第6話 部屋

ベコさんとは別れ、宿屋の部屋に引き上げた。

今日起きたことをもう一度思い出してみた。。


すでに全滅から一週間が経っている。

今残っているのは、前衛の自分とサポート役のみ。


装備の大半が失われていて、いずれ保険での補填が入るだろうが 同じ仕様の物を用意するにはすこし時間がかかりそうだ。


それより高額な装備が回収できていないのと

復活できなかったメンツが居るのが痛い。

このまま仕事が続けられるかも問題だ。


だがこういう場合、

亡くなった彼らの家族への連絡や、葬儀はどうするんだろうか。

登録されてないからと言って、形見や死体は本当に放置された?

倫理的な問題もあるが、そんなことしてたら迷宮が死体であふれないか。

人間の死体もモンスターの死体も、煙みたいに消えてくれるわけでもない。


あの二人が生きている可能性は低いかもしれないが、洞窟内には水源もある。生存している可能性はゼロではない。


そこまで考えて、

ふと

返却された自分の持ち物を確認しようと立ち上がった。

なにか手掛かりになるようなものは…


ごん


ドアに何かが当たった。


気のせいかもしれない、気にせずに背を向けると


どんどん どんどん


誰かがノックしている。こんな夜更けに。


ノックは続いている。


こんな夜更けに部屋に来る人間がいるだろうか。


『……さん』


彼女の声で喋った。


『さん、おきてますか?』

ベコさん、と言おうとしてやめた。

部屋番号 教えていないや。




『おきてますよねぇ』

くすくすと彼女は笑う。


『そこにいますね。なんでなんで無視するんですかぁ』

がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり

ドアをひっかいているんだろうか。

 さん、おむかえがきましたよ

がりがりがりがりがりがりがりがりがりが

ああこいつはもうだめかもしれないがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり

そういえばさいごにみたときかのじょにつめはどうだったろうがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりこちらにおなまえをがりがりがりがりがりがりおねがいですあけてくださいがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりあけてくださいがりがりがりがりがりがりもういちどやってみますかがりがりがりがりがりがりパかっとなるところにがりがりすててがりがりおねがいしますおねがいしますなんでもしますがりがりがりがりがりがりがりあな のおな えハがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり彼女はドアノブをつかんで開けようとしている。


音が止んだ。

全ての音がきこえなくなった。

頭の奥が冷たい。

目を逸らしたいのに、ドアの視線を縫い付けられている。

見られている。


床とドアの隙間から明かりが細く差し込んでいる。


床とドアの隙間から液体が音もなく流れてくる。


ゆっくりと脂のような黒い液体が床づたいに入ってくる。

水たまりが部屋にひろがっている。

映った目がこちらをみている。


泡が


ごぽっと気泡が膨らみ、はじけた。




気がつくとベッドの上だった。

寝ていたのか。動悸が激しい。

ランタンの明かりが眩しい。


ふと扉の方を見ると ドアの下には手紙が差し込まれていた。


ベコさんの手書きの文字で、迷宮に同行できる日時が書かれていた。

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