第13話 これが宗教か


「いやぁ~! 本当に美味しいなぁ~! 」。


シェルター内で、ハリガネは修道女から提供された料理を食べていた。


「良かった~! お口に合って~! あっ! そうだ! 今から修道院の聖歌隊が詠唱歌を広場で披露しますので、宜しければご覧になってください~! 」。


「えっっ!? まだ侵入者がいる中でイベントォォオオオオオオオッッ!? 」。


ハリガネは修道女の言葉を聞き、目を丸くして驚愕した。


「これも“慈愛の囲い”で行われている奉仕の一環なのです~! 大丈夫ですよ~! 周りは治安部隊の兵士様が警戒態勢を整えておられますので~! 」。


(“慈愛の囲い”って何だっけ? あ、“ノットガールズ”の後継組織か...。とりあえず、ちょっと見てみるか)。


ハリガネは料理を食べ終え、外へ出る事にした。


外では二人の修道女が青白い光を放ちながら、見物している多くの魔法使いや兵士達に囲まれて歌唱を披露している。


披露している美声もさることながら、彼女達が放つ青白い光がシャワーの様に周囲へ降り注いでいる光景は非常に神秘的であった。


(なるほど、詠唱歌で魔力を放出してるのか。魔力も分けてもらえて身体も癒せてもらえて歌も聴けるよ、って事か...。しかし、ノンスタンスが侵入している中でそんな目立って大丈夫か?? )。


ハリガネは見物人達から離れた場所で両腕を組み、その様子をうかがっていた。


「シンガー姉妹っ!! 尊いっ!! 」。


「天使の歌声だぁ~!! 」。


「ああ~! 癒されるぅ~!! 」。


見物人が盛大に歓声と賛辞を送ると、彼女達は笑顔でそれらに応えていた。


(結構待機してる兵士や傭兵が多いな...。前線は本当に大丈夫なのか...? )。


見物人の中には自身の魔力で彼女達の頭上に緑色に光るシャワーを降り注ぎ、彼女達も魔力を吹雪の様に演出して見物人のアクションに応えていた。


その光り輝く魔力がイルミネーションを築き上げており、周囲はちょっとしたフェスティバルの様になっていた。


(何だ、これ。ここまでくると最早ライブだな...。最近はこういうのが流行ってるのか? てか、目立ちすぎだろ。こんなの戦地だったら敵に居場所がバレて大変だろうなぁ~)。


ハリガネがそう思いながらベンチに座った時、体格の良い屈強な男が目の前を横切った。


その男は不機嫌そうにブツブツと小言を言いながら通り過ぎていく。


「なんて緊張感のない空間なんだっ! 敵が侵入している最中でこんな余興を始めるとはっ! 戦士の風上にも置けぬ輩達だっ! 」。


(ん...? あの声にあの背中と短髪の黒髪...あっっ!! )。


ハリガネはすぐさま立ち上がり、その男を呼び止めた。


「おいッ!! ヤマナカッ!! ヤマナカ=マッスルッ!! 」。


ハリガネがその名を呼ぶとヤマナカと呼ばれた男は立ち止まり、ハリガネの方を振り向いた。


「おおっ!! 軍曹っ!! お久しぶりですっ!! 」。


ヤマナカは笑みを浮かべ、ハリガネに歩み寄り敬礼をした。


「いやいや、そんなにかしこまらなくていいよ。俺はもうただの傭兵だし、もう軍曹じゃないし」。


「いえっ! ハリガネ軍曹は除隊された現在でも私、ヤマナカ=マッスルの上官でありますっ! 」。


「ははは、そう...。まぁ、座れよ(久々に会っても、やっぱりコイツのこういうところがよく分からん)」。


ハリガネは再びベンチに腰を下ろし、ヤマナカにも座るよう促した。


「最後に会ったのはソルト共和国の国境近くで、お互い傭兵として山賊を撃退した時だったから...。そうかぁ~、もう二年も経つのかぁ~」。


ハリガネは夜空を眺めながら、その時の事を思い出しながら話していた。


「そうですねっ! 軍曹とは除隊もほぼ同じ時期でしたねっ! 除隊した後も、お互い傭兵として国家戦争や抗争に参加し同じ前線を戦ってましたねっ! 」。


ヤマナカも腕を組み、感慨深しげに何度も頷いていた。


「まぁ、王国軍に仕えてた時、俺が指揮を執ってた小隊の隊員だったしな~。部下として頼もしかったぜ~。ところで、ヤマナカは最近どうだ? 今でも傭兵を続けてる感じか? 」。


