第2話



 ハアッハアッ




 とにかく、逃げろ…ッ!




 頭の中に占めていた感情は、ほとんど本能に近いものだった。


 なんで男がいたのか、なんで、ナイフを持ってたのか。


 いちいち考える時間はなかった。


 玄関を飛び出て、外へ——



 クソッ



 思い当たる節はなかった。


 ただの不法侵入者だとは思うが、じゃあなんで追ってきてる!??


 後ろを振り返ると、その男が追ってきてた。


 ここら辺は見晴らしがいい場所だった。


 田んぼや雑木林が広い土地の中に横たわっている。


 状況が状況だけに、広い場所が仇になっていた。



 逃げ場がない



 そう思ったのも束の間だった。


 石ころか何かに躓き、転んでしまった。




 「ハアッハアッ…」



 立ち上がる気力がなかったわけじゃない。


 地面に転げ落ちた時、まだ走れる余力はあった。


 思うように体が動かなかったのは、多分焦ってたからだ。


 焦りすぎて酸欠になってた。


 目の前がクラクラして、視線は覚束なくて…



 這いずるように腕を動かしながら、自由の利かない足を動かそうとした。


 でもダメだった。


 近づいてくる気配を感じて、バッと振り向いた。


 男はすぐ目の前にいた。


 ナイフの刃をこっちに向け、ゆったりとした足取りで。


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