刀に映るその先で

湊川 琥珀

出会い、そして二つの盃

第1話 浮浪児そして出会い

故郷の国から出てきてはや三ヶ月,ユウヤの路銀はそこを尽きていた。今では自慢の刀を振り回すことすら出来ない。腹が減ってるのだ。


「刀働きできりゃ生きていけるほど世界は甘くなかね。飯ば食わんと死んでしまうけん。」


そう小さく呟く。そう剣士としてなら負けない自負があるが空腹はどうしようもない。


薄暗い路地に座り込み、もう盗人になるしか生きる術はない。そう考えて俯いていると目の前に一欠片のパンが置かれた。


ユウヤは咄嗟に目にしたパンをつかみそのまま口に入れ飲み込む。美味い、こんなに食にありがたみを感じたのは生まれて初めてだった。それほどまでにユウヤは飢えていた。


「そんなに腹減ってたんだ。」


頭上からそんな優しく、明るい声が聞こえた。そこで初めて前に立ってる少年をユウヤは認知した。この少年が自分に飯をくれたのだ。少年は自分の目線に気がつくと腰を落とし自分の顔を見つめた。


「お前は誰y

「ぼくはケントって言うんだ。お前の名前は?」


ユウヤの言葉を遮りその少年は自己紹介をしてきた。ケントというらしい。ぱっとしなさそうな面をしているが優しい目をしている。

ユウヤの野生的でギラギラしたそれとは真逆の目。その目はユウヤを優しく包まんとしていてどこか暖かった。なんでこんな目をしているのだろうか。

そんな事を考えながら返事をする。


「俺はユウヤだ」


そう返すとケンは笑って言った。


「よろしくユウヤ。暇してるなら一緒に来なよ。昼飯食わしてあげるからさ。」


そう言って手を差し出したがユウヤにも武士としてのプライドがある。素直にその手を取ろうとは思えなかった。


「施しなら受けん。借りは作らん、恩は返す。これでも腕には自信があるけえ。」


そう言い返し手を払い除け、立ち上がろうとした時ユウヤにケントが苦笑しながら言う


「別に誰かと揉めてるわけでも戦時中でもないんだから強い戦士は要らないよ。それに

ユウヤ、恩返す前に空腹で死にそうじゃん」


正論だ。ぐうの音も出なかった。

腕っぷしを求めない相手にどうやって恩を返せばいいのだろうか。

どうしたもんかと考えながら黙り込む。


「じゃあご飯食べた後に僕の仕事手伝ってよ。そしたらそれで借り貸しなしでいいでしょ?」


ケントがまた手をさしだしながらそう言った。


「分かった。お前を手伝う。」


恩を受けた相手に頼まれたことをこなせば自分の気もすむし相手も助かるだろう。そう思いこの申し出を受けることにした。


そしてユウヤはケントの手を取り、話に乗ることをケントに示す。


そんなユウヤの行動を見てケンは満足そうに頷き路地から街路に出てユウヤを先行するように前を歩き出す。


「着いてきて。この先が僕の仕事場だからさ」

「俺は正直なとこ戦うことしか脳がないけん。難しい仕事ば出来ないぞ?」

「大丈夫だよ。僕が働いてるとこは宿屋で仕事は難しくないからさ。」

「ならば良いが...」


自分が戦うことしかできないことを伝えてもケンは動じることなく仕事を手伝えという。自分が宿屋の仕事などできるだろうか?今まで刀しか振ったことしかないのに。だが恩を受け約束した以上自分の精一杯を出してこの少年の手伝いをするしかない。

ユウヤは迷いを振り払いケンの力になることを固く心に誓った。


そうこう考えてるうちに前を進んでいたケントは宿屋らしい建物の前で立ち止まった。


「ここが僕の働き先の宿屋だよ」

「結構綺麗だな」

「数年前に建て直したばっかだからね。じゃあ入ろうか。 」


そういって扉を開け中に入ろうとするケントの後ろ姿をユウヤは追いかけた。


道にいた2人の少年の影は1つの建物の中に消え、新たな1つの物語が動き出そうとしていた。


これは少年が人と関わり、強さを学び、英雄となっていく物語である

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る