「傭兵として出動するのは軍曹と参加したあの時以来になりますっ! あの後、武道家として修行のために各国を旅しておりましたっ! 最近はポンズ王国内に道場を開き、武道家の師として門下生に格闘術を教えてますっ! 」。


「へぇ~、じゃあ師範の資格取ったのかぁ~」。


「はいっ! 」。


「スゲーなぁ~」。


ハリガネは感心しながらも表情を少し曇らせた。


(順調に武道家の道を歩んでるんだな...。それに比べて俺は...)。


嬉しいと思いながらも自身の境遇を考えて情けないと感じ、複雑な気持ちをハリガネはその時抱いていた。


「ふぅ~!! やっと終わったね~! 」。


「そうだね~! 」。


ミイラ隊長とカッパ副隊長が業務に一段落ついたのか、ハリガネ達の下へ近づいてくる。


「あ、ヤマナカ君も来てたの~? 久しぶり~」。


「お久しぶりですっ! 」。


ヤマナカはベンチから勢い良く立ち上がり、直立不動で二人に敬礼した。


「あ、勇者君達もシング姉妹の歌を聴いてたの~? シング姉妹って歌手もしながら舞台や演劇関連の仕事もやってるんだよね~。お姉ちゃんがアネちゃんで妹がラテちゃんだったっけ? 二人共テレビにも出てるんだよね~」。


隊長達は何故かサイン色紙を持っていた。


「最近、部隊ではあんな感じの催しをやってるんですか? 」。


「うん、普段は慈善活動の一環としてやってる事なんだけどね~。最初は普通に魔力を兵士に注入したり治癒してたらしいんだけど、単に詠唱するだけじゃなくてコンサート風にして兵士の士気を上げさせるっていう試みでもあるらしいよ~」。


「メディアでも戦う兵士を支える天使達なんて注目されててね~。最近は女子の間でもなりたい職業ランキングで修道女が一位にランクインされてるんだって~」。


「そうそう! あ、ちなみに僕はブリッジ=ブックちゃん推しなんだ~! 今回参加するらしいから絶対にサイン貰うぞぉ~! フフフ...」。


ミイラ隊長は不気味な笑みを浮かべてステージを見つめていた。


「僕はポンダ=ライスフィールドちゃん推しなんだよねぇ~! グフフ…」。


カッパ副隊長も不気味な笑みを浮かべてサイン色紙を抱きしめていた。


そんな話をしている時、一人の若い男がハリガネ達の下へやって来た。


独特の黒いローブを着ているあたり、この男は修道士のようだ。


「ミイラ隊長、前線部隊から連絡が入っています」。


「ええええええええええええええええええええッッ!? 」。


修道士の言葉に、ミイラ隊長は心底から嫌そうな表情を浮かべた。


「もぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!! 何なんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!! この時に備えて休憩も合わせてきたのにぃぃぃいいいいいいいいいいいッッ!! 別に俺に伝えることなんかないだろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!? もぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッッ!! 」。


