酒カス勇者が居候し始めたので恋愛相談してみた!

戌井大吉

第1話 二日酔い、世界を超える

 頭が割れるように痛い。喉もカラカラに乾いている。カーテンから差し込む光に顔をしかめながら、水を求めて身体を起こそうとする。

 途端、経験したことのない不快感が全身を駆け巡る。たまらず目をギュッと瞑り頭を枕に沈めた。しかし、期待していた柔らかな感触はなく、何か硬いものに頭をぶつけた。

 ・・・枕がない?

 いや、頭だけじゃない。全身から硬い感触を感じる。どこで寝てるんだ俺は?

 事態を把握するためにもう一度重い瞼を開け、今どこにいるのか確認する。

 幸いにも近くに愛用のゲーム機があったので、自室の床であることを確認できた。自分の家で良かったと安堵し、また目を閉じる。

 いや、なんでベッドじゃなくて床で寝てるんだ?てかそもそもどうしてこんなに頭痛いんだ?

 段々と意識がはっきりとしてきたので状況の整理を始めようとしたところ、ベッドのある方からぐーぐーと人間のいびきのような音が聞こえてきた。

 ・・・誰だ?

 脂汗が滲み出る。記憶を辿ろうとする。しかし、うまく思い出せない。昨日は大学で初の飲み会があったはずだが、その後の記憶がない。恐怖と頭痛でどうにかなりそうだったが、重い身体をなんとか起こし、おそるおそるベッドを確認する。

 ベッドの主を目にした刹那、昨日の記憶が走馬灯の如く駆け抜けた。

「自称勇者のアイラさん、か」

 そこには、短く切り揃えられた金髪に日本人離れした白い肌、そしてテレビに出ていてもおかしくないほど見目麗しい顔立ちの少女が、俺のパジャマを着て横たわっていた。

 その美貌を帳消しにするほどの苦悶の表情を浮かべ、昨日コンビニで買った酒瓶を握りしめながら。


「起きてください。水飲みましょう」

 まだまだ身体はめちゃくちゃしんどいものの、なんとか水をコップに注ぐことはできた。ただ、今にも死にそうな表情の女性を差し置いて水を独り占めするほど人でなしではない。

「水飲んだら楽になりますよ。たぶん」

 必死に呼びかけた甲斐あって、うぅ、あぁ、と声にならない声を上げながらアイラさんは目を開けた。

「レント?ここは、どこ?」

「まだ酔ってるんですか。俺はレントさんとやらじゃないです。ここは俺の家です」

 レントというのは昨日語っていたコスプレ友達だろう。どうやらアイラさんも記憶が曖昧なようだ。

「ダンジョンの中にいたときから、記憶が、ないんだけど、他の仲間は、無事かな?」

 ダンジョンというのはなんのことだろう。ゲームの話?それか渋谷駅か池袋駅の地下のことだろうか?たしかにここはどちらからも遠くはないが。

「他の友達はわからないです。とりあえず水飲んで元気になってから話しましょう」

「うん、わかった。ありがとう」

 そう言って身体を起こしたかと思うと、凄まじい勢いで水を飲みはじめた。逆に心配になるくらい飲んでるぞこれ。

 お互い満足するまで水を飲み、体調も回復してきたところでアイラさんが口を開く。

「水分けてくれてほんとに助かった!死ぬかと思ったよ!正直、今までの旅ん中でサイアクの毒だったー!」

 そうだった。この人やたらテンション高いんだった。昨日は酔ってたから高いだけだと思ってたけど、シラフでもこんな感じなんだ。

 そしてアイラさんが興奮気味に俺に問いかける。

「どんな名前のムカつくモンスターの仕業なのか、君知ってる?」

 俺はちょうど目にかかりそうな前髪をかきあげ、心底うんざりしながらため息をつくように呟いた。

「モンスターでも毒でもありません。ただの二日酔いですよ」

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