第9話 密猟者退治(6)
我々、双海人は、半魚人のような見た目の環境適応人類である。
えら呼吸と肺呼吸を状況に応じて使い分けることができ、海でも陸でも生きられる上級人類だ。
陸上での環境が過酷な惑星でも生活できる。
ただし陸上では全身からぬめる粘液が分泌され、それが都市に生活する下級人類から、いささかの不興を買うこともある。
故に我々の多くは下級な他の種族に混じって暮らすことをあまり好まず、同族で固まって稼業を行う。
そういった稼業は、下級人類の法の外での活動となることが多い。
狩猟もそのひとつだ。
仲間うちでの信頼だけを頼みとする我らにとって、典型的な稼業のひとつを、下級人類たちは密漁などと呼んでいるが……。
そんなもの、知ったことではない。
帝国などという傲慢不遜な成り上がりどもが定めた法など、上級人類たる我らが守る必要などないのは自明である。
そんな我々は、いま。
「竜だ! 森の上空に成竜が!」
「迎撃だ、戦闘艇を出せ!」
「馬鹿、竜に敵うわけがないだろう! いっそ、このまま隠れてやり過ごせば……」
「いや待て、止まった!」
「何をするつもりだ……」
突如としてアジトのある森の上空に現れた、紅蓮の鱗を持つ全長三十メートルの竜。
それが、空中で翼も動かさずぴたりと静止する。
皆が固唾を飲む中……。
短い手足を器用に交互に動かし始めた。
同胞たちが、互いに顔を見合わせる。
あの竜は何をしているのか、ひょっとしてこの地の磁気の乱れで頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「踊っている?」
誰かが、言った。
周囲がざわつく。
まさか、と別の誰かが呟いた。
いやしかし、とまた別の誰かが首を横に振った。
しかし画面の中で、誇り高き
誰の目にも明らかに、それは……。
「白鳥の湖?」
銀河ネットで得た知識から、あの個体が人類の太古の芸術について承知していてもおかしくはない。
しかし、それをわざわざこの地で、上空で披露する意味がない。
もしやこのアジトに幼竜が拘束されていることを知っていて、しかもその場所がバレたのだとしても……。
この上空で白鳥の湖を踊る理由などまったく思いつかない。
と――踊りのテンポが変わった。
今度は何だ?
何だか、頭の中に太鼓の音が鳴り響くような気がしてならないが……。
「ソーラン節……」
誰かが、呆然と呟く。
画面の中で、赤竜はひたすら踊り続ける。
それをスクリーンで見る者たちの脳内では、祭太鼓がリズミカルに鳴っていた。
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