僕と彼女はいつも同じ

リラックス夢土

第1話 僕と彼女はいつも同じ

 朝の通学のための電車。

 部活の朝の練習があるからまだ人が疎らな早朝の電車に僕は乗っている。


 毎日、同じ電車の同じ車両の同じ扉から僕は乗る。

 そしていつもの彼女も毎日僕と同じ電車の同じ車両の同じ扉から乗る。

 彼女と僕の距離はいつも同じ。


 彼女がどこの誰かは知らない。

 最初は可愛い子だなって思ったのが彼女を意識するようになったきっかけ。

 そのうち彼女と僅かに過ごせる毎日の電車の中が僕には特別な時間になった。


 僕は彼女に惹かれていたが告白する勇気はない。

 ただ毎日彼女と同じ電車に乗って彼女のことを見てればそれで良かったんだ。


 だけどある日彼女はいつもの電車が来ても姿を現さなかった。

 その次の日もその次の日も彼女の姿は確認できない。


 もしかしたら僕が彼女を見ているのに気付いてストーカーと思われたのかな。


 少し残念に思いながら僕はいつもと同じ電車の同じ車両の同じ扉の場所で電車を待っていた。


 何気なく電車を待ちながら後ろを振り向くとなんと僕の後ろには彼女がいた。

 まさか自分の後ろに彼女がいるなんて思わなかったから驚いたが僕は嬉しくなる。


 良かった。きっと体調不良か何かで学校を休んでいただけだったんだ。


 今日からまた彼女の姿が見れると思うと僕の心は浮き立つ。

 そしていつもの電車がホームへと入ってくる。


 僕は彼女の前に立ちながらホームに入ってくる電車を見ていた。

 すると彼女の声が後ろから聞こえる。


「私もあなたが好きなの」


「え?」


 ドン!


 僕は後ろから背中を強い力で押されてホームから線路に落ちる。

 最後に僕が見た光景は彼女が笑顔で僕を見ていた姿だった。





「それでホームから転落した時に周囲に人はいなかったんですね?」


「はい。私が見た時にはその学生は自分で線路に落ちました。でも……」


 警察に事故現場を目撃したサラリーマンはそう答えながら僅かに首を捻った。


「何か不審なことでも?」


「いえ、ただ、その学生が線路に落ちる時に誰かが彼の背中を押したように突然前のめりに落ちたので……」


「誰かが学生の後ろにいたんですか?」


「いえ、誰もいなかったんです。他の人にも聞いてくれれば分かります」


「ええ、私も目撃しましたが学生の側には誰もいませんでしたよ」


「そうですか。ご協力ありがとうございました」




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