500回ループした魔王

仲仁へび(旧:離久)

500回ループした魔王



 俺は魔王だ。

 この世界を滅ぼす存在だ。


 魔族のてっぺんに君臨する存在で、人間達を激しく憎んでいる。

 そんな人間が住んでいるこの世界も、等しく憎い。


 だから、この世界を丸ごと滅ぼすのだ。

 魔族も滅んでしまうが知った事ではない。

 あやつらはただの駒。

 情などなにもないのだから。


 俺は世界にも、自分の命にも未練がない。

 人間達に家族を殺されたあの日、死ぬ気で憎い全てを滅ぼすと、俺は決意したのだ。

 それ以外はどうでも良い。

 俺にはもう、守りたいものなどなにもない。

 

 だから俺は、様々な準備をして、多くの人間を滅ぼし、人間ともども魔族もころしつくした。

 人間を滅ぼすために訓練した魔族も、側近も、すべて殺めて。


 そうして、生きるもののいなくなった大地や世界すらも、消し去った。


 しかし気が付いたら、俺は過去に戻っていた。

 一体なぜ?


 思い当たる事といえば、一つしかない。

 世界を消す寸前、神と対峙し、戦い、勝利したが、瀕死の奴から呪いを受けたのだ。

 それが原因なのかもしれない。


 すでに邪神と同等の力をつける領域まで達していたから、大丈夫だと思っていたが。

 まだまだただの生命体だったという事か。


 しかし、それならばまた滅ぼしてやれば良いだけの事だ。


 俺は同じようにやり直し、もう一度世界を滅ぼした。


 家族が殺されてからの生の繰り返しなんて、なんの意味もないからな。


 しかし、俺はまたしても神に呪いを受けてしまう。


 俺はそれからも同じように世界を滅ぼし、神に呪いを受けて、同じ事を繰り返した。


 そうすると、尽きるはずのないと思っていた憎しみが、世界すら壊す憎しみの感情が弱くなっていくのを感じた。


 俺は、同じことばかり繰り返す時間を苦痛に思っていたのかもしれない。


 30回程同じ事を繰り返した俺は31回目でとうとう、世界を滅ぼす事をやめた。


 魔王になる事もやめて、ただの魔族として何をする気も起きずにぼうっとしていた。


 人間は相変わらず魔族を殺すから、その度に俺は人間を殺した。


 やり返すくらいのことはする。


 だが、以前の様に魔王になるほどの熱意は湧いてこなかった。


 そのまま寿命を迎えた俺は、魔族のてっぺんである邪神に声を掛けられて、またループをさせられる事になった。

 

 もう同じことを繰り返したくない。


 50回の生をおくった俺は疲れ切っていた。


 51回目の人生で俺は、自ら死を願い、実行した。


 しかし俺の人生は続いた。


 なんの目的があってか知らないが、邪神は俺をどうしてもループさせたいらしい。


 神にもてあそばれた俺の生は、今度は邪神にもてあそばれ続けるようだ。


 そうして迎えた100回目の人生。


 死ぬことすら億劫になった俺は、死んだように無気力にただ息をするだけの存在に成り果てた。


 誰でも良いから、誰か俺を終わらせてくれ。


 そう願いながら、誰かに何とかしてもらう自分の姿など、魔王の頃は思いもしなかっただろう。


 101回目の人生。

 

 そんな俺に声を掛けてくる魔族の女がいた。


 その女は、おせっかいな女だった。


 いちいち俺の事を気に掛け、食い物を食わせ、病気にならないように体を清潔にした。


 女がいた環境はスラムだ。


 たまに荒れくれ者に襲われそうになるが、すべて撃退するほどの腕っぷしの持ち主だった。


 女はたくましかった。


 そして心が強かった。


 仲間をなくしても、家族をなくしても、愛する魔族をなくしても、強く生きていた。


 そんな女に関わるようになった俺は、102回目の人生で久しぶりに自分から行動した。


 女に声をかけ、どうしてそのように生きるのか質問した。


 女の答えはシンプルだった。


 俯いていても幸せになれないから、と。


 無駄だとは思わないのか、と聞いたら。またシンプルな答えが返ってきた。


 それが分かるのは死んだ時だから、死ぬまでは無駄だと思わずに頑張る、と。


 なんとも単純な答えだった。


 だが、どこか胸を打たれた。


 一度の人生を生きる女の強さに、何物にも負けない心の強さに、俺はひかれていた。


 そんな女のために、俺は再び魔王になろうと決めた。


 それから150回目の人生になるまで、俺は人間を殺害し、征服し続けた。


 しかし女は幸せにはならなかった。


 ならばと200回目の人生になるまで俺は、あらゆる手をつくして、今度は魔族の生活環境を改善するために行動した。


 しかしそれでも女は幸せにならなかった。


 ならどうすれば良いのかと、直接女を問い詰めた事もあった。


 そんな事は分からないという答えだけかえって来て、途方にくれた。


 女は強い心の持ち主だったが、頭はあまり良くなかった。


 それを言ったら殴られた。


 繰り返しは、とうとう300回目になった。


 そこでやっと俺は、人間と手を組む方向に舵をきった。


 屈辱も復讐心もとっくに枯れ果てたと思ったが、連中と行動をともにすると、また沸き上がってきた。


 400回目になるころにようやく、感情に折り合いをつける事ができた。

 

 人間達のなかにもそこそこ、気の合う友人ができた。


 そうして500回目。


 俺はようやく、人間と魔族の和平を成し遂げた。


 女は満足そうに笑って、好いた魔族と結婚式を挙げた。

 生き別れた兄弟は、話の分かる人間に保護され、人間の国の片隅で暮らしていたらしい。

 共存の道が敷かれた事によって、そいつはやっと表を出歩けるようになり、女魔族と再会できた。


 結婚式で美しい布をまとって、儀式をこなす女を見て、俺は失恋したと気が付いて泣いた。


 だが、今までの生のなかで一番達成感のある人生だった。


 俺は、王妃を迎え、子供をつくり、たくさんの孫にかこまれて、生を終えた。


 邪神が夢に出てきたが、もうループはさせないといった。


 そこでようやく、神と邪神が俺にやらせたかったことに気がついたのだった。


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