第21話 結末は変わらんよ

 会話を終えて、俺はさっそく山登りを開始した。サザンカさんに外出することを伝えてから、水筒だけ持って出かけた。

 

 ロベリア家の屋敷は山の中腹にある。頂上まで登るとなると、ちょっと大変だ。


 とはいえ別段に高い山というわけでもない。一応整備された道もあるし、とくに苦労もなくその場所にたどり着いた。


「……頂上って……ここでいいんだろうか」

 

 山頂、と書かれた貧相な立て札がある場所である。こんなもの引っこ抜いて別の場所に刺せば、そこが山頂になりそうだ。そんな罰当たりなことはしないけれど。


 ……


 そういえば今日の昼食はどうしよう。昼までには戻るつもりだが、場合によっては遅れるかもしれない。まぁサザンカさんに外出は伝えたし、彼女がなんとかしてくれるだろう。


 ……


 しばらく、俺は空を見上げていた。朝からずっとスッキリしない天気なのだが、雨は降っていない。中途半端な天気でモヤモヤするくらいなら、さっさと雨が降ってほしいものである。


 いや……今はローズさんが買い出しに行っているのだった。ならば雨はしばらく降らないでほしい。


 ……まぁ俺が願ったところで自然の流れは変えられないのだけれど。


 ……

 

 ギンは今日の天気とかも予言できるのだろうか……そんなくだらないことを考えていると、


「……おう……」やたら不機嫌そうなギンが現れた。「で……なんだ?」


 ……なんだ、とは不思議なことを言う。


「こっちのセリフだ」俺は部屋に投げ込まれた紙を見せて、「呼び出したのは、そっちだろ?」

「……は?」ギンが訝しむ目を向けて、「……なんだそりゃ……俺はお前に呼び出されたんだが……」

 

 そう言ってギンがポケットから取り出したのは、小さな紙切れだった。ちょうど俺の部屋に入れられた紙と同じような大きさの紙。


 内容は……『この山の頂上で話がしたい』というものだった。差出人は……『ライラック・ロベリア』となっている。


 俺は一瞬だけ思考して、


「なるほど……どうやらハメられたか……?」

「その可能性が濃厚らしいな」ギンは怪訝そうに、「だが……誰がそんなことをする? 俺達を追い出して得をする人間なんていないだろう?」


 ……そうだ……犯人の可能性が一番高いギンは、ここに現れている。ギンの狙いは俺なのだから、他の屋敷の人間を襲う理由もない。


 ……不可解だ。あまりにも不可解。


 俺は言う。


「……どうやら……俺の知らない事柄があるみたいだな。予想もしてない、変なことが起きてる」

「……そのようだな……」

「ギン。お前はどうだ? 未来予知ができるんだろ?」


 ならばこの手紙の差出人も知っているのでは?


「残念ながら……俺の知ってるゲームに、こんな手紙は登場しない。どうやら……俺が来たことで未来が大きく変わったらしい」

「じゃあ未来予知ってもアテにならんな」

「どのルートでも結末は変わらんよ」

「……」反論しようと思ったが、「言い争ってる場合じゃないな。とにかく……犯人の狙いは屋敷のほうだ」


 つまり、あれだ。


 ナナが危ない。

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