第23話  仲直り作戦

 りんりん達が林フィールドに来てから一時間が経過していた。木があまり密集していない、比較的に開けた場所でりんりん達はレベル上げをしていた。




「うまうま!【いななき】!」


「グシオン、【活命の祈り】」




 うまうまが野生の鹿型プロモンの動きを止めて、グシオンがその鹿型プロモンを回復する。




「ヘカト、【水柱の印】」




 回復したばかりの鹿型プロモンを、新しくミコの仲間となったカエル型プロモンのヘカトが太い水柱で攻撃する。




「うまうま!【いななき】!」


「グシオン、【活命の祈り】」




 再度、うまうまが鹿型プロモンの動きを止めて、グシオンが回復する。




「ヘカト、【水柱の印】」




 回復したばかりの鹿型プロモンを、ヘカトがもう一度攻撃する。




 プロモンは相手のヒットポイントを削った量によってレベルが上がる。その為、早くレベルを上げる為には、ひたすら攻撃をさせなければならない。




 だが、普通に戦っていては野生のプロモンは倒れてしまう。それを解決したのが、野生のプロモンに回復と妨害をかけながらひたすら攻撃をするという方法であった。




「あとどれくらいかな?」


「これで終わりよ。ヘカト、【水柱の印】」


「やっと終わった。うまうま、【活命の祈り】。わしわしはその後にあの子をどこか遠くに運んでね」


「ヒヒーン」


「ピィー」




 鹿型プロモンがわしわしに掴まれて遠くに運ばれる。三十分近く一方的に攻撃し続けたその鹿型プロモンに、酷い事をしてごめんねー、と声をかけて、りんりんは見送った。




「ねぇ、りんりん」


「何?」


「やっぱり、いぬいぬを攻撃していいかしら?」


「駄目」


「妨害が要らなくなって、うまうまが回復役になれるから効率が二倍近く上がるのだけれども」


「駄目。いぬいぬをずっと攻撃をし続けるのは流石にやりたくない」


「攻撃する相手はうまうまでもわしわしでも良いのだけれども」


「駄目。それより、おやつを食べながらりゅりゅとうまうまの仲直り作戦について話そうよ」




 そう言いながら、りんりんはレジャーシートを広げて、プロモン避けの杭を打った。




「ピィー」


「わしわし、お帰りなさい。早かったね」


「ピィー」


「みんなの分と纏めて、おやつを出すからそこで待っててね。……あ!」


「どうしたの?」


「カエルって虫を食べるよね?どうしよう。虫のおやつは持って無いよ」


「ゲコッ!?」


「お肉で大丈夫?」


「ゲコッ」


「良かった。じゃあお肉をあげよう。りゅりゅはどうする?何が食べたい?」


「がるー」




 グシオンの為に出したバナナの方をりゅりゅが向いたので、りんりんはバナナを一本追加で実体化させてりゅりゅに手渡した。




「さて、みんなにおやつが行き渡ったし、私達も食べようか!」


「そうね。美味しそうなクッキーをありがとう。グシオン達の分のおやつもありがとう」


「気にしなくて大丈夫だよ。ところで、仲直り作戦の方法は思いついたかな?」


「一応考えてみたのだけれども、時間をかけて慣れさせるのはどうかしら?」


「私もそれは考えたね。でも、何日もこのままにはしたくないし、うまうまが噛む事への根本的な解決にはならないから、もっと良い方法を思いつきたいね」


「もっと良い方法、ね」




 二人で頭を働かせるが、最後の一枚のクッキーをりんりんが食べ終わるまで考えても、もっと良い方法は思いつかなかった。




「他に方法も思いつかないし、りゅりゅがうまうまに慣れるのを待つ事にするよ」


「それが良いと思うわ。問題が起きたらまた一緒に考えましょう」


「その時はよろしくね。って、あれ?」


「どうしたの?」


「ミコちゃん、りゅりゅが何処に居るか知らない?」




