逆転生エルフさんはエセ魔法少女
神無月ナナメ
(本編タイトル)現代に転生した引きこもりエルフは未登校医学生のウェブ作家です。
「おまえら揃いでおバカじゃね? 体力ないムっちゃんになにしてくれとんねん!」
外から眼前まで駆け上る細腕に跳ね除けられたわたしにブチ切れながらの絶叫だ。
それでも威勢のいい姉より頭一つ分小さく見えたからガキ大将でも年下っぽいよね。
「てめえらみたいなドン臭いオンナがオレらの
ここしばらく遊び場にした児童公園の雰囲気がどこか一触即発的な空気を帯びる。
「おバカさんの極みじゃね。弱っちい女に力と口で勝てないようなクソ野郎がっ!」
煽り体制ゼロの追撃で正面から即応するのは後先考えない子供ゆえの過ちだけど。
子供らしさが微塵もない冷静な判断と記憶力はフラッシュバックした悪夢のせい。
忘れられない記憶になりPTSDを生んだが実際は「起こらなかった」事故なんだ。
日中都心部の公園に珍しく誰も目撃者がいないことが問題視されるクラスの事故。
クッションを敷いて安全対策しない時代の最高位10メートル近いジャングルジム。
最上までスルスル金属棒を伝い登ってきた男子たちでも唯一の大柄なガキ大将だ。
「女でもドン臭くねぇならここから落ちても平気だろ。ケガなんてしねぇよなぁ!」
目前に迫りくる握りこぶしを振り払おうと退いた姉が足元からバランスを崩した。
お互いに腕を伸ばしながらつかみ損ねて長い黒髪が宙に拡がり舞い踊るような少女。
謎のスポットライトが照らす極限まで目口を大きく開いた姉と束の間見つめ合う。
もちろん時間は巻き戻せないし子どもの体で重力に逆らうことができるはずもなく。
公立小育ちの中学年女児がなぜそんな行動をしたのか現実問題として微妙すぎる。
気づけば無人の公園で寝そべるだけの姉に祈りを捧げたことが功を奏した結果論だ。
仰向きで目を閉じた呼吸のない姉を前にして一心不乱に祈りを捧げる姿は泣ける。
かなり特殊な環境に生まれて普通の親でもなかったけれどキリスト教徒じゃない。
後からどこかで見つけた聖母マリアの祈りみたいと感じたことは単に偶然の一致だ。
七色光で全身包まれたと意識した瞬間に手のひらから謎パワーを放出したっぽい。
同時に……ここじゃない世界で長命エルフとしてすごした記憶までなぜか芽生えた。
子供でもハリーポッターぐらいどこかで見たかもしれないけれどそっちじゃない。
異世界ファンタジーで定番かもしれない精霊魔法による治癒力だと理解できたんだ。
「あれっなんでムっちゃんが泣いてんのさ。わけわかんないけどなんかあったの?」
普段と変わらず明るいミーちゃんの声が耳朶に響こうとも涙は止まる気配がない。
ある意味……秀逸すぎるオチを含めて悪くない結果だから終わらない夢になった。
理解できずに現実逃避したせいでフラッシュバックを生んだことは偶然じゃない。
なんでこんなことになったか訳わからないし前の風景を理解したくない自分もいる。
幼いころから周囲と馴染めず距離を置いてきた自分はアレ……いわゆる中二病だ。
陰湿なイジメもなく気楽な学生時代をすごせた理由は先に生まれた片割れのおかげ。
一卵性双生児ミーちゃんは西園寺美月。誰に対しても優しい美人すぎるお嬢さま。
見た目は瓜二つだけど……月と太陽ぐらい違う明るさで照らす彼女がいないと死ぬ。
結局のところ辛くて仕方なかった半生すべての要因は自身にあるから救いがない。
極端すぎる日々のお仕事……外見やトーク力を売りにしたパチスロ演者見習いの姉。
部屋で引きこもるわたしは炎上や売れる気配が一切ないウェブ小説家ってヤツだ。
日記じゃないけれどケイタイ小説みたいにスマホで連ねた長い駄文が書籍化された。
おかしなファンがいて続刊されるライトノベルの展開に頭を抱える日々なんだよ。
誰一人信じてもらえない普通じゃない記憶を保持した逆異世界転生エルフのわたし。
リアルなキャラクターが世界観にマッチングした結果なんてホント笑わせないで。
あはははは。もちろん精神病じゃないし中二病罹患していても狂ってはないよね。
ファンタジーと現実の差がわからず世界の理を意識できない無敵状態の子ども時代。
周囲にいる人……すべての記憶を改ざんしたいぐらいに黒歴史だったし痛すぎる。
大人になり公立大医学部にこっそり合格して手続きしたけれど中身は変わらない。
執筆で忙しいと面倒くさいから逃げるだけで一度も登校できないようなダメ人間だ。
ある日……図書館で目にした異世界に転生した主人公が無双する本は衝撃だった。
事故で生えた……魂の片割れに伝えられないままの記憶は異世界住人のエルフさん。
おバカすぎるオカルト現象だから理解しても笑うしかできなかった……昨年まで。
2023年1月23日の午後4時56分……局地的大地震からリアルに直面する。
日没と同期した地震から大阪靱公園は【始まりの迷宮】と呼称される境界線なんだ。
振り返れば普通だった姉やその仲間たちがいて目前に迷彩服集団が群がる靱公園。
靱公園テニスコートなどの世界八十八か所に地下迷宮【ダンジョン】が生まれた。
これは異世界エルフだったファンタジーな記憶と折り合いをつけられない女の物語。
どことなく宇宙世紀アニメ二代目のオープニングテーマ風オチが泣きたいぐらい。
逆転生(自称)黒髪短耳エルフちゃんなんて「草も生えない」頭おか妄想乙じゃん。
逆転生エルフさんはエセ魔法少女 神無月ナナメ @ucchii107
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます