第7話 名を与えし司祭②


リオトたちは、ナイトシャドウ・ウルフを先導させ、森の奥へと進んでいく。


途中、リオトはふとした思いつきを口にした。


「そういえば……ずっと『深淵の司祭』って呼んでるけど、少し堅苦しいというか……ちょっと変じゃないかな?」


確かに、ゲームの中ではユニットに固有の名前を付けることは少なく、ただ「司祭」や「騎士」といった役職で呼んでいたし、実際の表記もそうであった。


しかし、この世界では彼らはと同じく生きている存在であり、ずっと「深淵の司祭」と呼ぶのは、どこかしっくりこなかった。


「そう、ですか……私には他に呼ぶ名はございません。もし神子みこ様が名を与えてくださるなら、それは大いなる名誉めいよにございます」


リオトはしばらく考えた後、思いつきでこう言った。


「じゃあ......『ベルノス』って、どうかな?」


その瞬間、リオトの前に突然ピコンッと音が鳴り、目の前にパネルが浮かび上がった。


『深淵の司祭をネームドに進化させますか?5回の進化権を1つ消費します。はい/いいえ』


「……進化権を使うって……え?」


リオトは画面に表示されたメッセージに驚愕きょうがくした。EDDエデドのゲームにおける進化は、ユニットのステータスを大幅に強化するが、1戦場で5体までしか進化できない非常に貴重な行動だ。


進化させたユニットが戦闘で倒された場合、その進化枠は無駄になるため、非常に慎重な判断が求められる。


ここで進化権を使うなんて……本当に大丈夫か?


リオトは迷った。


今後、さらに強力な敵や未知の脅威が待ち受けている中で、進化枠をここで1つ使ってしまうことに不安を感じた。


次に引くユニットがさらに強力かもしれないし、その時に進化を使った方が有利かもしれない。


しかし、リオトはこれまでの深淵の司祭――いや、ベルノス――が見せてきた忠誠心や、命をかけて守ってくれた姿を思い出した。


……いや、ここで彼を進化させるべきだ。これから先、どれだけ強敵が出てくるかわからないけど、今ここで信頼できる仲間を進化させるのも悪くないはず。


リオトは意を決してパネルの「はい」を選ぶ。


「深淵の司祭。君に名前を与える。名は、ベルノス......これから君は『ベルノス』だ!」


深淵の司祭は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにその顔を引き締め、リオトに深々と頭を下げた。


「ベルノス……とても良い響きです。私にとって何よりも名誉ある名でございます。これからはその名を背負い、リオト様に永遠の忠誠をちかいます。」


その瞬間、ベルノスの体がまばゆい光に包まれた。光は徐々に強さを増し、やがて黒い炎が地面から巻き上がった。炎がベルノスの体を覆い、まるで異世界のエネルギーが彼の中に流れ込んでいるようだった。


「これが……進化?」


ベルノスの姿が変わり始めた。

豪華な司祭服はさらに荘厳そうごんなものに変わり、彼が持つ杖も神秘的な紋様が浮かび上がり、黒金属の槍のように変貌へんぼうしていった。


その姿は、司祭というよりも大司教だとか、教皇のような威厳いげんを持っていた。


また、ベルノスの体に光が満ち、彼の肌の鱗が次第に滑らかになっていく。

徐々に、蛇のような顔つきが崩れ、鋭利で整った美男子の顔へと変貌を遂げる。


蛇の面影は消え、美男子の顔がそこにあったが、その瞳には、未だに蛇を思わせる鋭さが残り、まるで底知れぬ闇を覗き込むかのような冷たさが残っていた。


「すごい......これが進化か」


リオトはその光景に圧倒されながらも、目の前に現れたベルノスの進化後の姿に驚嘆きょうたんした。進化によって彼のステータスが上がっただけでなく、その周囲には新たな力の気配がただよっていた。


「深淵の従僕じゅうぼくよ、その力を解放せよ。」


ベルノスが静かに命じると、リオトの周囲にいた3体の従僕たちもまた、変化をげた。彼らの攻撃力が上昇し、両手が鋭いつめのように変わり、闇の力を帯びているのが感じ取れた。どことなく邪神のしもべんい近づいたような容姿だ。


確認のために、パネルを開き、自分の指揮下にあるユニット一覧を開くと、深淵の従僕のステータスが攻撃力:1→2、体力:1→2へと上昇していた。


「深淵の司祭の進化時の特殊効果……深淵の従僕たちの攻撃力が上がっている……」


そして、ベルノスも進化したためステータスの数値が上昇していた。

ユニット一覧のベルノスのカードもふちに装飾が付き豪華になっている。EDDエデド好きなリオトにとっては嬉しい演出だった。


深淵しんえん司祭しさいベルノス

種類: ユニット(ハイレア→ユニークレア)

攻撃力:4→6

体力:6→8


「攻撃力は、王ユニットである俺が剣を装備した状態と一緒か......体力も竜種かレジェンドユニットクラスといっても良いぐらいか......」


リオトは少し安堵あんどしながらも、進化権を1つ使ってしまったことに対する不安は拭えなかった。


5回しか使えない進化権をここで消費するという決断が、本当に正しかったのかどうか、まだリオトにはわからない。


そのとき、リオトの前に再びパネルが現れた。


――――――――――


《クエスト 任意のユニット一体を進化させる:をクリアしました。》

《クリア報酬:デッキ拡張パックx1を獲得しました。》

《クリア報酬:報酬:+5000XPを獲得しました。》

《経験値が一定以上溜まりましたため、レベルアップします。》

《リオトのレベルが2から4に上がりました!》

《レベルアップ報酬:デッキ拡張パック x6 を獲得しました。》

《レベルアップ報酬:指定カードパック x1 を獲得しました。》

《レベルアップ報酬:深淵文明強化パック x1 を獲得しました。》


――――――――――


パネルには、経験値と報酬が表示されていた。


「……まさか、これもクエストの一部だったのか……」


リオトはその報酬を見ながら、少しだけ肩の力を抜いた。

しかし同時に、パネルに表示された報酬の中には、すぐに使えないものであったことに、わずかに不満を感じた。


「……使えないものを今もらっても……」軽くため息をつく。


だが、リオトはすぐに気持ちを切り替えた。これから先のことを考えて、進化の残り4回をどう使うか、慎重しんちょうに考えなければならない。


「進化枠は……無駄にはできないな……」


リオトは自分に言い聞かせるように、進化したベルノスを見つめた。


「リオト様、進化の恩恵を賜り、感謝いたします。これからも変わらずお使いくださいませ」

「こちらこそ、ベルノス。これからも頼りにしてるよ。でもさ……少しリラックスして話してもいいんじゃないかな......って」

「いえ、神子様。神子様に対して、そのような無礼は……」

「そもそも、『神子みこ様』って呼び方、ちょっと堅苦しくない?せめて普通に名前で呼んでくれると嬉しいんだけど。一応、リオトって名前があるし......」

「っ……で、ございましたら……リオト様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「『様』付きか……まぁ、それくらいなら……まだ、ぞわっとするけど」

「かしこまりました、リオト様」


リオトは微笑みながら、目の前で進化を果たしたベルノスに少しの安心感を覚えた。

彼がただの司祭ではなく、頼もしい仲間であることを改めて実感したのだ。


「さあ、移動しよう」


リオト一行は、拠点を築く場所を探すべく、森の奥へと足を進めていった。

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