第9話 目覚めたらお供えされていた件

■フィオレラ村 木陰


「ん……寝すぎたか?」


 俺がゆっくり目を覚ますと、まだドリーは俺に抱き着いて眠っている。

 頬をつんつんとするとぷにぷにという柔らかい感触がして、人間っぽいななどと思った。


「いや、遊んでいる場合じゃないな……ピーターが来る前に……って、なんじゃこりゃぁぁぁ!?」


 昔やっていたという探偵ドラマの主人公のような叫び声をあげると、ドリーが目をこするながら寝ぼけまなこで俺を見上げてくる。


「ぱぱぁ……おあよー」

「お、おう。おはようだな……さて、どうしたものか」


 俺が驚いたのは、寝ている俺とドリーの周りに葡萄酒の瓶や、干し肉、花束、黒パンなどが置かれていたのだ。


「これは……もしかして、お供え?」

「あ、おはよう! キヨシ様!」

「ちょうどいい、これはいったん何なんだ?」

 

 戸惑っているといいタイミングでピーターがやってきたので、状況の説明を求めた。


「これは、村人からの感謝の証だよ。畑の復活を見た村の大人や子供がキヨシ様に感謝のためにといろいろ持ってきたんだってさ」

「やっぱり、お供えものか……何度も言っているが俺は普通のおっさんだぞ?」

「チートスキルを持っているのに何をいってるんだよ、キヨシ様」

「それもそうか……あんまり実感ないけどな。ドリーも起きろ、次の畑にいくぞ」

「んゆ……ふわぁーい」

「ド、ドリーちゃんが眠たいなら……寝ているのを見ていてやるっぞ!」


 ドリーが眠そうに声を上げていると、顔をちょっと赤くしたピーターが若干下心のありそうな雰囲気でドリーの護衛を申し出る。

 ピーターの恋(?)を応援するのであれば、この護衛を認めてやるのもやぶさかではない。


「やー、ドリーはパパと一緒がいいのー」


 起きはしたものの、相変わらず俺にべったりくっついてくるドリーにピーターは複雑な気持ちを顔に表しながら、次の畑への案内を始めた。

 小麦畑をいくつかやった後、誰もが管理していない荒地に足を運ぶ。


「ここは畑だったのか?」

「もとは畑だったけど、この畑の持ち主のおじいちゃんが亡くなってからは手入れはできてないよ」

「そう、か……」


 他人事とは思えない事情に俺は言葉を失った。

 兄貴が次いで維持してくれているだけでも、感謝しなければならない。


「ここでも何か育てたいが……そういえば、さっきのお供えもの花に、気になるのがあったな」


 俺はもってきていた花を取り出して確認を行った。

 どこか控えめで可憐な雰囲気を漂わせていて、淡い紫色を中心に、花びらの内側には濃い紫色の模様があり、中心へと向かうグラデーションの美しい花があった。

 

「これは……ジャガイモの花だ! ドリー、コイツを育ててみてくれないか?」

「わかったの! ドリーがんばるの!」


 俺が花を荒れた畑において距離をとると、グングン育っていく。

 この花はジャガイモの花だ。

 荒地対策と食料問題、同時に解決できる手が見つかる。


「さて、蛇がでるか鬼がでるか……」


 緊張した面持ちで花の成長を見守るのだった。

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