手記27 片岡亮さん
片岡亮さんは、私がライブドアに投稿を始めた2006年当時、30代のフリージャーナリストだった。週刊誌などに記事を執筆するほか、テレビ出演もこなす。誰もが知っているような有名人でこそないが、私も一度は名前を聞いたことがある人だった。
その片岡さんからメールが届いた。
ミリオン出版が発行する「不思議ナックルズ」という季刊誌から、妊婦殺人事件をテーマに原稿用紙20枚程度の記事を執筆してくれとの依頼があった。つきましてはあなたの告発を取り上げたいので、取材に応じてほしいという内容。
何回かメールのやり取りがあったあと、1時間ほどの電話取材に応じた。
会話の中で感じたのは、やはり東京のような中央で個人名で活躍するジャーナリストは、才能のほどがぜんぜん違う、ということだ。このような人が、妊婦事件を深く掘り下げて本にでもまとめてくれればいいのに。だが、あいにく片岡さんは、この事件について短編の記事をものした後は、すぐ次の仕事に移っていかれた。
さて、片岡さんはこの事件の取材の締めとして、被害者の夫が移住したハワイまで赴き、取材の成果を伝えようとした。だが夫が経営する会社のスタッフに阻まれて、夫と面会することは出来なかったという。(これは片岡さんの記事に明記されているエピソード。)
私自身が夫に連絡をとれる情報を持ちながら、夫とコンタクトしようと思わない理由の一つはこれだ。
夫はもう時効が成立してしまったため、事件を諦めることが出来ているのかも知れない。そうでなかったら、どんな些細な情報でも得られるなら得たいと思うのではないだろうか。それとも一度は犯人扱いされて、すっかりマスコミ嫌いになっているのか。
いつまでも事件に拘泥するのは、私が女だから執念深いだけなのか。
被害者も女性だ。草葉の陰で、今でも許せない思いを抱いていない、とは誰にも言えない。
片岡さんはこんな話もしてくれた。
「マスコミの連中、あなたのことを噂してるよ。女性がネットで凄いことやってるって」
私は意外な感に打たれた。
マスコミが私の告発に動かないのは、2ちゃんねらー同様、告発を妄想とみなしているからだと思っていた。でもマスコミ事情に詳しい片岡さんによると、違っていたらしい。
「マスコミは昔の事件ではなかなか動かない。今の事件で手一杯だからだ」
それがマスコミが私の告発に動かない理由だと、片岡さんは教えてくれた。
あとあとになるが、私は「桜タブー」という言葉があることを知った。
「桜」は警察の紀章で、象徴。
「桜タブー」とはマスコミが警察の権力を恐れて、不祥事の報道を避けることをさす。この「桜タブー」を破った唯一の例が、2003年の北海道新聞の道警裏金疑惑報道だとされている。
その報道の顛末を語る本、『追及・北海道警「裏金」疑惑』北海道新聞取班(講談社文庫)を読んでみた。そしてマスコミが警察権力に立ち向かうことが、いかに苦難の多いものであるかを痛感させられた。新聞社に対する道警の嫌がらせがとにかく酷い。
2001年私が告発HPを立ち上げたとき、地元テレビ局B社の記者は、取材の打診をしておきながら、連絡を絶ってしまった。そのときは理由が不可解だったが、「桜タブー」を知れば、あのときの記者の行動にも納得できる。B記者は一旦は取材の意欲を持ったが、愛知県警に立ち向かうことを不利と悟って手を引いたのではないか。
大手マスコミが警察権力に立ち向かえば反対に潰されてしまう。だが弱小メディアなら、警察は黙殺する。私のような小さなネット告発者も黙殺すればそれで済む。
片岡さんは「桜タブー」について触れはしなかったが、私自身は間違いなくそれがあると、肌で感じる。
片岡さんが「不思議ナックルズ」に執筆した記事は、読み捨てにならず、「日本怪奇大全」というムック本にも再収録された。そのムック本はアマゾンなどのネット古書店で今でも手に入れることができる。
そのほか、反骨のジャーナリスト山岡俊介氏の著名ブログ「ストレイドッグ」にも、私の告発が紹介された。
「週刊SPA!」からも取材が入り、記事になった。
また、「Yahoo!カテゴリ」にも私の告発HP が掲載された。「Yahoo!カテゴリ」といっても憶えている人は少ないかもしれない。
1996年から2017年までYahoo!のサイトの冒頭にあったコンテンツで、Yahoo!サーファーと呼ばれる鋭意の社員たちが、各HP をめぐり、優良さを認定した数少ないものだけを「Yahoo!カテゴリ」に掲載してくれるのだ。ここに掲載されることはたいへん栄誉なことが、当時のネット界の常識だった。
私はHP に、「Yahoo!カテゴリ」収録サイトを示すバッジを掲げた。これで告発が妄想呼ばわりされることは減るのではないか。警察を恐れず私の告発を評価してくれたYahoo!サーファー氏に深謝。
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