第四章 フィオレラ村の年越し
第28話 冬の訪れ
■フィオレラ村 教会中庭 キヨシの湯
「はぁ……息が白くなるし、本格的に寒くなってきたなぁ」
俺は手に息を吹きかけながら湯を沸かすための魔導具に魔力を込めて樽風呂へと投げ込んだ。
もう手慣れたもので、温度感覚もつかめている。
ただ、朝から両手で冷たい<浄水>を樽にためるのは若干冷え込むので困るものだ。
「ホリィ、おはよう」
「おはようございます。今日も朝からありがとうございます。今年もあと数日で終わりますが、いつになくいい年越しができそうです」
「年越しか……教会のカレンダーではもうそんな時期か。俺も長くいたもんだ……」
俺はこの村に来てからのことを振り返っていた。
電車にひかれたかと思えば、白い空間で女神だかにあい、この異世界に来て、不思議な力を持っている。
そんなことがあってからだいぶたっている気がしていた。
「ええ、2ヶ月あまりでしょうか? キヨシ様のお陰で村の年越しも保存食などを順調に進んでおります」
「まだ2ヶ月!? そうか、もっと長くいるような気がしていたんだがな……」
「ふふふ、キヨシ様は村にすぐ馴染んで、村人と仲良くしていただいていましたから」
口元を抑えて笑うホリィは修道服ではなくゆったりした寝間着だ。
これから風呂に入り、身を清めてから修道服に袖を通すことをしている。
日々のルーティンに付き合っているので、覚えてしまった。
「そうかもな。それじゃあ、朝食を俺が作っておくからゆっくり浸かっててくれ」
「はい、ありがとうございます。ああ、村長さんが水を各家庭に入れてほしいと昨夜来ていましたよ? このあたりは雪が降りますから皆さん家にずっとこもっているんです」
「まぁ、寒いと井戸へ汲みに行くのもつらいからな……わかった、朝食後ドリーたちと一緒に回ってくる」
俺はホリィの方を向くことなく手を振って、その場を後にした。
「雪が降るというのであれば、年越しは大変なことになるだろう。収穫できていない野菜類は収穫して保存しないといけないな……」
俺は一人でつぶやくと、寝ているドリーを起こして村の巡回をすることに決める。
「その前に、まずは朝食だな」
簡単なスープにも肉が入るようになってちょっと豪華になってきた。
交代で食事を作ることが増えて、なんだか本当に同棲している夫婦のようになってきている。
「いやいや、これはたまたまだ。俺のようなおっさんにホリィはもったいない」
本人に聞こえないように小さな声でつぶやくと宿舎の方へ急ぎ足で駆け出すのだった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
新章スタートです。
戦闘のあった前章があまり評価が高くなったので、平和な日常を描く方向にしていまうす。
キヨシの方もホリィが気になりますが年齢による差を気にしちゃうヘタレです。
じれっためなラブロマンスの今後にも注目です!
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