第2話

今日はまとまった収入が出来たのと特にすることも無いため朝から一人、酒場でお気に入りのボアの串焼きを片手に他の机の冒険者たちの話に耳を傾ける。


「そろそろ貸した金返せよな」「競魔でガツンと当たったら返すってば」

「おい冒険者真っ当に稼いでさっさと返せよな」

「聞いたかよ、『荒れ斧』の連中がこっちの地区に遠征に来てるらしいぞ」

「こりゃしばらく狩場が荒れるなぁ」


『荒れ斧』、『荒ぶる大斧』がまたこっちに遠征かぁ。

生活の素行も悪けりゃ探索の素行も悪い。あまり関わりたくないタイプのクランだ。


「そういや深層遠征部隊の帰還が近いんじゃないかったか」

「らしいな。今回は黄金級パーティー『しるべのカンテラ』が参加してるみたいでアデルべが騒いでたからな、今日明日に戻ってくるんじゃないかって」

「カンテラ狂いのアデルべがその調子なら信憑性は高そうだな」


おっと、もやもやした気分で食べ終わった串を指先でぐりぐりと回して弄んでいると景気のいい話題が聞こえてきた。

深層遠征部隊。地下迷宮アステラは一層三階構成で出来ており三階奥には次の層への階段とそれをふさぐボス部屋が配置されている。現在把握されている限り最深部は四十九層二階まで、今回の深層遠征部隊は五十層三階攻略を目指してのものだそうだ。

現在までに発見されている迷宮は最下層は五十層までというのが基本だ。この大迷宮、地下迷宮アステラの完全攻略が近いとなれば一層この地区も盛り上がっていくだろう。

そのため今回の深層遠征で五十層の転送装置の起動が願われているモノでもあるのだ。


ちなみに、行こうと思えば鉄片級の冒険者だろうが一般人であろうが転送装置を利用できてしまえるため、転送装置周辺は組合常駐騎士たちによって四六時中監視され利用する際も組合の所属票を見せなければ利用できないようになっている。が、基本迷宮で死んでしまうのは自己責任という共通意識が強い為、あくまで馬鹿が馬鹿なことをしないための処置なのだ。


「それにしても『導のカンテラ』か」

昔の思い出にひたろうとしたところに入口の扉が活き男良く開け放たれる。目線を向けると肩で息をする男が一人。すわ非常事態かと男の声に耳を傾ける。


「カンテラが!『導のカンテラ』たち、深層遠征部隊が五十層を攻略して帰還したぞ!」

その声に組合員から酒場で飲んでいた奴らまでもが大歓声を上げる。報告した男をよく見れば『導のカンテラ』のファンを公言してはばからないアデルべだった。

アデルべはそのまま酒場の方までかけてくると本職の吟遊詩人ばりに堂々とした態度で語りを始める。その内容は深層遠征部隊、おもに『導のカンテラ』たちの英雄的活躍を丸で見て来たかのように語り上げる。それに対して「同行していたわけじゃないだろ!」「へたくそ!」「ゴブリンの鼻歌野郎!」「すっこめぇ!!」など散々なヤジが飛ぶ。


「師匠!貴方の一番弟子ジークフリードが!!五十層を攻略いたしましたよ!!!」

そんな喧騒を裂く強烈な大声が入口から響き渡ると全員の視線が一転に集まる。

そこにたたずむ巨体の大男はプレートアーマーを身にまとい背にはその巨体と同等に巨大な鉄塊とも呼べるような大剣を背負い、腰部からのびている鱗の生えた太ましい尻尾が本人の興奮度合いを表すかのように何度も床をしたたかに打ち鳴らす。

「ジーク、まずは組合への報告でしょう?あと攻略したのは深層遠征部隊です。他の方々の力が無ければ決して攻略はできなかったでしょう?」

「そうだぜジークのアニィ、一旦落ち着けよ」

「ジークのおじ様好きは止められないもの、ね?リア」

「そうですねレア姉様、止めようがないですからしょうがないです」

そんな彼の後ろから鎧を身につけ大盾を背負う男性と対照的に軽装の鼠の耳と尾を持つ男性、そしてプラチナブロンドの長髪をたなびかせた瓜二つの外見をした眉目秀麗なエルフの双子の女性が続いて建物に入ってくる。


「本物の『導のカンテラ』だ…」

先ほどまでの喧騒を忘れた室内にざわめきが走る。


おっとこれはまずい。もうちょい端の方に移動しなくては。


「おぉ我が師よそこにおられたか!このジークフリードが今この時に帰還することなどお見通しだったということか!!」

見つかった。


「ジークフリード君お久しぶりですね、君たちの武勇は吟遊詩人たちの詩のタネになっているほどに耳に届いているよ」

先ほどまでの自分の行動を無かったことにして笑顔を顔に張り付けて再開を喜ぶ。


「あらいやだわおじ様、私たちには何もないのかしら、ね?リア」

「そうですねレア姉様、私たちには一言の挨拶もくれない酷い師匠です」

ざくり。言葉のナイフが背中から二本も投げつけられてしまった。


「リア君にレア君も相変わらず仲がいいようでおじさんはうれしいよ」

忘れていたわけではない旨を付け足して詫びると機嫌を治したのか私の座っていた席の空席へ腰を下ろす二人。このまま居座るつもりか?


「それにしてもついさっきの帰還だったんだろう探索の泥落としをしてからでもよかったんじゃないのかい?」

悪あがきに休息ついでに出直した方がいいのではないかと打診してみると大盾の男ことフェデリコさんから反撃を喰らう。

「血だの諸々の汚れは聖導教会の神官様方に”清浄クリーン”で落としてもらいましたし、早めに報告しておきたいことがありましてね」


それはまたわかりやすい。

わざわざ神官様に”清浄クリーン”を使ってもらってまでの急ぎの要件となれば…。


「やっかいごとかい?」

「ある意味そうですね。五十一層目が発見されました、現在発見されている中でも最深階層ですよ」



=登場人物

〇銀級クラン『荒ぶる大斧』

 通称:荒れ斧 素行悪し

〇黄金級パーティー『導のカンテラ』

 男3人女2人の黄金級冒険者のパーティー

 ジークフリード・フェデリコ・ガヴィ・アステリア・アストレア

〇深層遠征部隊

 組合より

 ・黄金級パーティー 3パーティー 15名

 ・組合騎士 3名

 聖導教会より

 ・高位神官 5名

 ・聖騎士 6名

 

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