凡人な俺の、握力100kgの美少女幼馴染と往く冒険譚。∼彼女の力(物理)が強すぎて誰も相手にならないのですが∼

ブサカワ商事

Episode001 美少女幼馴染のヒミツ

――『チート能力』って言葉は、俺はあまり好きではない。

聞いた話によると、ソイツがあるだけで、この世界の難度はぐんと下がり、人々から崇められるような存在になれちゃうんだとか。

でも、俺はそんなのは嫌いだ。

だって、そんなの、能力の持ち主であるソイツ自身が人気なんじゃなくて、『その能力で強いソイツ』が好きなだけだろうから。

そうやって用意された神輿の上に座っているだけなんて俺は嫌だし、地位を確立するにしたって、俺は自分で積み上げたモノがいい。

どれも綺麗事に聞こえるかもしれないが、少なくとも俺がそう思ってるのは事実だ。

……だから、俺は素直に、アイツを尊敬してる。

眠りから覚めて少しの間、そんなことを考えていた俺――スレイ、16歳――は、さっさと身を起こして、着替えを始める。

今日も、アイツと一緒に魔物を狩る為に。


* * * * *


急に何の脈絡もなく物騒な話を始めるが、この世界には、魔物という厄介極まりない存在がいる。

人間が気付いたときには既にいて、魔力や圧倒的な身体能力で人間の生活をぶち壊そうとしてきて、一番最初に魔物が目撃されたときは、世界の破滅すら覚悟されたほどだったらしい。

しかし、人類は魔法や剣術を主とした戦闘手段を研究し、魔物たちを相手取ることができるようになった。

それ以降は、魔物の体の一部や、魔物が持っていた財宝の類を一定の人たちが買い取り始め、そんな人たちの集団を『冒険者ギルド』、そして、魔物を狩る人々のことを『冒険者』と呼ぶようになったそうだ。

もう50000年も前の話らしいが、当時の人々は、俺たち人類がここまで長く続くことになると想定しただろうか。

俺がもし昔の人だったとしたら、びっくりするのを通り越して、尊敬に至っていたのかもしれないと思う。

それはさておき、冒険者たちは基本的に群がる――パーティーを組むことが多い。

一人で戦いに行けば、無事に帰ってこれる確率は低くなる。

逆に、大人数で戦いに行けば、連携をとったり、時には交代しながら攻めることで両方が疲弊するのを防いだりと、かなりいいことばかりなのだ。

そういうことだから、俺だってパーティーを組んでいる相手くらいいる。

と言っても、俺たちのパーティーは2人だけなのだが。

俺は荷物を整えると、昨晩を過ごした部屋を出る。

一定の宿にずっと泊まり続ける金持ち冒険者もいると聞いたことがあるが、俺たちみたいな稼ぎの保証できない冒険者は、馬小屋で寝泊まりすることになる可能性を無視できないから、毎日いろんな宿を転々とするのだ。

……まあ、本当はそんなことする必要はないし、どっかいい感じの宿に定住するように泊まるのも不可能な話じゃないんだけどね。

そんなことを思っていると、左手にある部屋の扉が開いた。

そして、そこからは、皆の視線を集めてしまうかもしれないほどの美少女がいる。

頭に2つ髪の団子を作り、ボブくらいの長さになっている薄い金色の髪を揺らし、綺麗な澄んだ翡翠の瞳で俺を見た少女。

彼女は俺に微笑みかけてきた。

その少女は、俺がただの男子だったら、高嶺の花だと諦めるくらいの美少女で、それこそ、貴族の若造たちが声をかけてきても何ら不思議ではない。

だが、俺はその美少女と話すことができるし、何より、一緒にパーティーまで組んでしまっている。

どうしてなのかといえば……。


「おはよう、スレイくん」

「あぁ、おはよ、シエラ。……今日も相変わらず、俺の幼馴染様は綺麗だな」

「なぁ!? ……も、もう! そうやって朝っぱらからびっくりさせて!」


……そう、幼馴染だからである。

彼女――シエラは、俺とは生まれつきの幼馴染だ。

親どうしが昔からの親友らしく、その影響で、俺とシエラは物心がつく前からの付き合いになっているんだとか。

そうやって昔から一緒にいたからなのか、俺とシエラはずっと一緒だ。

流石に風呂に一緒に入ったことなんかはないが、どこに行くにも一緒だった。

俺が虫取りに行くといえば虫取りに一緒に行き、シエラが星を見に行くといえば俺は一緒に行った。

別に付き合っちゃいないんだが、周囲からの判定では『付き合ってる』と見えているのは昔からお互いに慣れっこだったから、思春期が来ても距離をとるようになるとかがなかったのは本当にびっくりしたけど。

……本音を言えば、俺は本当にシエラのことが好きだ。

ちなみに、シエラはこの街で一番人気の少女らしく、彼女のファン最古参にして第一号の俺としては、「こんだけ可愛い上に威張ることもなく、誰にも優しいんだし、そりゃあそうなるか」と何気に誇らしいのである。

……というのはここまでにして、一瞬だけ頭の中に沸いた紹介文を脳内から放り出した俺は、彼女にこのやり取りに不満を持たせないように答える(もとい応える)。


「だってしょうがないだろ? シエラが綺麗で可愛いのはいつものことなんだから。でも、今日は特に綺麗に見えた気がして、口が滑ったというか」

「だとしても、もうちょっと驚かせないようにしてほしい!」


そうやって軽口を叩きあいながら、俺たちは滞在し始めて3ヶ月を迎えたこの街――『冒険者の街・エヴィラルブ』に繰り出していった。

だが、朝食を食べるのは後にして、俺たちには行かねばならないところがある。

それは、俺たちにとって生命線であり、仕事だ。

しかし、こんな時間に俺たちが出向くのにはワケがあって……。


* * * * *


「ほら急いで! あと10分でヨルガ―さんたち来ちゃうかもだぞ! ほれ! 『パワード』!」

「ありがとう! もう一回! そぉ……れっ!」


シエラは掛け声と共に、両手で持っていた、全長2mにも及ぶ大剣を振り下ろす。

もはやどちらかと言えば鈍器なそれを脳天に落とされた巨大なクマの魔物――ヒトヤーリは大きくよろけ、大剣を落とした場所から血を流しながら、思い切り地に伏す。

その様子を見届けた俺たちは肩の力を抜き、お互いに駆け寄ってハイタッチをする。

俺たちはギルドで販売している花火を打ち上げて係員を呼び出しつつ、野原に座り込んで話す。


「スレイくん、ナイスアシストだったよ! あのタイミングでの『パワード』がなかったら、ヒトヤーリを倒せてた自信なんてないもん」

「なに言ってるんだ、ヒトヤーリを倒したのはシエラなんだから、もっと誇っていいんだぞ?」


そう謙遜し合いつつ、俺は改めて実感させられる。

さっきまで彼女が振り回していたアレは、だいたい握力が100kgないと扱えない。

……この可愛くて優しい美少女・スレイは、握力が100kgあるのである。


次回 Episode002 少女の握力の話

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