


ファイセルは軽くほほを手でいた。


「あ~、あれはね~色々いろいろ偶然ぐうぜんかさなってだね~。非常にラッキーだったんだよ」


少年は歩きながら北部から南部までの旅の話を彼女に話した。


少女はそれを聞いて笑ったり、あきれたり、おどろいたりと豊かな表情を見せてくれた。


なんだか、前よりもずっと心を開いてれているかのように思えた。


そうこうしているうちに、隣町となりまちに着いてアッジルの服屋ふくやたずねた。


「おお!! よく来てくれましたなカルバッジア君、リーリンカさん」


早速、話に花がく。


「そうか。君の本名はファイセル君っていうのだね。いい名前だ。なんだか今になって本名ほんみょうを聞くことになるというのはみょうな気分でもあるがね。それにあのリジャントブイルの……ほほう」


アッジルはニコニコしながらひげを撫なでている。


おくからレイジルナが出てきた。


「いやー、中々の強行軍きょうこうぐんだったのに、あんたはよくやったよ。特にラーレンズを追いめてたたけるとことかたまんなかったね!! 久しぶりにスカッっとしたよ!!」


アッジルのよめこぶしにぎって婚潰こんつぶしの成功をたたえてくれた。


「いや~、アッジルさん達に出会っていなければどうなっていたことやら……」


リーリンカはレイジルナと話し込んでいる。


アッジルがそばに来てささやいた。


「にしてもリーリンカさんは美人びじんなおよめさんで。とんだ幸せものですな」


ファイセルはかくしに頭を《か》きながら言い返した。


「レイジルナさんも美人じゃないですか。ちょっとキツいですけど」


おもわず男2人で笑いあった。


長いこと話し込んだ後、アッジル夫妻ふさい見送みおくりに来てくれた。


「また、東部とうぶに来ることがあったらぜひ顔を出してください。いつでもお待ちしていますよ」


「アンタらも健康には気をつけて仲良くやりな。アタシもダンナとそれなりに仲良くしてやってくからよ!!」


こちらが見えなくなるまで2人は手をっていた。


ファイセルはリーリンカの両親りょうしん好意こういに甘えて、しばらく滞在たいざいさせてもらうことにした。


ファイセルはリーリンカの一家いっかとの親睦しんぼくを深め、家族として受け入れられていた。


ただ、本人たちの関係に大した進展しんてんは無かった。


長いことリーリンカと2人っきりで過ごす時間はあった。


しかし、2人とも奥手おくて決手きめてけたのだ。


それでもお互いに夫婦ふうふであるという自覚じかく徐々じょじょ芽生めばえつつあった。


休暇きゅうかが半分過ぎる頃、2人はファイセルの故郷こきょうであるシリルに旅立たびだつことにした。


リーリンカの両親はあたたかい言葉をかけてくれた。


「ファイセル君、娘を助けてくれて本当にありがとう。そしてよろしく頼むよ」


「2人とも、また近いうちに帰って来なさいね。ファイセル君にとってもここはもう実家なのだから」


リーリンカの友人達ゆうじんたち旅立たびだちを知り、けつけていた。


別れをしみながら互いに声を掛け合っていた。


だが、その顔に悲壮感ひそうかんはもう無い。


みなに見送られ、2人はロンカ・ロンカを旅立った。


そして、最寄もよりのドラゴン便びんのあるまちへ向けて歩き出した。


「なぁファイセル、私は南部なんぶに行った事がないが、どんなところなんだ?」


「ロンカ・ロンカほどあつくなくて、年中、春みたいな気候きこうかな。あと、おいしい料理が多いところも魅力的みりょくてきだよ。ここよりも森がゆたかで、森林浴しんりんよくが気持ちいいんだ」


リーリンカはウキウキした様子で語りかけてきた。


「ふふっ。これが新婚旅行しんこうりょこうって事になるんだな」


少年はなんとも言えないといった顔で、頭を軽くきながら答えた。


「‥‥とは言っても僕にとってはただの帰郷ききょうだけどね」


「少しは空気をよんだらどうだ?」


ファイセルは一時期いちじき、勝手に別れを決めたリーリンカに、おきゅうをすえてやろうと心に決めていた。


しかし、すっかり彼女のペースに飲まれて、もはやそれはどうでも良くなってしまっていた。


早くもしりかれている感が否めない。


少し先を歩いていたリーリンカがきざまにつぶやいた。


メガネを外した素顔すがおのまま、上目づかいでファイセルを見つめてきた。


「な、なぁ……手、つないでもいいかな……?」


互いにずかしがりながら、2人は恋人こいにとつなぎで森の街道かいどうを歩いてくのだった。

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