第37話 食べておきなさい

 ベロニカさんとアマリリスへの尋問。

 

 2人とも別の世界から来た人間だ。だから俺達が知っている以上の情報を持っているかもしれない。


 母さんが言う。


「尋問の前に……昼食をいただきましょうか」そろそろ空腹も限界だ。「パドマさんは……食欲はあるかしら」

「……なんとか……」

「そうね……辛くても、食べられるだけでも食べておきなさい。食べなければ生きていけないから」


 食べて眠れば、大抵の場合は生きていける。それを繰り返すことが大切だ。


 というわけで用意しておいた昼食を食堂に運ぶ。とはいえいろいろあったので、かなり簡易的な料理だ。


 パドマさんに対してだけは食べやすいものを特別に用意した。おかゆ、果物……消化に良さそうなものを用意しておいた。


 途中でギンが、


「俺にも食事は出してくれるんだな」


 と皮肉を言った。


「取り上げてもいいわよ」


 母さんがそう言ったので、ギンは黙って食事を始めた。


 サザンカさんが母さんに言った。


「……あの……ベロちゃんとリリちゃんは……」


 リリちゃん、というのはアマリリスのことだ。ベロちゃんはベロニカさん。


 ……普段ならサザンカさんは母さんの前ではあだ名は使わないんだけどな……彼女も疲れているのだろう。


「……まずは私たちの食事を済ませましょうか」俺も同意見だ。「話を聞く限り……ベロニカさんの能力は手が自由になれば使えるのでしょう? そんな相手に自由に食事をさせるのは問題があります。あとで尋問を終えて……それから考えましょう」


 ……


 ベロニカさんの能力って厄介だよな……手をこちらに向けられただけでこっちは行動不能になってしまう。


 ……


 ……


 もしも狙うならベロニカさんからだろうな。最初にベロニカさんを落として、そうしないと戦闘にならない。


 ……


 って俺は何を考えているんだ。なんで屋敷の人間全員と戦うことの想定なんてしてんだよ。俺はそんな事を考える必要なんてないんだ。


 ……


 ……


 こんな重苦しい食事は初めてだ……俺にとって家族と一緒に会話ができる食事の時間は至福の時間だったのに……


 ……


 なんで……なんでこんな事になってしまったのだろう……?

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