異世界逆転撃

🐦‍🔥フレイム

第1話 異世界の現実

異世界にきて、1からのスタート……フィクションみたいな後悔なんてない最高の人生になるって、そう思ってた。


「フフ、ったくよぉ。ちょっと善人ぶったらバカみたいに騙されやがって。とんだお笑いもんだったぜ」

額にバッテン印の傷のついた男が嗤う。


「お前の大根演技に騙されるなんてほんと、間抜けだよなぁこいつ!」

と、言いながら茶髪の男が両手両足を縛られて芋虫のように地面を這いつくばるしかない僕を蹴った。


「ぐむっぅ!」

僕は痛みに声をあげるが、猿轡のせいでくぐもった音が少しこぼれるだけだった。


「さってと、とっととコイツを闇市に運ぶかぁ! 黒目黒髪! 古の英雄様と同じ特徴ときたぁ、こいつぁ高く売れるぜぇ! ヘヘッあんちゃんも喜びなぁ!これからめくるめく酒池肉林の種馬生活が待ってるだろうぜ!どこぞのお偉いお貴族さまのお屋敷でなぁ!」

男は僕に近づいた時の人の良さそうな笑顔が嘘のように、下卑た笑い声をあげた。いや、実際あの笑顔は作り物だったのだろう。


こいつらの言う通りだ。僕はなんて間抜けなんだろう。

悔しさが涙となって目から零れ落ちた。

これから先の未来を想像して絶望感が胸に広がる。

「ぐぅぅう!!」

僕が猿轡を噛み切らんとばかりに顎に力を入れた時、それは起こった。


バンッ!と轟音と共に閃光が視界を灼く。

後に知ることになるのだが、それはフラッシュボムというごく普遍的な魔法だった。

しかし、不意打ちとしてそれは凄まじい効果を発揮し、僕を捕らえていた二人組はしばし完全に視界を失い、その間に何者かによって叩き伏せられた。


「ふぅ、まぁこんなもんか」

耳に響くのは、清廉ささえ感じるような男の声だった。

「ゴロツキ崩れの腐れ冒険者二人。捕縛完了っと。そっちの少年、大丈夫か?」

声の主は僕に近づき、両手足と口の自由を奪っていた縄を切った。


「ん?縄切ったのに起き上がらない……あぁ、麻痺毒を盛られたな? 『キュア』 ほれ、これで動けるだろ?」

その瞬間、身体中を支配していた痺れが抜け、僕はふらふらと立ち上がった。


「あ、ありがと、ござます」

まだ上手く口が動かないが、なんとか感謝の言葉を口にした。


「礼は不要だ。奴らを捕えるためにわざと見逃して君を囮にした。むしろこっちが礼を言う立場かな」

その言葉に、僕は愕然とし、安堵感と感謝の念が急激に怒りのようなものに変わるのを感じた。


「なんだその目は?言っておくが俺がいなければ君は本当にこいつらの小遣いに変わっていたぞ?こいつらの言っていたことは事実でもある。君は間抜けだ。自分の無能を棚に上げて俺に当たり散らすのはやめてくれよ?」


「っ!!」

その言葉に僕は黙るほかなかった。


「まぁ、その状態でこの森を抜け出すのも大変だろう。乗り掛かった船、というやつだ。街まで送ってやる。感謝してもいいぞ?」

その挑発的な言葉に僕は……


「ありがとう、ございます」

苦虫を噛み潰すような顔を見られないように下を向きながら応えた。


「ふっ、プライドより安全を優先させられるのは加点評価、低脳に格上げだ」

そんな言葉を投げかけられるも、僕は俯くしかない。悔しい……


「おっと、街に着く前に。これは今回の報酬だ」

と、男は巾着袋を僕に投げてよこした。


「そこには囮として役立ってくれた分の報酬が入ってる。ま、今晩の宿代くらいにはなるだろう。じゃあ、また会えるのを祈っておいてやるよ」


そうして戻ってきた街で、僕は更なる現実に痛めつけられることになった。


「ハハハハハハ!!!」

「あの甘えん坊や、運がいいなぁ!」

「あぁ!まさか無事にここに戻って来れるとは!」

そんな声が、冒険者ギルド中から聞こえてきた。

あの男だけじゃない。ここにいる冒険者たちは皆わかっていたのだ。

僕があいつらに食い物にされかけていたことに。

沸々と怒りが湧き上がる。いや憎悪かもしれない。ここにいる奴らを全員ぶちのめしてやりたい。だが、僕にそんな力はない……。

いたたまれなくなった僕は冒険者ギルドから逃げ出した。









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