彷徨って

@edamame050

彷徨って

 私が好きな彼女は私以外の人を選んだ。私達は幼馴染みだった。小さい頃から一緒に遊び、一緒に行動して、一緒の道を選んできていた。これからだって私達の関係は変わらず、いつでも隣には彼女がいてくれるのが当たり前だとそんな確信が漠然とあったのに。 


 ある日の帰り道で、付き合うことになったと彼女は喜色を帯びた笑みで私に報告してくれた。 

 私は突然と告げられたその言葉にどろりとして加虐めいた思想に偏向しそうになる舵を目一杯反対側に切らざるを得なかったし、胸の内は響めき苛烈さで理性の制御を手放したくもなった。


 そうなんだ、よかったねとなんとか紡げたのは私なりに心の均衡が取れていたという確かな証拠として提示されていた思う。


 それからは会話が減り、メッセージのやりとりが減り、会える時間も減った。私がいた時間に置き換わる形で彼女の中で「彼」との蜜月が濃くなったのはいうまでもなく、私とは一歩退いた関係性であることがことさら強調された。


 結局どうすることも出来ない私はその立場に収まる以外に道はなかったのだ。

 大学をやめて、住んでたアパートを引き払い、幾何も無い金銭で遠くに出かけた。少しでも彼女とは遠い場所に至ることで、抜け落ちた物を探しに行ってたのかも知れないし、代用できる物を見つけたかったのかも知れない。北へ、東へ、当てもなく辺りを彷徨った。何日かして路銀が消え、公園で寝ていたところを私は警察に保護された。連絡を受けた親からは罵詈雑言を浴びせられ、捜索願も出されていたことを後から知った。実家に返されると正常な生活を送ることを余儀なくされて、やめた大学も復学するよう何度も説得されたが、私が頑なに首を縦に振らないのを見て両親も諦めた。


 自室にある写真立てが目に入った。そこに映る私と彼女は青春という輝きに呑まれたような表情を際限なく見せていて、彼女の側らにいる私は自らが辿る結末の定義に無知なようであった。

 思い出の眩しさに目が開けられなかった。淀んだ記憶をジャックするように正常な私達の歴史が蘇った。

 そこまできて私は自らの心情に気づくことが出来た。私は失恋したのだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彷徨って @edamame050

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る