第四話 吹雪先輩

クリスマスも終わり俺は家でゴロゴロしていた。

 ん?クリスマス?そんなものは俺にはなかった。

 今は冬休みだ。そして明日から正月前と言うのにに2日間部活の合宿遠征があるのだ。遠征はずっと一日中試合漬けとなる。結構辛い。なんとか合宿で二条城先輩と夜。そして宵闇について探らないとな。


「もう10時か」


 そんな一人事を呟きながら、俺は出かける準備を始める。

 最近、腰が痛くて少しベッドから出るのが辛い。

 寝癖を直し、着替える程度の準備を終え、俺は家を出た。

 今日はとある人とランチをする約束があるのだ。


 目的地に到着する。

 だいぶ早く着いてしまったみたいだ。

 あーどうせあの人来るの遅いのに、ミスったー。

 俺は約束の人を待ちながらスマホを触り始める。

 約束の12時になってもその人は姿を表さない。


 30分ほど待って、帰るか迷っていると、その人は突然現れる。


「遅刻ですよ。先輩。」

「久しぶりだねぇ。楓ちゃん。久しぶりにお姉ちゃんに会いたくなっちゃったの?」


 誘惑するかのような声で話しかける彼女は、有坂吹雪(ありさか ふぶき)先輩だ。

 入学当初、色々教えて頂き、とてもお世話になった先輩だ。


「だから、ちゃん付けはやめてくださいって。吹雪先輩。」

「じゃあ、私の事吹雪ちゃんって呼んでよー」

「無理ですね。」


 吹雪先輩とはいつもこんな話から始まる。


「とりあえず、ご飯頼みましょう。」


 そしてそれぞれ頼んだ物が届くと、吹雪先輩は話し始めた。


「それで、最近どう?」

「定期テストはなんとかマイナスは避けましたね。」


 十位に入ったことはあえて言わないでおく。


「まーたそうやって。早く本気出しなさいよ。」

「いつもそう言いますけど、先輩俺の本気みたことないですよね?今の俺が本気なんです。」

「まーさか。それが分かっちゃうんだな〜天才同士だからか、肌で感じるものなの。楓ちゃんは絶対強いわ。あ、これ食べる?」


「え、」


 吹雪先輩が食べているスイーツが刺さったフォークが俺の目の前に。


「早くあーんしなさい。」

「え、あ、はい。」

「よし。いい子。」


 バカにされてるよな……

 てか、間接キス気にしないの?


「まあ、最後にはAクラス行くつもりなんで、楽しみにしててくださいよ。」

「後からAクラス間に合わないなんて言ってもお姉さん知らないからな?」

「分かってますよ。ちゃんと考えてます。」


 三年までには個人ポイントをAクラスに入れるくらいにポイントを稼ぐ。


「だといいけど。それから、年明けは不定期試験になることが多いから、気をつけなよ?」

「え、何やるんすか?」

「それはお楽しみよ。ただ、個人ポイントは大きく上下するでしょうね。」


 増える。ではなく上下。

 ということは、減る可能性があるということ。

 奪い合いの可能性だってあるのか。

 少し楽しみができたな。


「あーそうだ。先輩、話変えますけど、確か吹雪先輩と二条城先輩って同じクラスですよね?」


 今日はこれが聞きたかった。だから、二条城先輩とおなしクラスである吹雪先輩を誘った。

 まあ、吹雪先輩とはよく今日みたいにランチをすることがあるから、そんなにおかしいことはない。


「二条城?同じだけど」

「彼女について噂とか流れてないすか?」

「え、あー、うーん。あ!後輩と一緒にいるとこ見た!」

「そ、それ!多分それ!」

「確かに、少し話題になってたわ。相手が誰かは分かってないけど。」


 これ、相手が神奈月夜だって言ってもいいやつなのか?


「その様子だと、楓ちゃん、知ってるな?」

「え、あー」


 誤魔化そうとしたが、吹雪先輩には通用しなかった。

 なんだか、吹雪先輩にたまに操られているような感覚になる時がある。

 今がそれだった。


「バスケ部のマネージャーかもしんないって噂。です。」

「はい。いい子。」

「名前は、自分で当ててくだせえ。」

「調べておこっと。あちなみに、」

「はい。」

「宵闇紗理奈だっけな、青井狸と一緒に歩いてたんだけど、関係ない?」


 狸?独自に調査でもしてるのか?