ミイラ隊長は憤りながら修道士と共にシェルターへ戻っていった。


「あはは~、隊長はブリッジちゃんの出番に合わせて時間を空けてたからね~。あ、隣座っていい? 」。


「あ、どうぞ」。


「ありがと~」。


カッパ副隊長もハリガネとヤマナカが座るベンチに腰を下ろした。


ちょうどその時、ミイラ隊長お気に入りの修道女であるブリッジがシンガー姉妹と入れ替わりでステージ上に姿を現した。


修道女の服が他とは異なる赤色の服で丈が短く、おそらくイベント仕様なのだろうか歌いながらダンスを披露している。


ブリッジは魔力であろうピンク色光線を派手に放ちつつ観客を煽り立て、彼らもそれに応じてピンク色の光線を巻き散らした。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「女神が降臨されたぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「天使が現れたぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「なんと美しいんだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


「これで世界が救えるぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


いつの間にか見物人も大分増えており、辺りがピンクの光で明るくなった。


「いや、修道女だろ」。


ハリガネは頬杖をつきながら観客の歓声にツッコミを入れた。


「う~ん、やっぱりブリッジちゃんは可愛いし人気だなぁ~! 彼女は修道院の慈善活動の一環でコンサート始めたんだけど、今じゃメディアに引っ張りだこで舞台にも立ってるしね~! 」。


「副隊長、こんなに派手にやって大丈夫なんですか? 国際指名手配にもなっているノンスタンスが領域内に侵入している最中で...」。


ハリガネはステージ上のブリッジを撮影しているカッパ副隊長に問いかけた。


「大丈夫だと思うよ~。 周囲には強力な魔力を操る王国の特殊治安部隊と魔術部隊が防衛のために巡回してるからね~。いくらノンスタンスでも魔術大国に成長したポンズ王国軍の兵力には太刀打ち出来ないよ~。この事態も時期に収まるはずさ~」。


「魔術かぁ~。やっぱり魔法が一番必要とされてる時代なのか~」。


カッパ副隊長の言葉にハリガネは両手を頭の後ろに組み、大きくのけ反った。


「僕や隊長も、名前と方針が変わったこの部隊で生き残るのに必死なのさ~。そのために魔導書読んで勉強したり魔術関係の資格取ったり大変なんだよ~。魔法が使えないと、この部隊に残れないからね~」。


「え? 隊長と副隊長は魔法使えるんですか? 」。


「うん、ただ僕等は専門職じゃないから杖とか魔導書とか、あらかじめ魔法を発動させる補助道具を持ってないとまだ上手く魔法が出せないんだよね~」。


ハリガネの問いにカッパ副隊長はそう答えると、懐からペンサイズの黒い棒状の杖を取り出した。


「魔法使いが使う杖だと、もっとデカい杖を予想しておりましたがっ! 」


興味津々のヤマナカは、まじまじとカッパ副隊長の杖を見つめていた。


「はははっ! それはもう大昔の話だよ~。今はこのくらいコンパクトな感じになってるよ~。魔導書が図鑑並みの分厚さなのはずっと変わらないけどね~。ただ、僕等は魔力を自分から出す事がまだ上手く出来ないから、魔法が思うように出せないのさ~」。


「あ~、魔法ってそういう仕組みがあるんですね~」。


「まぁ、勇者君も魔術を学んで損はないと思うよ~。この先、魔法は日常生活でも必要になっていくからね~」。


「そう...ですね...」。


複雑な表情を浮かべるハリガネはカッパ副隊長にそう相槌を打ちつつ、ベンチからぼんやりとステージを見ながら考え込んだ。


(この緊急事態に現場への出動命令が無いどころか、ここで待機してる状態だしなぁ~。やっぱり剣術や物理攻撃だけだと説得力に欠けるのかな~? もう、魔法を会得するという事も考えなきゃいけない時代なのかなぁ~? う~ん、俺も考え方を色々と時代に合わせて変えていかなきゃいけないのかもなぁ~)。


