第35話 月が綺麗な夜に
■フィオレラ村 教会 礼拝堂
”家”に帰った俺は帰り道にはしゃいでいたドリーとシーナを俺のベッドへ寝かせて、礼拝堂へやってきた。
なぜかはわからないが、何となく来た方がいい気がしていたのである。
「あら、キヨシ様……こんな夜中にどうしたのですか?」
振り返ればカンテラを持っているホリィの姿が見えた。
あの日とは違って、夜遅いためか寝間着姿である。
修道服もそうだが、ボディラインの浮く服を着るとホリィの艶めかしい肢体がいやおうなしに浮かび上がって来て目に毒だ。
「なんとなくな……ホリィこそ、どうしたんだ?」
「私も……なんとなく、ですね」
窓から差し込んでくる月の光に照らされたホリィはとてもきれいだった。
くせっけのある金髪がキラキラと輝いているのを見るのはもうずいぶん前のように思う。
「綺麗だな」
「は、はい!?」
「いや……なんでもない、なんでもないんだ」
するりと口から出た言葉に俺も、ホリィも顔を赤くして照れた後に礼拝堂の奥にある女神像の前に立った。
色はついていないが、俺がこの異世界へ来るときに見た女の姿に似ている。
「今年は司祭様が亡くなられて大変でしたが、何とか乗り越えることができました。女神セナレア様、キヨシ様を遣わせてくださりありがとうございます」
ホリィは俺が女神像を見上げているのにもかかわらず、膝をついて手を組み、祈りを捧げていた。
この村の現状であれば亡くなった人がいるのはしかたないだろう。
今年ではないかもしれないが、エミルの旦那だっていなくなっている。
子供ももしかしたら……そう思うと、俺は背筋がゾッとした。
「俺も祈りを捧げさせてもらおう……俺にチートスキルをくれてありがとうな。この村にどうして俺が来たかを考えることもあったが、今はこの村の人のために俺ができることをしていきたい」
ドリーやシーナ、村の子供であるピーター達の顔が浮かぶ。
俺に子供はいないが子供が嫌いなわけじゃない……だから、あの子たちの笑顔のために力を遣えるならば使っていきたいと思った。
『キヨシ、貴方は素晴らしいです。私の願いを聞き届けてくださいました。新たな力を授けます〈浄水〉が温度調整できるようになりましたので、有効に使ってください』
どこからか女神の声が聞こえ、俺はズコッとこけそうになる。
あくまでも〈浄水〉にかかわる力のようだが、温度調整して出せるようになったなら樽風呂を温泉に変えられるかもしれないし湯たんぽなどのあったまるものを作ることもしやすくなりそうだ。
「ありがとう。女神様」
「今、キヨシ様はセナレア様とお話されたのですか!? 詳しく! 詳しく聞かせてください!」
俺が呟いたことでホリィの目が血走り、肩をグッと掴んで揺らしてくる。
ものすごい力で揺らされて、俺はホリィの伝承好きの舐めていたことに気づいた。
締まらない俺達の関係だが、これがいいように思える。
これからもよろしくな、ホリィ。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
年越しのストーリーはここで終了です。
なんか最終回っぽいですけど、まだまだ続きますよ。
クリスマス時期だったのでこのエピソードを書きたかっただけというお話でした。
新章はリカードの再来から始めたいと思いますので、皆さまよろしくお願いいたします。
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