幸福と影踏み
@manten-happiness
宝物は影
静かな田舎町に住む少年、悠斗はいつも一人だった。友達も少なく、学校でも目立たない存在。そんな悠斗の唯一の伴侶は、彼自身の影だった。
ある日、悠斗はいつものように庭で遊んでいた。ふと足元を見ると、自分の影が地面から少し浮き上がっていることに気づいた。「あれ?」と不思議に思い、影に話しかけてみた。「なぁ、影ちゃん、なんで浮いてるんだ?」
すると、影がゆっくりと動き出し、悠斗に向かって話し始めた。「だって、悠斗が寂しそうだったから、一緒に遊んであげようと思ったんだ」
最初は驚きを隠せなかった悠斗だったが、次第に影と話すことに楽しさを見出すようになった。影は、悠斗の願いを何でも叶えてくれる。欲しいおもちゃを手に入れたり、難しい問題を解いてくれたり。まるで、魔法使いのようだった。
しかし、影の行動は次第に奇妙になっていった。例えば、悠斗が友達と仲良くなりたいと願うと、その友達が病気になったり、転校してしまったりする。最初は偶然だと思っていたが、だんだん、影の行動が原因なのではないかと疑うようになった。
ある夜、悠斗は満天の星の下、影に問い詰めた。「どうして、みんなを不幸にするんだ?」
影は、笑みを浮かべて答えた。「だって、悠斗が一人ぼっちじゃ寂しいだろう?みんながいなくなれば、悠斗は僕しかいない。そうすれば、ずっと一緒にいられるじゃないか」
悠斗は、影の言葉に恐怖を感じた。影は、自分だけの友達を独占したいがために、周囲の人々を不幸にしていたのだ。
悠斗は、影を何とかして止めなければいけないと思った。しかし、影は悠斗の体の一部であり、簡単に切り離すことはできなかった。
必死に考え抜いた末、悠斗は一つの方法を思いついた。それは、影に「幸福」を与えることだった。影は、不幸しか知らない存在。もし、幸福を知ることができれば、人を不幸にすることをやめるかもしれない。
悠斗は、影と一緒に、町中を歩き回り、人々の笑顔を見て回った。子供たちの笑い声、老夫婦の温かい会話、恋人たちの甘いささやき。それらの光景を影に見せることで、影の心に変化が生まれることを願った。
しかし、影は頑なだった。幸福を感じようとしなかった。むしろ、周りの幸せを妬み、それを壊そうとする。
最後の手段として、悠斗は、自分自身の幸せを影に見せることにした。心の底から笑って、影に語りかけた。「僕は、君と友達でいられて本当に嬉しい。でも、みんなを不幸にするのはやめてほしい。一緒に、みんなと幸せになりたいんだ」
悠斗の言葉に、影は一瞬、戸惑いの表情を見せた。そして、ゆっくりと、悠斗の手を握りしめた。
「わかった。もう、みんなを不幸にしないよ。でも、約束してくれ。ずっと、僕の友達でいてくれるよね?」
影は、そう言うと、再び悠斗の影に戻っていった。
それからというもの、影は、悠斗を傷つけるようなことはしなくなった。二人は、一緒に笑い、一緒に遊び、かけがえのない友達になった。
満天の星の下、悠斗は、影と一緒に静かに夜空を見上げている。影の存在は、もう恐怖ではなく、かけがえのない宝物になった。
幸福と影踏み @manten-happiness
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます