第5話 目覚め⑤

リオトは目の前の状況に圧倒されながらも、再びパネルを確認した。

報酬として得た経験値や称号、そしてカードが次々に表示されていく。


ゲーム内のシステムが現実として展開している感覚は、彼にとって圧倒的でありながらも、どこか現実感がとぼしい。


リオトは手に入れた報酬を確認しながら、ようやく心の中で安堵する。

しかし、その安堵の背後には、現実としての異世界の重みがゆっくりと押し寄せてくるのを感じていた。


しかし、今は立ち止まって考える余裕はない。

目の前の深淵の司祭や報酬の表示は、明確に彼が異世界にいることを物語っていた。


「レベルアップした……?」


ステータスを確認すると、レベルが1から2に変化しており、次のレベル3に必要な経験値が2000XPと表示されていた。


ただし、それ以外にステータス画面で変化はない。ステータスアップなどは無いようだ。


青年はパネルの報酬を確認し、再び思考を巡らせた。

特に「汎用カード:ナイトシャドウ・ウルフを手に入れました」という表示に目を留めた。


彼は手を軽く動かし、頭に浮かんだ「手札」という言葉に意識を集中させた。

すると、パネルが再び目の前に現れ、現在の手札が表示される。


その中には、先ほどの戦闘で得たナイトシャドウ・ウルフのカードが1枚新たに加わっていた。

カードのイラストは、今まさに倒した狼の姿そのものである。


「やっぱり、倒した敵をカードにできるのか……」


リオトは少し戸惑いながらも、その能力に可能性を感じた。

もし、この異世界で出会う魔物たちを次々とカード化できるのであれば、彼自身のデッキはどんどん強化されるだろう。


だが、同時に青年は、この世界での「現実」としての重さを実感していた。

カード化された魔物も、ただのゲームの駒ではなく、生きた存在であったこと。


そして、何よりも自分が――間接的にとはいえ――殺したを考えると、少なからずパネルに表示されているカードに、そして自分の指示で戦ってくれた深淵の司祭という存在に――葛藤かっとうが胸に渦巻いた。


「でも……生き残るためには……」


そんな思考を振り切るように、青年は目の前の深淵の司祭に目を向けた。


深淵の司祭は倒したナイトシャドウ・ウルフの死骸しがいを引きずりながら、リオトの元へと歩み寄ってきた。その姿は、まさに異形の神官であり、冷たい威圧感を放っている。


しかし、考えても答えが出ない状況で、今は目の前にある現実に向き合うしかない。


リオトは深呼吸をし、冷静さを取り戻そうとした。次に何が起こるかはわからないが、自分の力を信じて進むしかない。


その時、再び「ピコンッ」という音が鳴り響いた。彼はパネルに目を向ける。


《ミッション3: 次なる試練へ進め

未踏の領域に深淵の拠点を設置し、文明を拡張せよ。》


リオトはしばらくパネルを見つめ、そしてゆっくりと立ち上がった。


「次なる、か……拠点を築くんだな……」


その時、彼の頭にふと疑問が浮かんだ。


「この世界……本当に俺はどうすればいいんだ?」


今のところはミッションに従い、デッキを選び、ユニットを召喚して戦っているが、この先に何が待ち受けているのかは不透明だ。


この異世界の目的や自分の役割、そしてなぜこの世界に来たのか、青年にはまだ分からないことばかりだった。


深淵の司祭が静かにリオトの横に立ち、忠実に彼の命令を待っている。

その姿を見て、リオトは改めてこの異世界での自分の立場を自覚した。

彼はこの異世界において、深淵文明の王、そして邪神の神子という役割を与えられている。


そして、その役割は、ただのゲームキャラクターのように軽いものではない。

この世界で自分自身の命を守り、そして他のとの関わりを持ちながら、何とかして生き抜かなければならない。


だが、それと同時に、心に浮かんだのは別の疑問だった。


――俺は、元いた世界でどうなっているんだ?


家族や友人は? どうして何も思い出せない? どうやってここに来た?どうして俺に、ゲームの力が使えるんだ?



「やるしかない……」



彼は自分に言い聞かせるように、深く息を吐いた。

次に何が起こるかはわからない。


だが、彼はこの世界で生き抜くために、進み続けなければならない。


リオトは胸の奥で膨れ上がる不安を無理やり押し込めながら、深淵の司祭とともに、未踏の領域へと足を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る