第15話 信用を得る事は本当に難しい


「こんんんのぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! カス共ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 死にてぇのかぁぁぁぁあああああああああああああああああああああッッッ!? あああぁぁぁぁああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。


「アンタこそぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 部隊から追い出された分際で何しに来たぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。


「...」。


ハリガネとヤマナカは、シェルターから顔だけ出して外の様子をうかがっていた。


外の広場で、一人の男に対しミイラ隊長とカッパ副隊長が向かい合って口論...ではなく罵り合いをしているようだ。


「追い出されたんじゃねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! こっちから抜けてやったんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「意味合い的には同じ事だろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? 」。


「全然違ぇぇぇえええええってんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! コラぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


「うっせぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! 野蛮人がぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! コラぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! お前はこの区域も出禁だぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! この件は王国軍本部にも連絡するからなぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。


「上等だぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! コラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


「あ~あ、これでゴリラ隊長は完全に締め出し食らったな~。まぁ、俺達が止めるまでもなかったな~」。


ハリガネはシェルター内で身を潜めながら小声でヤマナカに話しかけた。


ゴリラ隊長は被っていた防具のヘルメットを地面に叩き付け、ミイラ隊長達に詰め寄っている。


その反応を見ていた周りの兵士達が、慌てて隊長達の間に入って制止していた。


「ゴリラ隊長とは部隊から離れて長らくお会いしておりませんでしたが、血気盛んなところとリーゼントヘアーはお変わりないみたいで...」。


ヤマナカは呆れた表情で、制止を振り切って兵士数人を蹴飛ばしているゴリラ隊長を眺めていた。


「つーかさぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! どうしてくれんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! お前が騒ぎ起こしたせいでイベントが中止になっちまっただろうがよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 俺の楽しみ返せぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! これを生きがいに頑張ってるんだぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? 」。


血走った眼で必死に訴えるミイラ隊長とカッパ隊長に共感したのか、ステージを楽しんでいた兵士達も声を上げ始めた。


「そうだぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! どうしてくれんだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。


「俺達のためにコンサート開いてたのによぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「とっとと軍から除隊しろやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! コラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


「ポンダ=ライスフィールドのライブがぁぁぁぁああああああああああああああああああああああッッッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


「...ッッッ!!! 」。


兵士達の罵声を浴び、怒りで身体を震わせるゴリラ隊長は...。


「黙れぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! 」。


ダダダダダダダダダダダ...ッッッ!!


「おわぁぁぁああああああっっ...!? 」。


ゴリラ隊長は肩に掛けていたサブマシンガンで兵士達の足元を射撃した。


「な、何すんだぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 貴様ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


「貴様等は恥ずかしくないのかッッ!? 前線部隊が緊迫している状況で後方がそんな呑気に余興を楽しんでいて良いのかッッ!? 」。


今まで激しい形相で怒鳴り散らしていたゴリラ隊長は、先程よりトーンダウンしているものの依然として大声を張り上げながら神妙な面持ちで兵士達に訴え始めた。


(いや、恥ずかしいのはアンタだよ...。上の人間と喧嘩して現場部隊の隊長どころか部隊から外されてるっつーのに...)。


ハリガネは呆れつつ、自身の心の中でそう突っ込んでいた。


そして、ゴリラ隊長はイベントしていたステージに上がり、引き続き兵士達に語りかける。


「いいかッッ!? 今、国家は反逆軍ノンスタンスによって時計塔周辺を占領されているッッ!! 王国側はノンスタンスに対し撤退を要求し、隣国のケチャップ共和国やマヨネーズ共和国に応援を呼びかけているらしいッッ!! これはどういう事かッッ!! これは王国軍がいかに兵力を統括出来ていないかという事が浮き彫りになっている証拠であるッッ!! 」。


(いや、だから部隊や現場を混乱させてるアンタが言うなよ...)。


ハリガネは心底うんざりしながら、ゴリラ隊長に対して心の中で再び突っ込んだ。


「しかも国家転覆を目論む小規模の反乱軍相手に本王国の侵入を許し、未だに鎮圧も出来ぬこの体たらくッッ!! 挙句の果てには隣国の協力を要請した事により、王国の軍事組織における問題点を国家間を通じて露呈する結果となってしまっただろうッッ!! そして、この事件は友好国が報道を通じて大々的に翌日の朝取り上げられることとなるだろうッッ!! 我々、王国に仕えているはずの兵士として、こんな屈辱があっていいのかッッ!? こんな事が許されるのかッッ!? 」。