 いや、狸だからただ仲良いだけか。


「関係ないんじゃないすか?」

「分かったわ。」


「じゃあそろそろ帰りましょう。今日はありがとごさいました。」


 ご飯も食べ終わり、キリがいいところで俺は切り上げる。


「ちょっと何払ってるのよ。」

「誘ったの俺ですし、奢りますよ」

「なーに言ってんの。私が払うわ」


 吹雪先輩は俺の頭を軽く叩いてから押しのけてそういう。

 抵抗はしたのだが、結局吹雪先輩に払っていただいた。


「すいません、ご馳走様です」

「いいのよ、いつでもまた呼んでね」


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 奢ってもらったからとかではなく、吹雪先輩は本当にいい人だ。

 吹雪先輩が手を振っている。

 俺は手を振り返して、家に帰った。

 そういえば、吹雪先輩って、個人ポイントどのくらいあるんだろ。

 そんな疑問もあったが、また聞くのを忘れてしまった。

 まあいいか。明日合宿だし、帰ろう。



 この時の文月楓には、吹雪先輩に噂を言ったことで、先輩がちょっと活躍することになるなんて思ってもいなかった。

 そして、バスケ部は恋愛疑惑がある中、合宿遠征を迎えるのだった。



 ***


 次の日の朝は5時30分に起きた。

今日は合宿だ。

 いつもより1時間も早く、とても眠い。目を擦りながら、俺は準備をする。

 時間に余裕があるため、ゆっくりと準備をし、出発する。

 学校に集合し、そこからバスで県外まで行くのだ。

 学校に着くと、ほとんどの人がもう到着していて、俺は遅い方だった。

 みんなで荷物を協力して、バスに詰め込み始める。

 こういう時はバケツリレーのようにすると早い。中継地点で、二条城先輩から夜へ荷物が渡るのが見えるがその姿はまったくもってカップルのようには見えない。

 やっぱり、みんなの前では隠しているのか。

 それとも本当に何も関係ないのか。

 荷物を積み、バスに乗って出発した。


  3時間ほどで目的地に着いた。

 今日は、練習試合をやる。

 しかも、相手はどこも強豪校ばかりなのだ。

 公式戦なら、勝ったり、活躍すると、個人ポイントを学校からもらえたりするので、部活に入るメリットはとても大きい。もちろん俺はそれが目的で部活に入ったわけではないが。

 とはいっても、今日はあくまで練習試合。個人ポイントすらもらえない。ちょっとやる気が出ないな。


 そんな試合の結果は全敗だった。


 俺もかなり試合に出たが、なんだかやはり最近腰が痛い。それもあってあまりいい動きもできなかった。


「にしても、相手が強すぎたな」


 なんて言い訳する仲間。

 バスに乗って旅館に向かう。

 10分もしない内に旅館に着く。

 部屋割りごとに部屋に移動する。

 俺は、先輩二人に、青井狸と一緒の四人部屋だ。


 夜ご飯になるまでは自由なので、風呂に入ったり、ダラダラする時間があった。

 俺は一旦トイレに行ったのだが、なんとここで事件が起こる。

 トイレが流れないのだ。

 これは大事件だ。

 しかも俺が尿をした後に気づく。

 狸を呼んでみたが、やはり流れない。

 しまいには、狸に俺の尿を見られる。

 なんて旅館だ。

結局、旅館の人を呼んで直してもらったが、他にもこの旅館は設備が悪いと感じることが多かった。

 まず、冷蔵庫くらい置いて欲しい。


 そんなことをしているうちに夜飯の時間になる。

 バイキング形式で、主食はカレーだったが、色々なおかずが選べた。

 しかし、どれを食べても美味いといえるものはなかった。


「この旅館、大ハズレだな」


 隣の二条城先輩に耳元で言われて、俺は頷く。

 先生も不満そうな顔をしていて面白かった。

 夜ご飯を食べ終え、また自由な時間がやってくる。

 俺は、部屋仲間とふざけあっていた。

 そこまで深夜な訳でもないが、みんなテンションがおかしく、早くも深夜テンションに突入。

 性癖などを言いあう、最悪な状況になっていた。

 そんな中、10時頃に突然ドアをノックされる。

 みんな驚いた様子だが、ドアを開けると出てきたのは、マネージャーの二人だった。

 夜ではない他の二人のマネージャー、藍沢(あいざわ)先輩という。もう一人は宵闇だ。

 深夜テンションの俺たち。

 そこに風呂上がりのマネージャー二人が部屋に訪れるなんて状況。

 襲ってしまても文句は言われないだろう。だが、この部屋の俺達は、違かった。

 そんなことはせず、二人の話に耳を傾ける。


 息は荒く、急いで来た様子で、藍沢先輩はこう言った。


「1階のベンチで、二条城と夜が話してるよ。」


 ただそれだけなのに、なぜか俺の背筋に鳥肌が立ったの感じた。

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