放課後俳句クラブ

夜野あさがお

其の一 花筏

ピンポーン。

チャイムにしては少し乾いた音が玄関から聞こえて、私はソファから身を起こした。

インターホンまでは三メートルほど。見ると、来客を知らせる赤いランプがモニターの下に光っている。私にはそれが、なぜだか運命の予兆のように感じられた。


ピンポーン。

間を置いて、二回目の合図。

もぞもぞと体を動かし、モニターの前まで移動する。誰かと思ったら、幼馴染の井野いづるがそこに立っていた。なかなか出ない家主に痺れを切らしたのか、すでに何事か喋っている。

私は通話ボタンを押して、音声を外に開通させた。

「おはよ。こんな早くにどうしたの?ふぁあ」

あくびまじりの声できくと、彼は呆れたように

「おはよう。諷子ちゃん、まだ寝てたの?もう10時だよ、今日は一緒に新歓に行く約束をしてたじゃん」

「ふぁあ、そうだっけ」

眠気でもうろうとした頭を必死に絞って考えた結果、昨日そんなような会話をしたのを思い出した。この春に二人が入学した高校の新入生歓迎会が参加自由で行われるから、一緒に行かないかと誘われたのだ。

「早く準備して、もう始まってるよ」

「待って、まだパジャマ」

いづるにせかされながら身支度を調え、私は家を出た。

高校までは歩いて5分足らずだ。そもそも、家から近いこと以外にこの学校を選んだ理由はない。川沿いの道を急ぎ足で歩く。桜の花びらが辺りに散り敷き、川は薄桃色をして流れていた。春だけどまだ肌寒い。上着を持ってくればよかったと、少し後悔した。

いづるの言うとおり、新歓はすでに始まっていた。

体育館の壇上で軽音楽部がライブをしたり、ダンス部が踊ったり、マーチングバンド部のパフォーマンスがあったりと、会場はなかなかに盛り上がっている。いづるも目一杯楽しんでいるように見えた。

ただ、私はどこか退屈だった。心の片隅で、まあこんなものだろうな、と高をくくっている自分がいた。

その後も予定調和のパフォーマンスが続き、新歓は終わりに近づいた。閉会のあいさつをしようと、実行委員が前に出ようとしたとき、それを遮って何者かがステージ上に乱入した。

「ちょっと待ったあ!」

どこからともなく現れたその人物は、手にギターを持ち、青いサングラスをかけ、四角い帽子をかぶった奇妙な出で立ちでマイクを奪うと、

「新入生諸君、ごきげんよう。私の名前はメドウ。一曲聴いていってくれ」

と言って、下手くそなウインクを飛ばした。いや、あれはウインクだったかどうかもわからない。

会場が「なんだあれ・・・」と騒然となるなか、私はなぜか、運命が動きだしたと感じていた。






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