「あのっ! 副隊長っ! 」。


ヤマナカは痺れを切らしたのか、勢い良くベンチから立ち上がった。


「ん~? 何~? 」。


「あのっ! 会話中に大変恐縮ですがっ! 我々はいつ現場へ出動すればよろしいのでしょうかっ? 」。


「う~ん、まだ本部から何も連絡が届いてないみたいだしなぁ~。前線の魔術部隊や特殊治安部隊がそろそろノンスタンスを鎮圧させてるところなんじゃないかな~? 近年、王国の魔術部隊は格段に戦力が上がってるから、出番のない僕等みたいな後方の人間は本当に暇でねぇ~。それに、さっき隊長が組織構造変わったって言ってたじゃ~ん? 特に王国内での軍事部隊の格差が顕著になってきた上に、王国では魔術が使える部隊と聖職者で構成された教団組織が圧倒的に権威があってね~。普段の業務で魔法を使わない僕等は王国内でも蚊帳の外だよ~。あはは~」。


カッパ副隊長が呑気に欠伸をする様子を見たヤマナカは、怒りで身体を震わせ始めた。


「ぬぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! たるんどるッッ!! 非ッッ常にたるんどるッッ!! 」。


「どうしたヤマナカ、いきなり大声を上げて」。


ハリガネは横目でヤマナカを見ながら問いかけた。


「敵に侵入された今っ! このポンズ王国はまさに戦場っ! その生死の狭間である戦場でやれ歌だのっ! やれ踊りだのっ! それを取り巻いている連中も若い女子に鼻を伸ばして何という体たらくっ!! そもそも反逆者に易々と侵入を許す事自体、王国に仕える兵士として万死に値するっ!! 戦士たるもの万事に備え、闘志と勘を研ぎ澄ませ大義のために尽力を注ぐべきでありますっ!! 」。


「ヤマナカ、冷静に部隊内で待機して物事を客観的に判断するのも戦術の一つだぞ。しかし、後方を支援する部隊に現場の状況が入ってこないのは色々と困りますなぁ~」。


「それだけ魔術部隊の戦力が高いから、こっちの助けはいらないよって事なのかもしれないねぇ~。本来だったら部隊にいる兵士達はそのまま腐っちゃうところなんだけど、こういう修道院の慈善活動があるからみんなの士気が下がらなくて済むっていうメリットもあったりするんだよね~。事実、僕や隊長も彼女達がいるから今の仕事頑張れるしぃ~」。


カッパ副隊長はそう言いつつ何処から取り出したのか、お気に入りの修道女ポンダ=ライスフィールドの写真集を眺めて不気味な笑みを浮かべていた。


「ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! こんッッな生温い環境...ッッ!! もう我慢できんッッッ!!! 反吐が出るッッッ!!! 」。


「おい! ヤマナカよせって! 」。


ヤマナカはハリガネの制止を振り切り、突如身に着けている武具と服を脱ぎ始めた。


「お、おいっ! 馬鹿っ!! お前何やってんだっ!!」。


「ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


一人で勝手に暴走し続けるヤマナカは、すっかり下着一枚の姿となってしまった。


「兵士の士気を高める余興であれば近接格闘術によるエキシビションッッ!! そして、武術で培ってきた肉体を披露するボディビルコンテストを導入すべきですっ!! どうですっ!? 長旅で鍛え上げたこの筋肉っ!! 目指せぇっ!! 王国オープンボディビル選手権優勝ッッッ!!! 」。


ほぼほぼ裸同然となったヤマナカは各部位の筋肉を隆起させ、フロント・ダブル・バイセップスやサイド・チェストといったポージングを取り始めた。


周囲の人間達は怪訝な面持ちでヤマナカを見ていた。


「どうです!? 軍曹っ!! キレてますかっ!? 」。


「あぁ!! 分かったっ!! 分かったからっ!! こんなとこでそんな事すんのやめろっ!! 恥ずかしいか...」。


ハリガネがヤマナカをなだめている時...。


ヒュゥゥゥゥウウウウウウン...ッッ!!


ステージから放たれたピンクの光線がハリガネに向かって飛んでくる。


「...ッッ!? なっ...!! 何だっ...!? 」。


シュパァァァァアアアアアアアアアアアン...ッッ!!


