冬、誰かの想い

@786110

冬、誰かの想い

 冬の季節に、寂しさは募る。

 木枯らしに吹かれて身を震わせ、白い息を吐いても、孤独である事実は溶けてくれない。

 日陰に忘れ去られた雪のように、湿度と冷気を伴い、積もっているだけ。

 恋愛なんて一度もしたことがないのに、この時期になると人肌を恋しいと思ってしまうのはどうしてだろう。

 自分が幸せでないと言われているみたいで、胸が締め付けられるからだろうか。

 たいていの人はそう言うけれど、わたしはいまだにそれを実感したことがない。

 誰かを欲していたとしても、不幸だと思ったことはこれっぽっちもないのだ。

 みじめだと思うからみじめになる。

 周囲に疎まれようと、自分を肯定し、自信たっぷりに振る舞っていれば、自ずと風格も出てくる。

 そのような信念を貫いて行動してきたから、わたしは幸福だと胸を張って言える。

 そこにもうひとつ分の幸せを重ねたくなるのが、雪の降り始める頃だった。

 冬は、病の季節だ。

 強く逞しく生きようとしている人の隙間に染み込んで、傷口を的確に蝕んでくる。

 しかし、冬にとって、わたしたちに傷を感じさせることは、些末事に過ぎない。

 季節に翻弄されるのは、なんだか癪だ。

 そう思っていても、波に抗うことができないのだから、どうしようもない。

 イルミネーションに彩られた、聖夜前の賑やかな並木道。

 またしても一組の男女が、わたしの横を通り過ぎていく。

 立ち止まってクリスマスツリーを見上げていたわたしは、人の温もりを内側で求めながら、有象無象として、再び、雑踏の中に溶け込んだ。

 白い雪が、街に降ってくる……。

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