第25話 感情

 りゅりゅの捜索の翌日。ミコは街の広場のベンチに座り、グシオンを膝に乗せて考え事をしていた。




「りんりんの方は五回も急成長した。対して、私の方は一回も急成長した事が無い」


「ウキー」


「おそらく、プレイヤーの強い感情は必要。りんりんの仲間のプロモン達や、ネット上の他のプロモンの急成長に関する記事や動画から察するに、それは一つの条件のはず」


「ウキー」


「何が急成長の残りの条件なの?誰か教えてくれないかしら?」


「プロモンの強い感情だね」


「!!??」




 突然、背後から声をかけられて、ミコは飛び上がった。振り向くと、黒髪の長身の男がベンチのすぐ後ろに居た。




「ごめんよ、驚かせてしまったみたいだね」


「い、いえ。大丈夫です。それより、プロモンの強い感情が急成長に必要なのですか?」


「半分正解だね。それに加えて、プレイヤーの強い感情も必要。プロモンとプレイヤーが、同じ何かを成し遂げようと強く同時に思う事で、急成長が引き起こされるのだよ」


「随分詳しいのですね」


「僕はこのゲームの製作者であり、運営者でもあるからね」


「!!??」




 再度、ミコは飛び上がった。このゲームの製作者であり、運営者。もしもそれが本当ならば、プロモンの急成長について詳しい事にも納得出来る。




「ほ、本当なのですか?」


「急に言われても信じられないよね。どうしようか?どうやって証明しようか?」


「私宛に運営からのメールを送るのはどうでしょうか?」


「良いね。君の名前は?」


「ミコです」


「同じ名前の他のプレイヤーは……ゼロだね。それなら、はい」




 そう言いながら、男は虚空を見て、手を少し動かした。




「どうかな?メールは届いたかい?」


「届きました。本当に運営の人だったのですね。いつもありがとうございます」


「とんでもない。こちらこそ、いつもありがとうございます。」




 互いに一度づつ礼をする。名前を教えただけでメールアドレスを特定した事。銀髪のお嬢様へ、と件名に書かれたメールが運営からミコに今届いた事。どちらも、この男が運営者でなければ説明がつかない出来事であった。製作者であるかどうかは判断出来ないが、おそらくこれも本当なのだろうとミコは考えた。




「さて、先程は随分と苛立った声で急成長の条件について考察していたけれども、何か困っていたのかな?」


「はい。どうしたら私のプロモンを急成長出来るのかと考えていました。でも、条件が分かったので大丈夫で……」




 そこまで話して、ミコは口ごもった。




「どうしたのかな?」


「プロモンの強い感情をどうやって引き出せば良いのかな、と思いまして」


「……ごめんよ」


「あの?今何と言いましたか?」


「え?ああ、大変だよねって言ったのだよ。人相手でもプロモン相手でも、強い感情を引き出すのは大変だよね」




 勉強しなさいと言っても、強いやる気はまず出させられないよ。そう言って男は少し笑った。ミコもつられて少し笑った。




「ところで、ミコ君。一つ簡単なアンケートをしても大丈夫かな?」


「どうぞ」


「プロモンに感情がある事についてどう思う?」




 真剣な表情で男が尋ねた。少し考えて、ミコは答えた。




「不思議だな、と思います」


「聞き方が良くなかったね。プロモンに感情があって良かったかな?それとも、悪かったかな?」




 また少し考えて、ミコは答えた。




「プロモンが必ずしも私達プレイヤーの都合に合わせた行動をしなくなるので、感情があって悪かったと思いましたね」


「ふむふむ」


「昨日も、私の友人の仲間のプロモンが他の仲間のプロモンと仲が悪くなっていましたし、その前も問題児のプロモンにその友人は振り回されていた事がありました」


「なるほど。アンケートに答えてくれて、ありがとう」


「どういたしまして。あの、私からも一つ聞いていいですか?」


「どうぞ」


「何故、プロモンには感情があるのですか?」




 ミコが尋ねると、男は苦虫を嚙み潰した様な顔をして、頭を掻いた。




「簡単に言うと、現実の動物に似せすぎたからかな」


「似せすぎた?」


「そう。似せすぎたのだよ。やりすぎだった。とても後悔しているよ。君も言ったけれども、プロモンに感情があると、プレイヤーの都合に合わせた行動をしなくなる。プレイヤー達からのそれについての苦情や修正の意見が後を絶たない」




 そう言いながら、男はベンチに座った。




「君も座ってくれないかい?一つ、昔話をしたい気分でね。付き合って欲しいのさ」




 ミコは無言で頷き、男の横に座った。

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