今は昔の英雄譚
鬼〇 赤口
第一章 そのおじさん、元英雄
第1話
地下迷宮アステラ一層『始まりの洞穴』、三階ボス部屋にて響く剣戟音と交じり合う連携する声と、短い悲鳴。
「はあッ!」「盾で目線を隠し過ぎないように注意!」
チャーリー君が盾でゴブリンの攻撃を受ければ、次に生かすためのアドバイスを。
「えっと…」「奥の個体を狙え!仲間を射らないように気をつけろ!」
弓を構えたジェナ君が攻撃をためらえば、狙いやすい相手を指示出しする。
「そのままゴブリンたちを盾で押し込んでとどめを!」「せいッ!」
ボブ君とアレックス君が残りの一匹を盾で動きを封じたうえでとどめを刺す。
「みんなお疲れ様。周囲を確認したらドロップ品を拾ってしまおう!」「「はい!」」
今日で三回目の迷宮探索、四日目でボス部屋まで攻略できたのは一回目の迷宮探索から考えれば十分以上の成長といえるだろう。
ドロップ品を集める『希望の木漏れ日』の皆をしり目に今回の指導任務の経過を算出する。
「さて一層のボスはゴブリン兵士の群れ、量で押してくる敵を相手にうまく連携をできたからこそ無事に攻略で来たんだ。特にジュナ君は最初のころに比べて連携ができて来たのか誤射の危険がありそうな射撃もとんと減ったね」
「それにボブ君たちも最初に比べて武器ばかりでなく盾をうまく使って怪我することも減っているようだし今日のボス部屋報酬を回収して帰還したら指導は終了になるかな!」
「ほんとですか!」
「ああ、僕のほうから今回の報告書に銅級への昇格推薦を添えておくよ」
「「ありがとうございます」」
『希望の木漏れ日』のみんながそろって頭を下げる。
この子たちなら無茶な冒険をせずに着実にすすんでいけるだろうな…。
「みんなの中に『鍵師』と『罠察知』系の『技能』持ちはいなかったね。基本的にはボス部屋報酬は鍵も罠もかかっていないことが多いんだけれど最後まで油断しない事っと、それでは御開帳!」
なかには少しばかりの銀貨と同課の山と宝飾品がわずかにはいっていた。
「はいボブ君ここで最終講義です。宝箱に入っているお宝で気を付けなければならないことを三つあげてみて?」
「えっと、貨幣や宝石が本物かどうかと呪いと…」
最後のひとつが出てこないようで言葉に詰まるボブに時間切れを言い渡す。
「そこまで。惜しかったけど正しくは、呪い、罠、擬態の三つだね」
「貨幣や宝飾品は人の怨念などが残りやすい代物だから回収するときは必ず素手で触れない事。次に、中身の重量差で起動するような罠も存在するから無警戒に取り出さない事。最後に宝箱だけではなく財宝それ自体にも擬態する魔物も存在するためよく観察すること。
これは以前にも伝えたけど迷宮探索を続けていくうえでは臨時でも鍵師を雇うのが一番だよ。
自分たちで身につけていくのも手だけれどそればかり人気を取られて戦闘能力が衰えたら本末転倒だからね」
少し細かすぎることで長々と話してしまったかな。反省。
「っと忘れずお宝回収したら撤退するとしますかねみんな集まって!」
『希望の木漏れ日』の面々が周囲に集まったことを確認してから帰還魔法にて迷宮を脱出する。
★
「鉄片級冒険者チーム『希望の木漏れ日』の迷宮探索指導任務、報告書の確認完了いたしましたご苦労様ですこちら報酬の銀貨20枚です、お納めください。それにしてもウォーレンさんは報告書の書き方が綺麗で簡潔にまとまっていて確認が楽で助かります!」
「ありがとう。でも結局こういうのは慣れだからね年の功ってやつだよ」
エレニアさんはそう言っておだててはくれるが、結局資料作成なんてものは慣れに過ぎないのである。事前に報告書のテンプレートを作っておき、それに従って今回の仕事内容をまとめてしまえばいいだけなのだ、だからそんなに難しいことじゃないと主張をすれば。
「それができるだけでありがたいってことなんですよ」と笑顔で返されてしまえば彼女からのお世辞を受け取らざるを得ないのだった。
「ウォーレンさん!今回は大変お世話になりました!」
「ありがとうございました!」
「いやいやどういたしまして、引き続き無茶せずにね冒険者は身体が資本だからね」
『希望の木漏れ日』の面々に別れを告げ、足を向けるのは組合に併設されてる酒場『狼の遠吠え亭』。
「さてさて、仕事終わりの一杯といきますかね。ミスティ君!エールひとつとボアの串焼き一皿お願い!」
「はーい!エールひとつにいつもの一皿ねー!」
看板娘のミスティ君に注文を頼めばはつらつとした声色で返事が返ってくる。
うんうん、ここにくるとようやく戻ってきたなって感じがするなぁ。
「よぉ元気そうじゃねえかウォーレン」
「ローガン爺、元気にやらしてもらってるよ。そっちの調子はどうだい?」
早速届いた串焼きをあてに一人エールをあおっていると後ろから強引な勢いで肩を組まれる。
機器なじみのある声に振り替えればこのあたりの組合チームの中では中堅どころとして安定した成果を出し続けている銀チームの『鋼鉄の大槌』の副長ローガン爺がそこにいた。すでに赤ら顔である為自分よりも先に酒場で一杯やっていたのであろう。椅子に腰かけている自身と同等の身長の彼はいわゆる鉱山人とも呼ばれるドワーフ族の老人である。ドワーフ族は長寿種族のひとつであり例にもれずこのローガン爺も御年、百三十七歳である。
こちらからも調子を尋ねれば、期限がよさそうにエールの入った樽グラスを手にテーブルの向かいの空いた席に座り込んで話し出す。
「若いのが二人ほど入ったがなかなか優秀でな、片方は治癒術もなかなかの精度と来た。聞いたところによるとさる黄金級冒険者様にご指導いただいたんだとよ。オメェのおかげで若いうちから無茶しやがる奴が減って老骨としちゃ嬉しい限りよ」
『鋼鉄の大槌』に入る、一人は治癒術が使える若い二人っていうと…。
「ランツ君とミラベル君たちのふたりかな」
「そうそう!そんな名前だったぜ。さすがだな教え子の名前は全員分覚えてやがるのか?」
「まあね、ミラベル君は僕が教える前から治癒術の精度が高かったからなおのこと記憶に残ってたからね」
その後は教え子たちの近況を聞いてみたり、攻略状況の交換など小難しい内容から酒精が回ってくれば近くの知り合いを巻き込んで下世話な話で盛り上がりを見せた。
次の依頼はなにをこなそうかな。
=登場人物
〇ウォーレン:主人公
〇エレニア:受付嬢
〇『希望の木漏れ日』:男3人女1人の鉄片級冒険者パーティー
ボブ・チャーリー・アレックス・ジェナ
〇ミスティ:組合併設の酒場『狼の遠吠え亭』の看板娘
〇ローガン:『鋼鉄の大槌』所属、副長の銀級冒険者 ドワーフ
〇ランツ&ミラベル:『鋼鉄の大槌』の新入り
ミラベルは治癒術を習得している
今は昔の英雄譚 鬼〇 赤口 @onimarusyakkou
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