ハリガネの視界はピンクの光一色になった。


「ぐっ...!? しまった...っ!! 敵襲か...っ!? 」。


ハリガネは慌てて立ち上がり両腕をクロスさせてガードを図ったが、その光はハリガネの身体を包み込んだ。


「はっはっは~!! 違うよ~、勇者君~! 今、ブリッジちゃんが勇者君に魔力を注いだんだよ~。羨ましいなぁ~」。


「...へ? 」。


ハリガネはステージの方へ視線を向けると、ステージ上からブリッジがウィンクしながらハリガネに手を振っていた。


「いやぁ~! はははっ! 」。


ハリガネは頭を搔きながらブリッジに会釈し、苦笑いを浮かべながらベンチに座り直した。


「勇者君どうだった~? ブリッジちゃんの魔力は? 」。


「いやぁ~。襲撃かと思ったんで、あんまり覚えてな...うっ!? 」。


ハリガネは正面のステージを陣取る観客達から放たれる殺意を感じ取った。


(うわぁ~、みんなスゲー顔してらぁ~)。


観客達は、人間からかけ離れた魔獣さながらの眼光でハリガネを睨んでいた。


「はっはっは~!! 多分みんなブリッジちゃん推しなんだろうね~。彼女に影響されて魔術関連の職に転向したり、兵士が修道士に転身しちゃうなんていうケースも結構あるくらいだしね~。彼女は女神って呼ばれてるくらいだし、ブリッジ教なんていう新興宗教が設立されるんじゃないかなんてメディアとかでも騒がれてるからね~」。


「フンッ!! 嫉妬とひがみとはいえっ! 現場にいるんだからそのくらいの面構えで身構えてろっつーの! 」。


ヤマナカは仏頂面で、鼻を伸ばす観客達に対して悪態をついた。


「でも、隊長が見てなくてよかったね~。隊長は彼女の所属する修道院に、給与の半分以上を献金に入れてるくらいの“狂信者”だ...か...ら...」。


後方から足音が聞こえ、カッパ副隊長が後ろを向くと笑顔だった表情を急に曇らせた。


「ん...? いぃぃいっっ...!? 」。


カッパ副隊長の反応を見てハリガネも後ろを向くと、まるで殺害現場を目の当たりにしている様な表情で睨み付けるミイラ隊長の姿があった。


「ああ...。勇者君...。良かったね...。いいよな...」。


「えっ...!! いやっ!! あのっ!! その...」。


ミイラ隊長は観客達と同様に、魔獣の様な眼光でハリガネを睨んでいた。


(うわぁ~、面倒クセー。隊長、生霊みたいになってるじゃん...。なんか魔力を周りでウヨウヨ漂わせてるし...)。


「あと、第一部隊“ガレージ”の方から勇者君達に連絡が入ってるよ...。シェルターの方へよろしくね...。...から...」。


「あっ! はいっ!! た、只今向かいますっ!! ヤマナカ行くぞっ!! 」。


「り、了解しましたっ!! 」。


(さっきミイラ隊長、去り際に何か言ってた...? ま、いいか)。


ハリガネ達は、この場から逃げるようにシェルターへ向かっていった。


ちなみに、ミイラ隊長の聞き取れなかった言葉とは...。


『いや、あのー。別にいいんだよね...。これは修道院の慈善活動だし、女神だって僕等みたいな取り柄の無い兵士に笑顔や幸せを平等に与えているんだ。だから女神に魔力を注いでいただける事が特別な事だと思っていないさ。いや、そもそも僕は女神から魔力を注いでもらった事なんか一度も無いけど。いや、難しいんだよ。人気な修道女は演劇とかメディアでの仕事とか色々あるから会う機会もないし、こういうケースじゃないと会う事なんかほとんどないんだから。でも、女神の笑顔と奉仕するひたむきな姿勢を見ているからこそ僕らはずっと頑張っていけるのであって、僕も何とか適性がある分、不慣れな魔法をなんとか会得してこの部隊で生き残っていけてるんだ。その気持ちが君には分かるかい...? 勇者君...? 』。


...である。


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