第11話 密猟者退治の後始末
後始末の話になる。
密猟者たちを全員、叩きのめした後、おれは知り合いの帝国保護官に直接連絡を取り、高速巡洋艦でやってきた彼らに拘束した密猟者たちを引き渡した。
保護官は、すでに出荷された竜についても密売ルートを調査し、早急に確保、返還すると請け負ってくれた。
ヒトの身体に戻ったホルンは多くを語らず、密猟者たちの処分についても帝国に一任してくれた。
「おぬしには、とても世話になった。感謝する、竜の友よ」
「いいさ。おれはもう帝国の軍人じゃないし、どちらかというと追放された身の上だ。プリンを愛する同志の手助けができてよかった」
「うむ、プリンはすばらしいな。今日はメイシェラに三個ねだってみよう」
おれとホルンの側については、これで解決である。
しかし保護官としてはそれだけで終わらせるわけにもいかなかった様子だ。
「幼竜は、一度、地下市場に出てしまいました。たいそうな値がついたと聞きます。次こそ一攫千金、と狙う不埒者がまた出てくるかもしれません」
「いざとなれば、われが暴れてみせよう」
「
保護官は、緊張した面持ちでホルンに敬礼した。
まあ、こいつが本気で大暴れしたら、その星がひどいことになるだろうしなあ。
それは帝国としても困る、ということだ。
「もう一点。今回の密猟者たちを尋問していて判明したのですが、この星の総督が彼らに便宜を図っていた疑いがあります」
おれは先日、総督に挨拶したときの、事なかれ主義者なぼんやりとした顔を思い出す。
あれでも相応に賄賂を受け取り、陛下の屋敷があったこの星で悪事に手を染めていた、一丁前の悪党であったということか。
「この件については帝都に連絡済みですので、早急に総督の首がすげ替わることとなるでしょう」
「それは物理的に?」
保護官は笑った。
「陛下の信頼を裏切り、
笑顔が、怖い。
おれとホルンは揃って震え上がった。
「それと、これは親戚からの伝言なのですが……。『そのうち会いに行くから、おとなしく待ってるように』と」
「待って。あなたの親戚って誰!?」
「申し遅れましたが、わたしの家名はイスヴィル。親は伯爵家で、陛下より銀河東方の地を預かっております」
「イスヴィル伯爵家……ってことはイスヴィル少佐か」
「いまは中佐です、閣下。『自分を置いてさっさと引退したこと、許してはいない』と」
「いまは閣下じゃない。せっかく提督府のブラック労働から解放されたんだ、好きに生きればいいものを」
「忠義に厚い部下を持てて、羨ましいことです」
しれっとのたまう保護官に、おれはおおきなため息をついた。
ホルンが興味深そうに、おれの顔を下から覗き込んでくる。
「なんじゃ、おぬしのつがいか」
「違う。以前の部下だ」
ホルンは保護官に意味深な視線を向ける。
保護官は、今度はごまかすように笑った。
「では、わたしはこれで。本星に閣下の無事を報告いたします」
「だからもう閣下じゃないって。まあ、来るなら摂政の弱みのひとつ、ふたつでも握ってきてくれ」
「それはまた、難題ですな。さぞ張り切ることでしょう」
「あ、そこは無理って言わないんだ……」
引っ捕らえた双海人たちを高速巡洋艦に乗せて、保護官は星の海へ帰っていった。
ホルンによれば、助け出した幼竜たちはたいした怪我もなく、いまは元気に大陸中を飛びまわっているという。
幼竜の親世代も、さすがに今回の出来事には少しなりとも危機感を抱いたようで、幼竜たちのことをたまには気にかけるようにするらしい。
それでも、たまに、なのかぁと、ヒトの感覚では思わなくもないが……。
まあ、竜がそれほどに他者への関心が薄いからこそ、
「われは例外じゃからな」
そのあたりの話をするたびに、ホルンはそう言ってのける。
たいていは、口の端にプリンのカラメルをつけながら。
「まあ、しかし。他の竜もこのプリンを食べれば、少しは考えが変わるかもしれん」
「食べさせてみるか?」
「駄目じゃ。われの取り分が減る」
少し慌てた様子のホルン。
相変わらず、気が抜けるヤツだ。
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