ゴリラ隊長が身振り手振りを繰り返しながら力強く演説を続ける姿は、まるでヒトラーの様であった。


「我々は兵士として後方で待機しているのにも関わらず、なぜ我々の出動機会が来ないのかッッ!? そもそも、軍事力に自信を持っているはずの我が軍は何故、友好国軍の力を借りなければいけないのかッッ!? 何故、国内で起きた火元は己で始末出来ないのかッッ!? 我々は今こそ立ち上がる必要があるッッ!! そして一目見れば、ここにいる者達の中には戦時中の戦場前線を戦い抜いてきた戦士達もいるではないかッッ!? 」。


「...」。


ハリガネとヤマナカは呆れた表情を浮かべ、どうしようもないと言わんばかりにお互い顔を見合わせた。


「そうだッッ!! 俺達は何度も立ちはだかってきた魔獣や敵軍を討伐し、幾多の試練や困難を乗り越えてきたッッ!! 現状、魔術部隊は攻守の連携が活かされておらず、守備一辺倒で苦戦が続いているッッ!! 今こそ、前線戦闘が豊富な我々が立ち上がってこのポンズ王国を共に守ろうではないかッッッ!!! そして、戦友を殺してきた憎きテロリスト集団ノンスタンスを滅亡させ、家族や友を守ろうではないかッッッ!!! 」。


ゴリラ隊長は掴んでいたサブマシンガンを天に高々と掲げながら、意気揚々と語り続けた。


「あ~あ、完全に自分の世界に酔いしれてるよ、あの人。まさかとは思うが王国軍に無断で編成した部隊でノンスタンス撃退した暁には、王国軍側も襲撃するんじゃないだろうな~? 」。


「有り得ないとは思いますが、考えられるとすれば部隊を引き連れて国会を乗っ取って籠城ろうじょうするのではっ? 憶測ですが副隊長からのお話からも考えて、歩兵隊の待遇に随分と不満を持たれておられそうですしっ」。


「そもそも、色々と考えが古いんだっての。締まらない集団を銃と怒号で威嚇して、そこから説教と根性論を踏まえながらナショナリズムを高々と掲げて、熱意と連帯感を共有させて賛同に向かわせるなんていう人心掌握術は古典的過ぎて心が動く軍人なんて今はいないんじゃないか? 隊長はもっと今の時代に生きる兵士の事を考えた方が良いのにな~。相変わらず頭が固いな~」。


ハリガネ達がひそひそと声を殺して会話している時、周囲の兵士達はステージ上で力説するゴリラ隊長に向かって罵声を浴びせ、瓶やゴミを投げ込み始めた。


至福の時を邪魔された兵士達は見るからに憤っていた様子であった。


「おらぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! とっととステージから降りろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「テメェのせいでコンサートが台無しだぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! コラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


「俺は前線部隊だけど休憩がてら余興を楽しむために、この時間に合わせて来たんだぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? ゴルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! とっとと失せろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「この反逆者がオラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


「ぐっ...!!! お前ら何をする...っ!! 俺がこれだけ声を張り上げて貴様達に訴えているのだぞ...っ!? なぜ伝わらんのだ...ッッ!! 」。


「知るかボケェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!! 」。


「死ねぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! おるぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


ミイラ隊長やカッパ副隊長も我を忘れ、一心不乱にゴミやら椅子やらステージ上に投げ込み始めた。


そして、投げ込む物が無くなると周囲の兵士達は魔力を使い雷やら炎やらをステージ上に放り始めていた。


「カッ!! エッッ!! レッッッ!!! カッ!! エッッ!! レッッッ!!! カッ!! エッッ!! レッッッ!!! 」。


さらに、怒涛のブーイングと帰れコールが沸き起こった。


「ぐっっ...!! き、貴様等...ッッ!! 」。


「あ~あ、もうここまでくると威厳も何もないな~。その内に騒ぎを知った治安部隊と憲兵が駆けつけて拘束されるのがオチだな、こりゃあ~」。


ハリガネは呆れた表情で首を横に振った。


「クーデターを呼びかけたミシマ=ユキオみたいですねっ! 」。


ヤマナカは腕を組んでステージ上を眺めていた。


「楯の会も作れてないぞ、あの隊長。まぁ、俺達が止めに入らなくても済みそうで良かった」。


ハリガネは苦笑してヤマナカにそう言った。


「しかし、もう上官ではないとはいえ、鬼隊長と呼ばれた上官の末路があんな感じで終わってしまうとはな~。なんか、元部下として少し悲しいものだな~」。


ハリガネは欠伸をしながら他人事のようにそう呟き、ステージ上で投げ込まれる魔法攻撃から逃げ惑うゴリラ隊長の悲しい姿を眺めていた。


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