第8話 密猟者退治(5)
その日の午後。
おれとホルンは小型艇に乗り、泥呪樹海に赴いていた。
小型艇を草むらに着地させ、軽く偽装をほどこす。
ホルンは少し頭が痛むようで、しきりに首を振っていた。
「大丈夫か」
「この姿であれば、動くのに支障はない。もとの姿に戻ればどうなるかはわからんがな……」
「なんなら、操縦席で座っていてくれてもいいんだぞ」
「そうもいくまい。これは本来、竜が解決すべき問題だ。おぬしひとりにすべてを任せるわけにはいかぬのだ。心配せずとも、われは竜、自分の身は自分で守れる」
見た目は子どもなので不安になってしまうが、まあ大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう。
おれは持参した黒いトランクを開き、中の蜂型ドローン二千体を解き放つ。
働き蜂そっくりのドローンの群れは、たちまちのうちに森の四方に消えていった。
トランクに残ったのは、女王蜂の形をした制御端末だけだ。
「小型端末か。あらかじめ聞いてはいたが、便利なシロモノであるな。しかし、地磁気、とやらが狂っているこの場所で通用するものなのか?」
「軍用の高性能のやつだから、GPSを使わずに、光通信と超空間通信の併用で互いの距離を測りながら探索を進めることができる。そのぶん捜索できる範囲が狭くなるが、地磁気に異常が起きている地帯はそう広くない。少し手間はかかるが、問題のない範囲だ」
「うむ、わからんが、すごいものなのはよくわかった。よくもまあ、おぬしのような若造が手に入れたものだ。星の彼方では、このようなものが一般的なのか?」
「まさか。これは屋敷の地下にあったものだ。おそらくは、前の持ち主が非常時のために用意していたものだよ」
前の持ち主、とはつまり、屋敷の地下の端末と同様、陛下である。
このドローン・システムもおれのために用意してくれていた。
何故なのか、と言われれば……それはわからないのだが。
せっかくだからと活用させてもらうことにした。
「子機が撮影したデータを地図上にプロットし、重要度に従って区分けしてくれ」
女王蜂に指示を下す。
女王蜂の複眼が白く輝き、そばの下草をプロジェクターとして泥呪樹海の地図が映し出された。
「おお、地面が地図になった。地形置換の魔法か?」
「ただの幻だと思ってくれ。この地のエルフは本当に魔法を使うのか?」
「うむ。外の者は驚くが、この星に住む民にとっては当たり前のことよ」
報告書を読んだいまでも半信半疑なんだよな。
まあ、いまはそのあたりはどうでもいい。
地図上が、みるみる青と赤に色分けされていく。
青は惑星外文明の痕跡なし、赤は痕跡あり、だ。
「まあこの区分けだと、密猟者がこの星の技術だけを使っていたら見逃すことになるが……」
「そのような輩にやられる幼竜ではない」
「だよな。第一、おれが手当てした個体は銃に撃たれていたわけだし」
情報がゼロでは捜索のリソースが足りない。
だから範囲を絞り、条件を限定してドローンを放つ。
このあたりの匙加減は実戦で何度も経験しないと難しいものだ。
なんでおれ、将校だったのにこんな経験ばかりしていたんだろうな……。
「むっ、この光っている点は何だ?」
「ポイントアルファの映像を再生」
おれが命令を出すと、地図に重なって、新しい光点でドローンが撮影した映像が展開される。
太い樹に銃弾がめり込み、そのそばに熊のような獣の死骸があった。
銃弾のサンプルが別の働き蜂によって回収され、解析される。
「用語の意味がわからぬ。これは、どう解釈をすればよいのだ?」
「先日の幼竜の傷口からきみが回収した銃弾と、同じ銃口から発射されたものだってさ」
「同じ種類の銃、ではないのだな」
「ああ、線状痕から同定できたみたいだ。古いタイプの銃を使っていたみたいだな」
レールガンなどの場合、こうはいかない。
密猟者は技術的、資金的な問題でレガシーな技術を使うことが多い。
「さて、じゃあこのあたりを密猟者の生活圏と仮定して、重点的に調べてもらおうか」
「いよいよ大捕物であるな!」
「そんな台詞、どこで覚えた」
「以前、おぬしたちの概念を知るために銀河ネットを参照させて貰ったのだが?」
この竜、本当に、珍しいタイプの
実に興味深いが、いまは
これまでに密猟者たちが使っていた兵器の痕跡は、いずれも最新型からはほど遠いものばかりだ。
派手に資金が投入されるような部隊が投入されているとは、とうてい思えなかった。
案の定、隠れ家とおぼしき洞窟が発見され、その入り口を見張っているとおぼしきカメラに働き蜂がとりつく。
ハッキングが開始されてから数秒で、カメラの回線を通じて洞窟の中の状況が解析できてしまった。
「なんじゃ、この魚のような輩は」
「双海人だな。……困った」
「なんじゃ」
「奥に、生きて囚われている幼竜の反応がある。とりあえず全部まとめて吹っ飛ばして、生き残りを捕まえて尋問するつもりだったんだが……」
「ならば、われが行って子らを救おう」
やる気まんまんで飛びだそうとしたホルンの腕を慌てて掴む。
そのまま引っ張られ、地面に倒されて、「待て、待て、待て」と懸命に制止した。
「だいたい、頭が痛いんじゃないのか」
「我慢する。子らのためである」
「じゃあ、その幼竜たちを盾にされたら、どうするつもりだ」
「むう……っ」
ホルンは腕組みして天を仰いだ。
そんな悪辣なこと、思いもしなかったというところだろう。
「しかし、ではどうすればよい」
「おれに考えがある」
ぱっと思いついた作戦案を説明する。
ホルンは、疑わしげな様子でおれを睨んできた。
「おぬし……われを謀っておるのか?」
「まさか。おれはいつだって本気だよ。プリンに誓おう」
「むむむ……。まあ、よかろう。おぬしの妹も『兄さんはちょっとヘンなことも言いますけど、たいていは正解なんです』と言っていたからのう」
かくして、おれたちは行動を開始する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます