第8話 試練との遭遇①

新たにに深淵の司祭・ベルノスを加えた深淵の従僕、邪神のしもべ、ナイトシャドウ・ウルフを連れて、リオトは拠点を築ける場所を探すために移動を開始した。


リオトは移動しながらも手札を確認する。

手札には、既に召喚済みのユニット以外にすぐに使えるカードはなく、残っているのは全てスペルカードのみ。


スペルカードには敵を直接攻撃するものもあるが、今手元にあるのは全てユニットを一時的に強化したり、敵の行動を封じるなどといった特殊なものばかり。


「スペルカードが4枚......心許こころもとないな」


デッキからカードをドローするためのカードがあればよいが、今はそれも手元にない。


カードを引けるのは1日1枚。それがもどかしい。


鬱蒼うっそうとした森の中では時間が分かりにくいが、太陽がようやく木々より高く見え始めたことから昼前後のようだ。


EDDエデドは、ストラテジー要素がメインのゲームだった。


ストラテジーゲームは、戦略を立て、敵を倒すゲームであり、資源を集め、建物やユニット(兵士)を生産し、戦略的に敵と戦っていくゲームだ。


だからこそ、拠点さえ築けばカードがなくとも、森で生きていくのにやりようはある。


とは言え、深淵の従僕と同等の低位のユニットなら生産できるようになるが、内政や軍備の整備には時間がかかる。


「早く拠点を造らないと......でも、ここはゲームじゃない。慎重にならないと......」


拠点を造ること自体は難しくない。


リオトはパネルで確認し、パネルにはステータスやログ、ユニット一覧などの他に、『ミッション3』の通知を受けとったときに「建築」の項目が増えた通知も受け取っていた。


試しに使用してみたところ、EDDエデド同様に拠点を建てるのに資材は必要なく、ただ建築できるだけの平坦な地面さえあれば建造可能のようだ。


ただし、拠点は簡単に作っていいものではない。

周囲の環境や資源を考慮する必要がある。


ストラテジーゲームにはいくつかの戦略・戦術がある。


まず、速攻型(ラッシュ)。

その名の通り、ゲーム開始直後に、速攻で拠点を建て、速攻で敵拠点を攻撃する戦略だ。


速攻型のメリットは、相手が準備を整える前に攻めることで、資源の奪取や生産を妨害できること。


デメリットはじ、序盤に多くの資源を戦力に割くため、攻めに失敗すると成長が遅れるリスクがある。


次に大器晩成型(経済重視)。

序盤に軍事力を控え、資源収集や拠点発展を優先する戦略。


メリットは、資源や生産力が十分に整えば、後半に大量のユニット、強力なユニットまたは切り札を展開できる。


デメリットは、序盤の防衛が弱いため、即効型のプレイヤーに攻め込まれると弱い、という点。


この二つが、おそらくは大まかな戦略・戦術になる。他には、小規模部隊で敵を襲撃するハラスメント型(嫌がらせ)や、防御型(タートル戦術)と呼ばれる防御全振りなどが存在する。


リオトはどちらかというと大器晩成型やタートル戦術を好んでいたため、ラッシュプレイヤーが嫌いだったりする。


この世界においても、ゲームのストラテジー機能が、そのままリオト自身の能力として使える以上、同じ戦略・戦術.....それこそ得意としている大器晩成型、またはタートル戦術をてんかいしてもいいだろう。


――だが、それは「敵」が明確に存在し、それが同格の存在であるとわかっているからこそだ。


しかし、ここでは何が敵で、どんな資源があるのかも分からない。


「(EDDエデドと同じなら、基本的な資材である木材の確保は森だから問題ないだろう。食料も森なら豊富なはずだ。小動物も狩れるだろうし、有機素材も確保できる。水源や石材、さらには鉄鉱石や銅が取れるような場所があればなお良いが、まずは肥沃ひよくな土地と建造物を建てやすい平地があれば……いや、できれば防衛に有利な岩場や山も欲しいところだ.......)


そんな我儘わがままな希望を思い描くが、現状でそれを望むのは贅沢ぜいたくすぎる。


「はは……これじゃあ、絵に描いたような支配者だな……」


王の役割を突然与えられたリオトは、無理な願いを思い描き、苦笑する


ただ、喜ばしいのはベルノスという頼もしい仲間を得たことだ。

意思の疎通そつうが取れ、知能も高い。

冷静であり、戦闘力も優れている。

これほどの存在を異世界で最初に得られたのは強運だろう。


ベルノスのような強力なユニットがいれば、よほどの強敵が来ない限り戦えるだろう。

攻撃力も高く、体力もタフだ。


さらに、深淵の従僕、邪神のしもべ、ナイトシャドウ・ウルフがいるのも大きい。

広範囲攻撃を持つ敵が出てこなければ、従僕たちも活躍できる。


しかし、リオトは不安を覚えていた。

取り戻した過去の記憶では、大自然の中に入った経験はない。

ナイトシャドウ・ウルフの襲撃が、その不安をさらにかき立てていた。

一匹なら対処できたが、れで襲われた場合、本当に対処できるのか……。


また、EDDエデドの時は、ダメージをおったユニットは一定時間経過により体力が回復したが、この現実となった異世界において、はたしてただの時間経過で回復するのか。


もし、ユニットが時間経過で回復しないなら、どうする......。


もし、しない場合は回復手段を用意しなければ積む。

それは、毒物や状態異常も同様だ。


拠点を築けば医者や薬師を確保できるはずだが、今はそれがない。


ふと、リオトは考えを巡らせる。


「ベルノス、聞きたいことがあるんだけど」

「はい。何でございましょうか?」

「ベルノスは、傷を癒したり、解毒する呪文は使えるのか?」


リオトが尋ねるのも無理はない。深淵の司祭はEDDエデドではただのタンク役で、回復能力は持たず、回復能力を持つユニットは一部の文明を除き、深淵アビス文明ではかなり稀少だった。


「はい。可能でございます」

「本当かっ!」」


リオトは思わず声を上げ、ガッツポーズを取った。

これは大きな発見だ。


ベルノスが回復能力を持っていることは、現実に召喚されたことで新たに得た力なのかもしれない。


「えっと、ベルノスが使える呪文について教えてくれ」

「かしこまりました」


ベルノスから教わった呪文は、すべて低位のものらしいのだが、非常に有用だった。

軽い外傷を癒す『ヒール』、

麻痺や毒、頭痛などを取り除く『ステータスヒール』、

状態異常の呪いを解く『カースブレイク』

物理攻撃や魔法攻撃を軽減する『シールド』、

そして周囲を照らす光を生み出す『ライト』。


リオトは涙が出そうなくらい喜んだ。


「すごいよ!本当にすごい、ベルノス!」

「リオト様のお役に立てるのであれば、何よりでございます」


ベルノスは微笑み、リオトは喜びをかみしめた。

他にも、リオトは呪文、魔法についてベルノスに尋ねると教えてくれた。

――魔法とは、自然界や魔力からエネルギーを引き出し、呪文や儀式を通じて現実の法則を超えた効果を生み出す技術。


ということらしい。リオトは「ふーん」と何となく、前の世界でイメージしていた通りというのが感想だ。


欲を言えば教えてもらい、自分でも使えるようになりたいが、そのような時間はないし、この世界と自分の能力を理解することを優先すべきだろう。


それに、簡単に覚えられるものではないようなので、そのうち――安心できる拠点が作れれば、ベルノスに教えてもらうのもいいな......と考えた。

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