 二人で辺りを見回すが、りゅりゅは近くには見つからなかった。他のプロモン達も、おやつを食べる事に夢中になっていたのか、りゅりゅが何処に居るのか見当もつかなかった。




「ど、どうしよう!りゅりゅが消えちゃった!」


「落ち着いて、りんりん。まだ遠くには行っていないはずよ。手分けして探せばすぐに見つかると思うわ」


「そ、そうだね。そうだよね。別行動は怖いけれども、今は仕方ない。みんな、手分けしてりゅりゅを探すよ!いぬいぬとヘカトは北、わしわしは東、ミコちゃんとグシオンは西を探して!うまうまは私と一緒に南を探すよ!足が遅いかめかめはここで留守番。良いかな?」




 りんりんの言葉にその場に居る他の全員が頷く。別行動はボロドウ団等に襲われる可能性を考えると危険ではあるが、それが起こる可能性は低い。一方、あちこちに見かける野生のプロモンに弱いりゅりゅが倒される可能性は高い。一つも被害を出さずに済む可能性に賭けて、りんりんは手分けして探す決断をした。




「行くよ!りゅりゅを早く助けよう!」




 被害が出る前にりゅりゅを見つける。短期決戦狙いの捜索が開始した。






 りんりん達がりゅりゅの捜索を開始した頃、りゅりゅは林フィールドを歩いていた。




「がるー」




 てくてく。とことこ。てくてく。とことこ。




 ゆっくりと、何かを探しながらりゅりゅは歩く。やがて、目当ての存在をりゅりゅは見つけた。




「がる!」




 遠くからりゅりゅはそれをじっと見つめた。それは、野生の鹿型プロモンだった。




「……?」




 視線を感じたのか、鹿型プロモンがりゅりゅの方を向いた。顔を向けられたりゅりゅは少し怯えた顔をしたが、そのまま鹿型プロモンの方を見続けた。




「……」


「……」




 立ち止まったまま、鹿型プロモンが無言でりゅりゅの方を見続ける。りゅりゅも無言で鹿型プロモンを見続ける。




 二匹は立ち止まったまま見つめ合い続けた。やがて、りゅりゅが鹿型プロモンの方に恐る恐る近づいて行った。




「が、がるー」




 二匹の距離が近づいていく。十メートル以上あった距離が縮み、あと五メートルの距離となった時、鹿型プロモンが鳴き始めた。




「ゲッゲッゲッゲッ」




 表情を一切変えずに鳴き始めた鹿型プロモンに驚き、りゅりゅが動きを止める。りゅりゅが止まったのを見て、鹿型プロモンも鳴くのを止めた。




「……」


「……」




 再度、二匹は立ち止まったまま見つめ合い続けた。そして再び、りゅりゅが鹿型プロモンの方に恐る恐る近づいて行くと、鹿型プロモンもまたもや鳴き始めた。




「ゲッ!ゲッ!ゲッ!ゲッ!」




 一回目より大きな声で鳴きだした鹿型プロモンに驚き、りゅりゅはまたまた立ち止まる。りゅりゅが止まったのを見て、鹿型プロモンもまた鳴くのを止めた。




「……」


「……」




 三度、二匹は立ち止まったまま見つめ合い続けた。




「……」


「……」


「が、がるー?」


「……」




 鹿型プロモンは何もせず、ただりゅりゅを見つめるだけだった。りゅりゅが声をかけても反応せず、ただただ見つめるだけであった。




「が、がるー?」


「……」




 全く反応が無い鹿型プロモンに、りゅりゅが更に近づこうとして一歩を踏み出したその瞬間、突然、鹿型プロモンはりゅりゅに向かって走り出した。




「がる!?」




 りゅりゅの目の前に鹿型プロモンが接近して、足を振り上げる。【蹄鉄ハンマー】の構えであった。




 りゅりゅが躱そうとするが、躱そうと移動したその先に向けて鹿型プロモンが足を振り下ろした。




 ドオオンと音が立ち、土煙が上がった。

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