第11話 招待

 城の玄関口にあたる大きな扉の前で、マントを装備した大男が待ち構えていた。


「お前がタクトか」


 野太く、威圧感のある声だ。トロでも背が高いほうだが、もはや人の域を越えた巨人のようだ。


「俺様はイガンデだ。貴様か……俺様の家来を可愛がってくれたようだな」


 俺様とかいうやつ漫画でしかみたことないな……と思う反面、丁寧に自己紹介をしてくれている。


「あの兵士の指揮官ですか。バザールでの騒動は、兵士が一方的に決闘を申し込んできたから、戦うしかなかったんだ」

「貴様のような町民に家来がやられたせいで、第二分隊の名は地に堕ちた……必ず、貴様を俺の前に跪かせてやる」


 グッと拳に力をいれると、イガンデの体は橙色のオーラをまとった。

 俺を先導してきた兵士たちが怯える。


「イガンデ様の『闘士』ジョブだ……」

「弓矢を弾き返し、岩をも砕くオーラの使い手……」


 怒髪天を衝く勢いで殴りかかってきそうだったが、ふっとオーラを消して拳を下げた。


「だが、運のいいことに騎士団に昇進されたリアク様が、お前に会いたいとおっしゃっている。……話はそれからにしておこう」


 イガンデは門を開け、中央の広間に先頭になって案内する。

 石造の大きな広間は、奥が一段高くなっており、その椅子に白銀の鎧を装備したリアクが座っていた。

 そして、横には白いローブを着た長い金髪の女性が立っている。


 イガンデは壇上には上がらず、その横で膝をついてじっとした。


「やあやあ! タクトくん! 僕だよ覚えてくれているかな?」


 リアクは立ち上がると、笑顔で俺を迎える。


「覚えています。第一分隊隊長のリアクさんですよね?」

「半分正解! あれから僕は騎士団に入団してね、騎士団のリアクになったんだよ。ところで、何か不手際はなかったかい? うちの手下は礼儀を知らないネズミどもばかりだからね……」

「もう二度と、宿に来ないでください。店長に暴力は振るうし、あまりに強引すぎます……!」


 俺は、朝に叩き起こされて、無理やり覚醒させられることが心底嫌だ。でも店長に暴力振るわれたことで、今はその十倍ぐらいイライラしている。


 すると、リアクは頭を下げているイガンデの前に立つ。


「丁重にもてなせといっただろうがっ!」


 ドン!

 リアクの踏みつけで、イガンデの頭は石床に打ち付けられる。


「ぐっ!」

「貴様は頭の中も筋肉でできているのかっ!」


 ドン!

 石床が割れて、イガンデが頭を上げると額から血が流れた。その顔は鬼のような形相だ。


 そしてその間、突っ立って見ていた女性は、眉をぴくりとも動かさない。


 どこかで見た顔だ。人と思えないほどのアニメのような顔のつくり──思い出した。俺がこの世界に来たとき最初に会ったエルフ。たしか、マーリーと呼ばれていた。


「申し訳ない。うちの筋肉バカがとんだ無礼を。君を不快にさせてしまったが、僕が君を呼んだ理由を聞いてもらえれば、きっと喜んでくれる」


 リアクは俺に向かって一歩進み出た。


「タクトくん、君を第一分隊隊長に推薦したい」


 イガンデは俺とリアクを交互に見ながら、驚きのあまり声を失う。

 兵士がざわめき、広間には様々な声が反響した。


「なっ……。ただの町人を第一分隊隊長に……?」

「隊長となれば千人規模の兵士の頂点だぞ……」


 リアクは俺の前に手を出して握手を求めた。


「僕と一緒に国を変えないか?」


 俺は一歩下がって頭を下げる。


「いや、結構です」

「……へ?」


 予想外の回答に、リアクの表情は崩れた。今まで先を見越したようなキメ顔だったが、口をあんぐり開けている。


 この国の兵士になるなんて、まっぴらごめんだ。

 ガイア王とか言ったか、最初に俺を見限ったやつのもとで喜んで働けるわけがないだろ。それに性格のねじ曲がった奴らばかりで、毎日顔を合わせると思うと鬱になりそうだ。


「別に食べるのに困っているわけでもないので」


 そう言って出口に足を向けると、リアクが肩を握って止めた。


「……待て。その食い扶持は、あの宿屋のことか?」


 顔を寄せて耳元でリアクが囁く。


「君は僕のことを勘違いしているようだ。たとえば、君が僕の申し出を断れば、あの宿屋がどうなるか分かっているんだろうね?」

「……汚いやつだ。あの人たちを人質にして俺を脅すのか」

「ふふっ。この世界は弱肉強食だよ……」


 リアクは長い髪をかきあげて、大きな声を響かせた。


「だが、第一分隊の隊長になれるほどの器量があるか試させてもらう!! でないと、兵士も不満に思うからね!」


 壇上の席に座ると、リアクは口の端を吊り上げ足を組む。


「イガンデを倒せ! そうすれば第一分隊隊長の座を約束しよう」


 跪いていたイガンデは立ち上がり、体中にオーラをみなぎらせた。


「ありがとうございます、リアク様。この挽回のチャンス、必ずものにしてみせます! 来い!! タクトーーーおおっ!!」

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