第2話 少女との出会い
「どーしよ。」
追放処分を受けてしまった以上、もう家に帰ることはできない。
そして今一番困っているのが———金だ。
家に財布を忘れてきてしまった。
いや、取る暇もなかったと言った方が正しい。
これでは宿を探すどころか、食べ物を得ることもできない。
そうして途方に暮れていると、
「大丈夫?立てる?」
眼の前に銀髪の少女が現れ、手を差し伸べてきた。
綺麗な赤色の眼とふわふわと揺れる白髪に引き込まれそうになる。
肩に乗っている可愛い猫が彼女の魅力を引き立てる。
彼女の手を取り、立ち上がる。
「あ、あの‥‥」
「あ、そろそろ行かないと!またね!」
走り去るその姿さえも美しい。
ま、もう会うことは無いと思うけど。
そんなことを考えながら歩いていると、
「どこだここ?」
どうやら裏路地に入り込んでしまったらしい。
周囲からは殺気を(殺気とかよく分からんけど)感じる。
「おいおい、此処に何しに来たんだぁ?」
なんだこの悪役のセリフをそのまま読んだ感じは。
てか、あれって‥‥‥
「持ってるもん全部出しな。下手な動きしたら刺し殺すぞ」
ナイフだ。
もう、一度刺されて見慣れてしまってるんだが。
「生憎、俺は無一文でな。出すもんなんかねぇ。」
「そうか、なら死んでくれ。中身売れば値が付くだろ。」
何でそんな極端なんだよ。
俺なんもしてないんですけどぉーー!
「そこまでよ!」
絶体絶命の俺の背中に声が響いた。
美しく、透き通った声。
この声は———
「なんだてめぇ」
「名乗る必要なんて無いよ。」
彼女の声を制止するように手を伸ばし、無数の光輝く剣の矛先を向ける。
「まだ、やるかい?」
「き、今日はこのくらいで勘弁してやる。」
最後まで絵に描いたような悪役だったな。
「で、君はどうする?」
「へ?いや俺はただ通りがかっただけで、特に」
「そうか、命拾いしたね。この娘が助ける気を起こさなかったら、君は死んでた。」
なんでこんなに笑顔で怖いこと言えるんだろ、この猫。
「それじゃあ、行こうか」
猫が踵を返そうとしたその時、
それを引き留めるかのように子供の鳴き声が鳴り響いた。
仕方ない、助けるか———そう思い、泣いている少女に話しかける。
『大丈夫?』
声が重なる。
隣を見ると彼女と目があった。
二人の間に一瞬の沈黙が生まれる。
「ど、どうしたの?パパとママは?」
先に彼女が声をかける。
少女は首を横に降り彼女の腕のなかに飛び込んだ。
「大丈夫。すぐ見つけてあげるから。」
そうして笑いかける彼女の眼には不思議な程に安心感を感じた。
ここで声を掛けなかったら二度と会えない気がする。
「あの、俺も手伝うよ。」
「どうして?貴方はただ巻き込まれただけじゃない。」
それは君も一緒だろ。
そう思いながらも言い訳を考える。
「さっき助けて貰った恩返しがしたいんだ。」
「分かったわ。ありがとう。」
そのまま、迷子の子供を挟んで並んで歩く。
あれ?これって周りから見れば新婚夫婦に見えるんじゃね?
そんな妄想を膨らませながら、ふと思い出したように聞く。
「そういや名前聞いてなかったな、何て言うんだ?」
「レイ、レイ・アストラよ。」
少し頬を赤らめながらそう答える。
その仕草一つ一つが可愛らしい。
俺も名乗るのが作法なのだろうが、家追放されてるし、名乗ると面倒くさいことになりそうなんだよなぁ。
仕方ない、前世の名前を使おう。
「そうか。俺はイオリ・ハヤト。天上天下唯我独尊、天下一の無一文だ。」
「ふふっ。何それ?」
「俺が今非常に困っているということを知ってもらうためにはこれが一番最適かなって。」
滑んなくて良かったー。
そうしてホっとしていると———
「ミク?ミクじゃない?」
「お母さん!」
どうやら親御さんが見つかったらしい。
母親の腕に飛び込み泣きながら抱きつく。
「ありがとうございます。」
「迷子の子どもがいたら助ける。当たり前のことですよ。」
それを当たり前と言ってしまうのが彼女の優しさなんだろう。
母親は涙ぐみながら感謝し、手をつなぎながら帰っていた。
「私はそろそろいかなきゃ。」
このままでいいのか———そんな考えが浮かんだ。
もう二度と会えないかもしれない———なんて綺麗事じゃないのはわかっている。
そう———ただの一目惚れに過ぎないのかもしれない。
「あ、あの。なにか困っていることがあるなら手伝おうか?下働きでもなんでも」
「え?どうして?あなたが私を助けるの?」
ただ単に君を助けたいんだが。
「俺は金がない。一日あたり、硬貨一枚で俺を雇ってくれ。」
「———しょうがないわね。良いわ。あなたを雇います。」
「これからよろしく。旦那様」
「———その呼び方はやめてくれる?私のことはレイって呼んで。」
「分かった。レイ、これからよろしくな。」
——————————————————————————————————————
これからも少しずつ投稿していきますので、どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます