CHAPTER 7

釣ール

数値.1 人は誰よりも架空の不幸がお好きなようで

 今日もまた知りたくないことを聞かされる。


 インターネットで目にしたものならレコメンド汚染おせん……自分が好きな情報をインターネット上で他のおすすめによって変えられる現象が起きたとブロックすればいい。


 そもそもガキの頃にSNSで痛い目みた世代が多いのだからそんなささいなトラブルで病んだりしない。


 


 またあいつらか。

 俺たちの負けがお前らの生活をおびやかすことはないと何度説明すればいい。


 俺もふくめてクレーム大国なのに治安を守っている日本が大嫌いだ。


八女系ふぃいら。さっさと出るぞ」


「ふん。お前が指示を出すな。そんなことは分かっている」


 強く言ったものの乗り物仲間あくゆうに今は頼らないと帰りも満足にできない。


 何でこんな時に限って車が故障したんだ。

 財布は円安えんやすのご時世じせいでもダメージは少なかったがこいつらを頼る必要が出来たことに対して内臓ないぞうが悲鳴を上げてまでいら立ちを我慢がまんさせる。


「今日もいつ流行はやったか分からない地下アイドルの曲か」


「AIの綺麗事きれいごとよりはよく出来ているしな。そもそも俺たちの頃ならクオリティは上がってるだろ」


「それって結局全部同じに聞こえてるだけだろ」


純粋じゅんすいに楽しませろよ!個人主義者こじんしゅぎしゃはうっとうしいな」


 ギリバレなかったか。

 Atuberとしていまだに活動を続けている名前も分からない誰かに夢中なことを。


 あんなぞくっぽいコンテンツにのめり込むことがあるなんてな。


「他の無趣味むしゅみなファイターたちと同じにされたくないだけだ」


「あ?唐突とうとつに何言ってやがる?」


「前見て運転しろ」


 今日もまた血がさわぐ。

 もう一つの仕事を終わらせないと。




--消滅可能性都市B群L地しょうめつかのうせいとしびーぐんえるち--





 二十代前半でも野郎同士やろうどうしの泊まりはいい気分ではない。


 BLだかなんだか知らないが経験がない人間の夢物語ゆめものがたりは面白さとはちがう現実をたたき込みたくなるものだ。


「ちゃんと宿取やどとってたんだがこんな汚いとは」


「こんな汚い設備だから消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしだかなんだか言われてんじゃねえの?」


 そんな知性ちせいが低い会話をしていると宿の主のおばちゃんが怒鳴どなってきた。


「あんたたちこれ以上文句を言うなら代金と共に山へ返してやるからね!!」


 それは困る。

 ったく。

 こいつらはタワマンだかなんだか知らないが変なものにあこがれすぎている。


 演技えんぎとはいえ俺がどれだけ土下座したかも知らないで。


「日本にこんな田舎まだあったのか。そりゃあいじめや差別もなくならないわけだ」


八女系ふぃいら。お前の家からだいぶ離れちまったがいいのか?こんなところで誰が依頼なんかして……」


 俺たち以外の人の気配がする。

 ここで待っていると聞いたから待機たいきしていたのに。


「そのふだんは使わないテープの仕方……あなたが約束の人」


 他の野郎共やろうどもには宿へ残るように蹴飛けとばすと依頼人の女の子へ内容を確認する。


「本当に強そうな人……いいえなんでもありません。消滅可能性都市予備軍しょうめつかのうせいとしよびぐんになったこの場所から出るために過去を清算せいさんしたくて呼びました」


 自分で過去を清算せいさんするつもりはないのかなんて聞くわけがない。


 ダメージはないとはいえ修理費しゅうりひ以上の報酬ほうしゅうを彼女は払ってくれるのだから。


「ライセンスのことは話したよな?今回に限っては別の許可をいくつか得てもいいように手続きを任せたんだけど」


 スマホで何でもできるディストピアを生きている俺たちにある許可証きょかしょう実施じっしされた。


 詳しくは言えないが性悪しょうわるも良いやつになれる資格だ。


 この消滅可能性都市B群L地しょうめつかのうせいとしびーぐんえるちで何名か暴れていて、警官も少子高齢化しょうしこうれいか人手不足ひとでぶそくで手に負えない治安悪化の原因がある。


 起業きぎょうの練習をしたくてこの許可証きょかしょう取得しゅとくし、初めての依頼人になった彼女から武力ぶりょく合法的ごうほうてきに外で使える手続きをしてもらった。


「言っておくがこんな依頼いらいをしてもあんたがここから出るには資金が足らない。高校卒業が近いからバイト代を奮発ふんぱつしたつもりだろうが若気わかげいたりは後からほこるものじゃない」


 依頼人いらいにんにあとから逃れられたら困る。


 まあ許可証持きょかしょうもちもこの依頼とは別でL地から資金はもらえる。

 彼女が知ることはないが。


「だからここまで原付げんつきで来たんですよ。あなたの腕をこの目で見てみたいから」


 あとで試合のチケット売りつけてやるか。

 そのためにも成果せいかを出さないと。


「さてクズ退治に行くか!」




--L地えるちのガン--




 依頼人の女の子が言うにはB群L地はヤンキーやオタクが多く治安が悪いらしい。


 ヤンキーとオタクに偏見へんけんはないが田舎いなかで暴れるやつらの思考はなんとなく理解できなくないからだ。


 八女系ふぃいらは拳を鳴らしながら女の子が案内してくれたやつらのアジトへと潜入せんにゅうする。


 野郎共やろうどもはまだ宿で遊んでいるだろう。

 もしもの時の助けには期待出来ない。


『俺が負けるわけがない』


 ましてやこんな消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしのガンごときに。


 アジトの奥へと進み、誰にも知られないようにやつらが多く集まっている場所へとむかう。


 集まっていたヤンキー達は酒をのみながら下品に過ごし、暴れていた。


 確かに女の子一人でどうにかなるレベルじゃないか。

 彼女なりの清算せいさんの仕方が八女系ふぃいらを頼ることだったのならそれもありだ。


 むしろ小遣こづかい稼ぎにもなるしな。


「お、お前だれ……ぐっ、あっ……」


 八女系ふぃいらは声をかけてきた見張りの首をつかみ壁におしあてた。


雑魚ざこが。救援きゅうえんを呼ばれる前に仕留しとめてやる」


 アクション漫画まんがじゃないから余計な体力を使わないように見張りを次々と攻撃してアジトの奥へ侵入しんにゅうした。


 勿論峰打もちろんみねうちで終わらせたが田舎に仕方なく住んでる連中れんちゅうのストレスは油断ゆだんができない。


 一人、また一人と気絶きぜつさせながら集団の中へまぎれこむ。


 このまま一人ずつなぐっても報酬ほうしゅうを二つ受け取れる。


 そのはずだった。


「ここまで簡単に突破とっぱされるなんて。あんたただものじゃないな」


「おめにあずかり光栄こうえい。ここで自己紹介しても良いがコンプラの関係でだまっておくよ」


 手は出させてもらうがな!!


 油断ゆだんはしていなくても弱い連中れんちゅうばかりだと思っていた。


 奥のやつらは上位グループらしく、集団戦しゅうだんせん個人戦こじんせんを分けて戦ってくる気の荒いがケンカ好きの性格ばかりだった。


 だからなんだ。

 急所を外さなければただの人間。

 ただの人間が怖いのなら俺も怖がって欲しいな。


 八女系ふぃいらは一人心の中でぼやきながら気の荒い連中を次々となぐってはり、ついに集団は散っていった。


「あ、あんたやるなあ。でもいいのか? そんな力使って」


 通報はさせないようにアジトの電波でんぱをいじっておいた。


 ま、相手の端末たんまつを蹴りあげればいいだけの話だ。


「お前らは不要ふようだと判断はんだんされた。消えていく田舎いなかで頭が悪いままたおれていろ」


 そう挑発ちょうはつしたのが悪かったのか後ろから不意に攻撃されるかもしれない気配を感じたが遅かった。


 しかし他にも計算外なことが起きた。


「やっとかたきをうてる!」


 依頼人?なぜここに!


「過去の清算せいさんなら今ここで私もします。あなたばかりに任せるだけなのも悪いので」


 そうか。

 自分の人生を自分で決めて動けるのはいいことだ。


報酬ほうしゅうはちゃんと払ってくれるか?」


「え?そっちの心配?大丈夫ですから加勢かせいさせてください」


 二人で残り少なくなった集団をけちらし、気晴きばらしにもなった。


 いくら人間が怖いといっても同じ人間どうしなら八女系ふぃいらの方が上なのだから。




--ミッション完了後--



 宿の中。

 野郎達やろうたちで過ごしてから女の子との関係がなんだと聞かれたので親戚しんせきだとかなんだと適当てきとう誤魔化ごまかしていた。


 もうあの依頼人いらいにん八女系ふぃいらに頼ることはないかもしれない。


 それはそれで男としてさみしいが消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしの女の子から自立じりつした大人へ変わる。


 いいか悪いかは別として報酬ほうしゅうもしっかり受け取り、あの田舎の治安も守った。


 ただなあ。


「あんな戦い以外で勝ちたい」


 八女系ふぃいらはただそう感じるだけだった。


 それに許可証きょかしょうを持っているファイターは他にもいる。


 競合相手が多すぎる以上、八女系ふぃいらの戦いは続いていく。

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